不思議な夢を見た
こんな夢を見た。
僕は強い使命感に囚われていた。根拠も何もない、それでも揺るがすことのできない確信が、僕の心を占めていた。必死に目的地へ急いだ。自分の歩く速度と、周りの風景の移ろいに現実離れした差があって、その違和感に僕はもどかしさを覚える。
右手側には坂があって、川の音のする方へ下っていた。遠くには山が望めて、綺麗に均された斜面には、果物畑が控えめに存在を主張している。左手側には小屋があって、僕はその中に何があるか知っている。たくさんの米俵が積まれていて、錆びた三輪車やスコップも置いてある。誰が犯人か知らないけれど、木戸の鍵は壊れていて(初め、僕が疑われた)、強い風が吹くといとも容易く開いてしまう。それが、この小屋の持ち主の悩みなのだ。――だがそれは、今は関係ない。
僕は正面に見える上り坂へ急いだ。あの坂を少し上ったところに、僕が暴かなければならない秘密がある。あそこで何事かをしている彼らは、絶対に何かを隠している。どんな隠し事なのかはまるで知らない。だけれど、それを暴きにいくのは子ども特有の好奇心からではない。とても強い使命感からだ。
左右の景色が不意に近づいたり、遠ざかったりする中、僕は坂を上がりきって、トタン屋根の建物に辿り着く。遠くから見たことは数え切れないほどあったけど、手で触れられるほど近くで目にするのは初めてだった。僕は躊躇うことなく、その建物に入ろうと扉に手をかける。
室内から伝わってきたのは、むわっとした熱気と、鼻についていつまでも抜けない、苦い臭いだった。思わず顔の前で手を振るが、それで臭いが消えてくれはしない。鼻をつまみながら、先刻より鈍くなった足取りで奥へと向かう。
ようやく、見覚えのある顔を見つける。僕の祖父と父親が、少し汚れた揃いの作業着姿で、見たことのない機械を動かしている。がしゃんがしゃんと、不気味な音を規則的に繰り返させて、黄色く、細長い葉を束にまとめ上げていく。
「それは何?」
僕の声は光の中で反響しているみたいだった。ぱあんと、その辺に浮かんで、離れたところで響く感触。
「おれにはわからねえがな」
答えるか躊躇している風の父は黙っていたが、祖父はぼそぼそと語りだした。
「世の中にはこれがないと生きていけない人たちもいる」
声はあちこちから耳に届いた。入口から投げられたり、耳元で囁かれたりした。
「いつか、お前にもその意味がわかる」
不思議な夢を見た