天使狩人 11
前回と同じ
明るい何もない部屋に三人、天使狩人がいた。正確には、一人だが……。一応、全員同じ格好をしている。洗礼の際に改められるのだ。動きやすそうな素材をした長袖のシャツ、体に無理な動きをしても破けそうになさそうなズボン。ダークは黒色を、シーラは白色を、ソーマは青色を。
「まずは、お疲れ様だ」
ソーマは言う。
「これで晴れて、正式な天使狩人だ」
「どういうことだ?」
「だから、今ので生き残れた者だけがちゃんとした天使狩人に成れるってわけだ」
理解した……そして、怒りーー。
「なんで、殺させた?」
「殺したのは天使だ」
「いいや、あんたが殺すようにしむけたんだ!」
声が荒くなる。そんなダークをシーラは見守った。
「ここは、天使世界だ。強いものが弱いものを喰らう世界……つまり、弱肉強食の世界なんだよ。そこで必要なものは強さ! 弱いものは、死ぬ! だから、強さが必要なんだ!」
確かにそうだ。
ーーでも…………。
「説明も無しにほうりこんだら、死ぬのは大半だ! チームを組んで戦えば死ななかったかもしれないし、説明していたら覚悟が出来たかもしれない! 何故、何故……やらなかったんだ!」
暫くの沈黙…………。
「わかった。やってみよう、今から君は天使と戦う。これは、正式に天使狩人に成るためなので、絶対に勝つこと。なら、行ってこい!」
「は? ……いや、あ ああ?」
戸惑っている最中に、魔方陣が足元に浮かび上がった。まるで、死んだ魚が水面に浮かび上がってくるように……。
刹那、体が飛ぶ…………。
何にもない……先程の部屋と同じように思わせるほど、何もない。見えるのは一面、乾いた土の色……。
「ここで何がーー」
燃え上がる音ーーーー。
天使
じゃない。
鯨に、翼をつけて、嘴(くちばし)を鳥にしたような怪物……。
ーー天使なのか?
『グオオォォオ』
咆哮……。
威圧感……。
死の匂い……。
「なっ!!!」
世界はーーーーあまりにも残酷だ……。
武器を異空間魔法によって召喚する。ダークの利き腕、つまり右腕だが、その部分のみ明るい光に呑み込まれる。そして、その光が消える時……ダークの手には一つの日本刀があるのだ。
名は「神黒刀」。黒く光り、長い太刀……それが、ダークの武器である。
天使は飛んだ。背中らしき部分から翼という突起物を使用して……それは、あたかも豚が空を飛んでいるように思わせた。ただ、豚ではなく嘴を持った鯨だが……。
ーー何かくる!
反射ーー、それがなかったら恐らくダークは屍と化していただろう。
怪物のような天使が、飛ぶことを止めた時……嘴から何かが飛んできたのだ。ダークは知らないが、それは嘴だったのだ。
嘴の発射は止まらない。しかし、ダークは全て防げていた。洗礼のおかげが、動体視力が上昇していたのだ。そして、日本刀を振り回せるだけの筋肉……。
足は震える。
ーー死ぬのか? そのうち、殺される? もう……、駄目だ。
諦めた。
この状況、勝ち目はない。
たまたま、防げていただけだ。
多分、死ぬ……。
だったら、死を待ちたくない。
はやく、死にたい。
焦りが体に出てきている。
完全に天使を目前にしてからだった。
わかっている恐怖……だからこそ、より一層恐怖を感じてしまう。説明をされているぶん、どうすればいいのかわかる。しかし、問題は恐怖に打ち勝てるか、だ。恐怖に打ち勝ち、思うように体を動かせれば勝ち目はある。
人間が恐怖をもとに戦うことには限界がある
ダークは、恐怖に負けた。一度、負けるとどうしようもなくなる。わっていても、体が動かないのだ。
もしかしたら、ソーマはこの事態まで想定して送り込んだのかもしれない。
ーーもし、そうだったら……、俺はバカだ。
その時、天使から嘴が発射された。
ーー死ぬんだ……。
バヂイィィィイイ
放電の音……。
「おい! しっかりしろ」
そこにはーー。
天使狩人 11
続く