死神と私

死神と私

ある夏の日

1
ちょっとしたことで気を失った中二の夏。3日間眠っていた私に何が起こったのかはわからないが、その日から私には死神が見えるようになった。
「お前、俺が見えんのか」
「…」
「あからさまに目を反らすな。絶対見えてんだろ」
「…ミエテマセーン」
「絶対見えてんだろ」

2
「ねぇ、なんでついてくんの。私が中二病みたいじゃん」
「どういう意味だ」
「だって死神連れて歩いてるやつなんて見たことある?!」
「それを死神に聞くなよ」
『ねぇ、みて。なんか1人でブツブツ言ってるよ』
『きもちわるーい』
「……しにてぇ」
「お、死ぬか?」
「おめぇのせいだよ」

3
「(おい!学校にまでついてくんじゃねぇよ!)」
「大丈夫だ。俺の姿は普通の人間には見えない」
『おはようみきー!みんな心配してたよ!』
『気分は平気か?お前のことを思うと夜も眠れなかったぞ』
『みきみきみきみきみきみき』
「だ、大丈夫だったよ。ただちょっと倒れちゃっただけ」
『そうなんだ。でもなんか…死相が』
『俺の右目が疼きやがる。お前の後ろのそいつはなんだ?』
『みきみきみき!?みきみきみききききききき?!』
「な、なんでこいつらにまで俺の姿が」
「見えてないよ。中二ってみんなこうなんだ」

4
「なぁ、授業って受ける意味あんのか」
「……」
「なぁ、無視すんなよ」
《だ・か・ら!話しかけんな!》
「じゃあそうしてノートに書け」
《めんどくさい》
「そう言いながら書いてんじゃねぇか」
《…死神ってそんなにおしゃべりなの?》
「死神による。人間と一緒だ」
《そっか》

5
《死神にも寿命ってあるの?》
「うーん。あるといえばあるし、ないと言えばない」
《死にたいときに死ねるの?》
「そういうわけでもない」
《じゃあ何?》
「お前らの寿命を貰う。ちなみに俺はあと7日間生きられる」
《短っ!早く寿命奪いにいきなよ》
「簡単に言うな」

6
「寿命を奪うのにもルールがいるんだ」
《どんなルール?》
「まぁ、簡単に言うなら“取り憑いた相手の寿命を貰う”だ」
《へぇ…。今誰に憑いてんの?》
「ルール2。“死神が憑いた人間には死神が見えるようになる」
《なるほど、直ちに消えてくれ》
「ルール3。寿命を貰うか死ぬまで取り憑いた人間からは離れられない」
《おいまじか》
「安心しろ。強制じゃない。あくまでも契約だ。お前が受け渡すと言わない限りはお前から寿命は奪えない」
《私ルール1。死神さんには悪いけど、寿命はあげられない》
「だろうな」
《私ルール2。学校では話しかけないでほしい》
「すまん、多分無理だ」
《私ルール3。ルール2を守れた場合、7日目に寿命の契約をして上げる可能性がある》
「……」
《よろしい》

2-1
「あー疲れた。ほんと勉強嫌い」
「なら学校に行かなければいい」
「でも学校に行かないと友達に会えない」
「じゃあ学校じゃなくて公園に集まればいい」
「だ・か・ら!そんなに簡単なことじゃないの!」
『みて〜またあの子1人で話してる』
『きもちわるーい』
「…またやってしまった」
「お、死にたくなったか?」
「お前が死ね」

2-2
「……」
「……」
「公園ってあんまり楽しくないな」
「えー?私は楽しいけど」
「振り子みたいに揺れてるだけだろ?」
「それがいいんだよ」
「斜面をケツで滑るだけだろ?」
「それがいいんだよ」
「砂場に肘まで埋めて逆立ちしてるだけだろ?」
「そんなことやってねぇだろ」

2-3
「お前んちってなんもねぇよな」
「確かに何もないね。でも私はこれぐらいでいい」
「この前行ったお前の友達の家はすごかったな」
「あれはちょっと特殊だよ。ラブリーにしすぎだし、あんなにぬいぐるみがたくさんある部屋で眠るとか無理」
「どうして?」
「だって動きそうじゃん」
「どうして人形が動くんだよ」
「霊的な?」
「よし、お前には教えとく。おばけなんていねぇんだぞ」
「お前が言うのかよ」

2-4
「…まぁ別にいいんだけどさ、死神だからって見ていいもんと悪いもんの区別ぐらいつけてほしいよ」
「なんだよいきなり。何の話してんだ」
「いや、だからね、年頃の女の子のトイレとかお風呂にまでついてくんなって言ってんの」
「それは年頃じゃなくてもだめだろ」
「あ、そっか。…てか分かってんならくんなよ」
「……」
「くんなよ」
「……」
「どこ見てんだよそれ」

2-5
「……」
「……」
「…寝た?」
「……」
「もう寝た?」
「……」
「ねぇ、ねて」
「うるせぇな!何で私のベッドで寝てるんだよ!でてけ!」

2-6
「……」
「……」
「……」
「…くぅー」
「……」
「…くぅー」
「……」
「………」
「……」
「…くぅぅー…」
「(死神かわいい)」

3-1
「…ん。やべぇ。寝坊した」
「お、やっと起きたか」
「うん。おはよう」
「おはよう」
「今まで何してたの?」
「お前の寝顔見てた」
「…は?」
「寝言で助けてーって言ってたぞ」
「…なんかドキッとしたかも」
「ん?なんだ?」
「なんもー」

3-2
「おーい。なんで無視すんだよ」
「(私ルール4。路上でも話しかけないこと)」
「えー。じゃあ死神ルール4。お前の正面でずっと変顔しとく」
「……ぶっ」
「ねぇ今笑った?笑った?」
「…笑ってねぇよ」
「最初からそうやって喋ってよ」
「うるせぇなー。お前は女か」
『またあの子だ…。なんかほんとに誰かと喋ってるみたいだね』
『何言ってんのー。さすがにないっしょー』
「あれ、なんかリアクション変わってる」
「慣れてきたんじゃねぇか?」
「いよいよ私やばい人じゃん」

3-3
《今更だけどさ、死神にも弱点とかあるの?》
「あるわけねぇだろ」
《そっか。幽霊には塩まくといいって聞くけど、塩とかは?》
「俺は幽霊じゃないからな。塩とか…別に。うん。大丈夫」
《ほんと?》
「当たり前だろー。なんだよー」
《5、6時間目家庭科なんだけどさ、その時に試してみていい?》
「は?やめとけってお前まじで。それはやばいって。空中に塩撒いてる女はやばいだろ」
《別に?ただ試しにかけてみるだけだよ》
「すいませんでした。それだけは勘弁してください。死んで詫びます」
《もう死んでんじゃん》
「あっ」

3-4
「はぁー昼休み暇ー」
「屋上なんかで転がってないでみんなと遊べよ」
「うん、それいいんだけどさ、なんか子供の遊びっていうか…そんなに好きじゃない」
「お前も子供だろ?」
「そうなんだけどさー。なんか気を失ってから私は今をあまり楽しめなくなった」
「なんだ?噂の中二病か?」
「…かもね」
「おい否定しろよ」

3-5
「おいお前マジでやってくれたな。塩だけはやめろって言ったろー」
「いやーごめんごめん。まさか本当に弱点だったとは」
「もう2度としないでくれよ。残り少ない命なんだ。穏やかに死なせてくれ」
「あれ?死神は死ぬ気なの?」
「…あぁ。もう頃合いかなって」
『死神だってー…。本格的にやばいねあの子』
『あー。なんだ。あの後ろの奴のことだったんだねー』
『えっ』
「えっ」
「えっ」

3-6
「明日で最後じゃん。明日のいつ死んじゃうの?」
「お前が4時間目の授業を受けてるぐらいかな」
「へぇー。怖い?」
「いや。むしろ清々しいさ。今までいろんな数の死を見てきたからな」
「ならいいね。…いいのかな?」
「いいんじゃないか?俺がいいなら」
「そうだね」
「…今日はこのままベッドで寝ていいのか?」
「もう遅いし寝よう。おやすみ」
「…こっち向くなよ」
「早く寝ろばか」

4-1
「…あれ。おはよう」
「おはよう死神さん」
「今日は早いな。今まで何してたんだ?」
「寝顔見てた」
「…そうか」
「死にたくないよーっていってたよ。死神が」
「悪いか?」
「ぜーんぜん。そりゃ死にたくないよね」
「どうだろうな」
「素直じゃないなぁ」
「俺もそう思う」

4-2
「あ!あの、すいません」
『あ、はい!はい!はい!なんでしょうかっ』
「貴方じゃなくて、お隣の…」
『うーん?うち?』
「そうです。突然変なことをお尋ねするんですが、私の後ろにいる死神が見えますか?」
『あー。その前髪長い黒装束のイケメンのこと?』
「…!そうです!やっぱり見えてるんですね!」
『わ、私先いっとくね』
『ごめんね、私もすぐ行くわ。…で?そいつが何?』
「あ、えっと…なんで見えるのかなって」
『んーわかんねぇけど、うちが寺やってるからじゃね?遺伝だよ遺伝』
「じゃあこれは…おばけってこと?」
『さー。でも人じゃねぇことは確かだな。他の奴には見えないっしょ?』
「うん」
『じゃあまぁ、あんまり人いるとこじゃしゃべんないほうがいいかもね。変人扱いされるし』
「うん。なんか…その、ありがとうございます!」
『別になんもしてねぇわ。じゃあね』
「ばいばい。…なんか嬉しいな。私以外にも死神さんが見える人がいたんだね」
「らしいな」

4-2
「おはよー」
『みきおはよー!今日も調子良さそうだね』
『おはようみき』
『みきみき!みきみき!』
「みんなおはよう。いつもほんと元気だね」
『みきみ…死神死神!しにしにしにー』
「お、おい。こいつには俺が見えてんのか?」
「…らしいね」

4-3
《あと2時間だね。気分はどう?》
「いちいち聞くな。静かに死なせろ」
《ここにきてビビってんでしょー?分かるよ》
「何が分かるだ。分かるわけねぇだろ」
《いや、分かるよ。私も怖かったもん。倒れた時》
「…」
《あー死ぬんだーって思ったら目が覚めて、でも死神さんが近くにいたから、やっぱり長くはないんだーっと思った》
「何だそれ」
《笑ったー。死神さんが笑ったー》
「可愛かったからニヤけたんだよ」
《……》
「なんか書けよ」

4-4
「ふぅ。ついにやっちゃったね」
「だな。ほんとお前は馬鹿だ」
「でもいいね、なんか自由になった感じ。授業を抜け出すって素敵」
「で、なんで屋上なんだ?」
「最後はこういうちょっとした場所がいいかなと思って」
「いらねぇよそんな配慮」
「なんていうのは冗談で、ただ最後の話がしたかったからさ」
「いいじゃねぇかノートですれば」
「やだー時間かかるし指痛くなるし」
「それもそうだな」
「さて、それじゃあ本題なんですが…」
「なんだよその目は」
「私の残り寿命の半分を死神さんにあげようと思います」

4-5
「…そうか」
「どう?嬉しいでしょ?」
「確かに嬉しい。7日前の俺であれば喜んで契約しただろうな」
「…え?どういう意味?」
「残念だがお前から寿命を奪うことはしない。俺はこのまま死神を終え、死ぬ」
「……」
「よかったな。わざわざ俺に寿命を与える必要はなくなったぞ」
「……」
「おいおい泣くなよ。ここは笑うとこだぞ。『なんだよー』つって」
「…やだ」
「残念。俺に触れることはできない。俺は死神だから」

4-6
「どうして……。いいじゃん。素直に貰えば」
「お前の人生だ。大事にしろよ」
「死んでほしくないの!楽しかったじゃん!いっぱい話ししたじゃん!」
「おいおいさっきまでとは真逆だな。死ね死ね言ってたのに」
「男子じゃないけど好きな人にちょっかい出したくなるの…」
「残念だがほら、何度もいうが俺は人じゃない。お前とこうして生きていくのもいいが…そう思えたからこそ、俺はお前を思って死にたい」

“初めてそう思ったんだ”

「ずるいよ…そういうの…」
「前向いて生きろよ。まだまだこれからだぜ。お前の人生」
「わかってるよ…」
“…”
「…あれ…?嘘だ…。ああぁ…。ああぁあぁぁ…あああああああああっっっ…」

屋上で崩れ落ちた私は、しばらくその場で泣いた。数10分後、私を探していた教師たちによって職員室につれていかれ、取り調べのような説教がしばらく続いた。
そんな中2の夏だった。

死神と私

もう2度とない夏を過ごした女の子でしたが、口が悪すぎて男の子みたいですね。
でもあの、ちょっと背が低くて、目があまり空いてなくて、髪は短めで、メガネをかけていて、たまに見せる笑顔が可愛いみたいな、そんな子です。今回の子は。

死神と私

(…やべぇ。目が覚めたら目の前に死神がいるんだけど)

  • 自由詩
  • 短編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-10-07

Public Domain
自由に複製、改変・翻案、配布することが出来ます。

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