黄原弥生子が生きる意味を失った理由

黄原弥生子は自分の幸せをみつけられたのだろうか

夏の雲が顔を覗き始めたころ、教会の鐘が鳴った。
緊張しつつも幸せそうに目を閉じた新婦に黒髪の新郎が見せつけるかのように誓いのキスをする。

私は虚ろな目で手に持っていたハンカチをみつめ、2度目の死を迎えた。


黄原弥生子が生きる意味を失った理由


私には17歳の時から好きな人がいる。同じクラスの朝霧くん。彼は男子にしては少し華奢で真っ黒な髪が印象的だがこれといって特別整った容姿なわけではない。彼のどこに惹かれたのか私自身よくわかっていない。
自分の気持ちに気付いたのは高3の春。初恋ではないが気付くのに9ヵ月もかかっていた。というのは嘘で本当はすぐに気付いていた。ただ友人に相談する勇気がなく「最近気付いた」と嘘をつくはめになったのだ。というのも私の友人の殆どは恋愛に興味がなく、その中で「好きな人がいる」とはとても言い出せなかったのが本音である。
友人は6人いる。だがそのうちの4人とは他人の恋の噂すらしなかった。変顔をして合成して面白い画像にしアルバムに保存をする…恋愛とはどうみても無縁だ。なので他の2人のどちらかに相談するつもりであった。迷わず彼氏のいるあかりちゃんを選んだ。もう1人のみくちゃんは天然すぎるのだ。相談する内容はもちろん「告白すべきか、するならばいつのタイミングがいいのか」である。だが、今となれば後悔しかない。誰かに相談せずに死ぬまで私の心の中だけに留めておけばよかったと時々感傷的になる。

結論から言おう。私はふられた。あかりちゃんに「男なんて星の数だけいるよ」と慰められた。だが私は悪く言えばあかりちゃんにはめられたのだ。朝霧くんとみくちゃん、正直かなりいい雰囲気だと思ってはいたが本当に付き合っていたとは知らなかった。高2のクリスマス頃から付き合ってたらしい。あかりちゃんはこのことを知っていた。知っていた上で私の恋を応援し告白することを勧めたのだ。最終的に告白しようと決断したのは私だが、彼女がいるって知ってるのなら言ってくれよ、と心の底からあかりちゃんを憎んだ。朝霧くんとみくちゃんは自分たちの関係を秘密にしてきたらしい。だからあかりちゃんは私が告白するまで言わなかったそうだ。あかりちゃん本人は「弥生子のため思って」とか言い出しそうだな。そんなに知られたくないのか、朝霧くんに片想いしてる私すらも知ってはいけないことだったのか。なぜあかりちゃんは2人の関係を知ってるのかって?みくちゃんに無理矢理問い詰めて聞き出したそうだ。みくちゃんももう今まで通りの友人ではない、あかりちゃんは人として関わりたくない、朝霧くんだけが「これからも俺の大切な友人のひとりでいてほしい」と私に言ってくれた。だが彼ももう遠い過去の人。私は大学進学と同時に彼のことは忘れようと逃げるように地元を去った。


大学を卒業して社会人になって3年後、自宅に綺麗な封筒が届いた。結婚式の招待状だった。みくちゃんと朝霧くんの結婚式の招待状だった。

実はみくちゃんとあかりちゃんとは高校を卒業するまではそれなりに仲良くしたが、卒業してからは一切連絡をとっていなかった。私が全て切ったのだ。招待状を出したのはおそらく朝霧くんだろう。なぜか朝霧くんとは高校を卒業してから連絡が活発になり、ここだけの話、私と朝霧くんとあかりちゃんの彼氏でゲームのパーティを作っていたのだ。
朝霧くんは「俺、来年の6月に結婚式を挙げようと思ってるんだ。今年度中には籍を入れたい」って喜んだ声で敵を刺殺しながら私に報告するもんだから、つい、「参加したいから招待状出して」なんてことを口走っていたのである。

そんなこと言ったなと思い出しつつ封筒を開けた。
ドレスも買わなきゃ。朝霧くんは私の誕生日プレゼントに黄色いハンカチをくれたんだ。あれを持っていこう。
黄色いハンカチ、黄色いハンカチ、黄色いハンカチ黄色いハンカチ黄色いハンカチ…



私、白いハンカチしか持ってなかったっけ?





あぁ…そうだ、朝霧くんにふられてから私の世界は死んだのだ。彩の無い、死んだ世界で、死んだように生きている。



「私、朝霧みくにとって彼は1番星です。どの星よりも1番輝いていて、私は彼をすぐにみつけられる。私は彼を運命の人だと心の底から思っています。」

「私、黄原弥生子にとってあの人は太陽だ。唯一無二の存在で眩しいほどに輝いていて、私はあの人をみつめることすらできない。私はあの人なしでは生きていけないのだ。」

男なんて星の数だけいる?太陽は一つだ。

私ほどあの人を愛している人はいないのに、あの子よりあの人を愛してるのに報われないこの世界に希望を抱けない。死んだ世界なんて生きる意味がない。黄色いハンカチ、最後までどこにあるのかわからなかった。

黄原弥生子が生きる意味を失った理由

黄原弥生子が生きる意味を失った理由

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-10-06

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted