そうだインドに行こう。5

+ - 0?

眠れるのか?
起きれるのか?
寝不足で辿り着いたインド。
僅か数時間後 初日が始まる。
寝てしまって 4時に起きれるのだろうか?
かと言って 不眠のまま 丸1日 ちゃんと楽しみ乗り切れるのだろうか?

前述した通り
この当時 スマホはおろか 携帯もパソコンもありませんでした。
よって携帯でアラームの設定なんて便利な手段も当然ありません。
日本語の通じるアニルは既に別れ
部屋に1人。
モーニングコールを頼む語学力も度胸もありません。
選択肢は自ずと決まります。

寝ない。
前日 90分程度の仮眠からの
完徹コース。
眠らない。そう決めると逆に襲ってくる睡魔。
到着早々 なんともドタバタなスケジュールです。
身体を横にしたり椅子にもたれかかりした上で
目を閉じようモノならば 僅かな時間で深い長い眠りに落ちてしまうだろう。

己との戦いに勝ち
気だるく 鉛の様に重い身体を引きずり
早朝4時 ロビーへと向かう。

大まかなスケジュールには目を通してはいたのだがそこに移動時間及び所要時間の記載は無かった。自業自得なのだろう。しっかり予習しておけば移動距離等から大まかな予想も立てられた筈。
そうすれば ここまで寝不足で初日を迎える事は無かったのだろう。

何はともあれ
旅行初日。向かうはインドの聖域 ガンジス川。
信仰と生活の拠点とも言える場所。
薄暗い中アニルに先導され 1隻のボートに乗り込む。大きな川の中腹に進み このまま待ち
水上で日の出を見ると言う。
徐々に明るくなり始めると川岸に居る沢山の人達が目につく様に。お祈りをしてる人、洗濯をしてる人、身体を洗う人・・・アニルが言うには焼いた遺体の灰も流すそうだ。
物理的に見ると 水は汚い。
聖域とは精神的な部分での尊重なのだろう。

程なく陽が昇り始めた。
心情のせいだろうか?今まで見てきた太陽よりも ずっと赤く見える。燃えている様でいて それでもどこか包まれる様な優しさを感じる不思議な赤。
段々と高くなり周囲の闇夜を吸い込み染め上げる様に景色の色を変えていく。
圧巻の一言。
「来てよかったなぁ・・・」
と 感動に1人 呟く自分。
突然 アニルの言葉が襲いかかる。
『後ろ 見ないでください・・・』

「え?」
見るなと言われてるのに 条件反射の様に振り返ってしまった。
が、特に何も見当たらない。
他のボートが1隻居るだけだ。
「何かあるの?・・・
そうアニルに聞き返そうとすると
そのボートがぐんぐんと近づいて来る。
まさか 海賊ならぬ川賊?
しかし どう見ても向こうのボートには1人しか乗っていない。こちらは3人が乗っている。
数の利は明確だ。しかし銃器を持っていたらどうにもならない。ここは日本ではないのだから可能性として無いとは言い切れない。
近づくボート
激しくなる鼓動
緊張で汗ばむ手を握りしめる。

ボートが並ぶ。

すると
ボートの男は陽気な笑顔でなにやら捲し立てる様に言葉を発し続ける。
日本語ではないので 勿論 理解できない。
ふとボートに目を向けると
小さな仏像やら民芸品などがズラリと並んでいる。
「ん~?」と首を傾げていると
『だから見ないでっ言ったのに』とアニル。
どうやらこのボートは移動式土産屋らしい。
次々に商品を持ち替え 猛烈なアピールをしている。
『こうなるとしつこいんですよ。視線あわせなければ来なかったんですが・・・』

知らないよ‼
それなら そうと 事前に説明しとけよ‼
アニルの言葉に軽い憤りを感じながらも グッと堪える。土産屋を無視して朝日を眺める。
しかし一向に去らないボート、止まないアピール。
諦める。負けです。
何か買いますよ。
商品をざっと物色し
小さなガネーシャの置物を買う事にした。
インドの特徴だろうか日本が地味なだけなのか
そのガネーシャを含め並べた仏像はみなカラフルな造りになっている。
元々 仏像に興味があってのインドだ。
遅かれ早かれ買うつもりだったから。
そう自分に言い聞かせる。

そんな やり取りしてる間にすっかりと陽は昇り
辺りは明るさを増し より賑やかになった様に感じる。何と言うか余韻みたいなモノをぶち壊された気分です。自業自得なのでしょうか?

ボートを岸につけ
辺りを歩きながらアニルが色々な説明をしてくれる。目を引いたのは色彩的には地味なのだが重厚感漂う銀色の建物。ヒンドゥー教の寺院だと言う。「見たい!入りたい!」と申し出るも
信者、教徒以外は入れないとの事。
肩を落とし その場を離れる。
仕方ない。宗教だから冷やかしは受け付けないのも無理はない。この後 博物館で仏像を見る予定だから それで我慢しよう。
車に乗り、ガンジス川を離れる。
車は日本では見た事の無い車種
車内は運転手、アニル、自分の3人だけ。
後部座席に座るのは自分だけ。思わぬVIP待遇。
他の客が居なかっただけの話だが 得した気分。

程なく車は街中へと。
移動式土産屋を除けば 日本に比べてだか静かな国と言う印象を受けていたが この国にも日本と同じように朝のラッシュが存在していた。
窓の外を見ると 日本の少々古めの車が沢山走っている。何故か皆一様にドアミラーを畳んだまま・・・そして車が沢山走っているのにもかかわらず信号が無い。車線も無い。
そんな中、歩行者も自転車も牛も沢山居る。
恐ろしい光景です。
とてもじゃないけどこの場で車を運転する勇気と自信は湧いてこない。
方々で鳴り響くクラクションや飛び散る怒号。
呆気にとられている間にチョロチョロと車は進み街中を抜けて行く。

喧騒の街中を抜けると
また 穏やかな風景になる。どちらかと言うと自分が思い描いたインドはこちらである。

しばらく走って大きな門の前で車が停まる。
辺りは静まりかえっていて人の気配も無い。
するとアニルは車から降り、門の前まで歩いて行く。すると1人の守衛らしか男が姿を現し 何やらアニルと話をしている。
しばらく話が続き アニルが渋い表情で車に戻って来る。運転手にだけ何か伝え車は敷地内へと進み
大きな建物が視界に飛び込んで来る。
あぁここが博物館かぁ
でも 何故か人の気配が感じられない。
もしかしてまだ開館時間前なのではないだろうか。時刻はまだ9時を過ぎたばかり。
それならば人気が無いのも頷ける。
またアニルが車から降り、建物に向かって進んで行く。
そして門と同じように1人の守衛らしき男が現れる。そしてまた同じように何やら会話を始める。
話しながらアニルの身振り手振りが大きくなっている。それを遮るように首と手を横に振る守衛。
きっと早い時間の入館を頼んでみたものの断られてるんだろう。そう解釈する自分。
アニルが車内に戻って早々
『すいません。博物館 今日 休みです。』

「大丈夫だよ。ちょっと位の時間は待てる・・・
え!? 休み?・・・何か臨時の休み?」

『いえ。定休日。』

・・・はい?
そんなの調べずにツアーのコース決めてるの?
本気?・・・

時間云々ではなく
そもそも休みの日に何しに来たって話ですか。
そうですか。

わかったよ。
じゃあ今日のところは諦めるよ
次。次の何かだ。
次の場所へ行こうじゃないか!
そう気持ちを切り替えようとしていた矢先。
『それでですね? 今日の予定ここで終わりなので
宿泊するホテルに向かいますから』

「はい?」

嘘ではない様だ。
車はぐんぐんと進み
別の建物の前で停まった。

白い綺麗な建物
これが今日 泊まるホテル
現在時刻は約10時。

『私たちはこんな高級なトコには泊まれないので明日また迎えに来ます』

そう告げられ
ホテルに1人置き去りにされて立ち竦む自分。
いきなりのフリータイム。
およそ20時間にも及ぶフリータイム。
慌ただしかった旅が一転空白を投げ掛けて来たのでした。

そうだインドに行こう。5

そうだインドに行こう。5

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 青春
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-10-06

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