祖父との秘密
「キノコ狩りにでも行くか」
祖父がいきなりそう言いだしたのは日曜の昼のことだった。
夏休みの真っ最中、ミンミンゼミが鳴りやまない炎天下の8月に何を言い出すのかとタダシは不思議がる。
「今日はカケルとプールに行こうと思ってたんだけど」と断るタダシに祖父は迫る。
「いいから。いいもんがあるんだ」
いつにも増して祖父は強引だ。最近祖母が自分にそっけないからと言って、俺に当たるなよ。
そんなことを思いながら、「分かった。ちょっとだけだよ、じいちゃん」とタダシは裸足で畳を鳴らしつつ玄関へ向かった。
祖父がキノコ狩りに連れて行ってくれたのは家の裏山だった。
キノコ狩りをしようにも、どう見てもキノコは生えていない。
しかし祖父の足は軽やかだ。目的地を知っているかのようにずんずん進んでいった。
「ここだ」と案内されたのは裏山のずっと奥の林だった。
「…っ。じいちゃんこれ何…」
そこには見渡す限りに様々な色のキノコが生え、毒々しい色のじゅうたんを作っていた。
タダシがただ見とれていると、いつの間にか目の前に裸の女性が現れタダシを誘う。
祖父にもそれが見えているようだ。
女性は次々に増えていく。
「ふふふふふふ」
女たちは笑いながらタダシと祖父を取り囲んだ。
「な?来てよかっただろ」
祖父は得意げにそう言った。
タダシはもうプールのことなど忘れていた。
祖父との秘密