言いたいことはそれ

香奈は自分でも冷めてると思う。

合コンで「学生の頃って何かクラブ活動していた?」と男に訊かれれば一応答えはする。ただその後に男に同じ質問をしてあげる。そうすると「実はサッカーで県大会準優勝」といった輝かしいお話が出てくる。人は自分が話したい話題を問い掛けるものだ。その話したい話題とは「褒めて」ってことだ。男だって承認欲求はあるのだから。
そう思うから「ふーん」くらいの反応しか出来ない。もう少し「凄いですね!キラキラ」みたいな反応が出来るようになるべきだ。
そして彼等は香奈の仕事がエロ雑誌の編集だと知ると途端に冷める。喰いついてくる男はヤれると思ってるだけ。

雑誌は廃刊になってしまって香奈は転職した。今度の会社では大人しくしていようと思っていた。エロ雑誌の編集部というような自由な職場とは違う。鼻のピアスも随分前にやめた。
目立たず淡々と仕事をしようと思っていた。ミスをすれば怒られるが頑張っても褒められることはない。一般事務、非正規。高評価は有り得ない。

なのにやっぱり目をつけられた。正社員の女に「あんた自分のこと個性的だと思ってんでしょ」そう言われた。カチンときたが、そこはそれ冷静に。相手が言いたいことを読め。いざとなったら口喧嘩では負けないのだから。

「先輩は髪型もお化粧もみんなに合わせて頑張ってらっしゃいますよね、結構大変でしょ、私お化粧下手で」的にお答えすると「うるさい人もいるから気を付けなさいよ」という反応だった。うるさいのはあんた。

彼女が言いたいのは「あんたの服装は自由過ぎる」ではなくて「私は気を使って個性を殺してる」ってことだ。要は頑張ってるってことを認められたいのだ。

さて私は誰に何を褒めて欲しいのだろう。これを書いてることかな。

言いたいことはそれ

言いたいことはそれ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-10-06

Public Domain
自由に複製、改変・翻案、配布することが出来ます。

Public Domain