箱の華

どうしてこうなってしまったんだろう。


そう思うのも無理はない。なぜなら今友達の部屋でその部屋の主に押し倒されている。だが自分は彼女に決して押し倒されたわけではない。こんな第三者から見たらとんでもない誤解を招いてしまう状態をつくったのは、わたしのせいだからだ。

わたしは生まれてから友達はおろか他人の家にすら足を踏み入れたことがほとんどなく、大袈裟に聞こえるかもしれないが、友達の部屋へお邪魔することがわたしにとってはとても未知の体験であり、とても感動的なものだった。その反動もあり、少し、いや、かなり、まるでお上りさんのようにはしゃいでしまい、思いっきり転びそうになったところで、とっさに彼女の手を掴んでしまい、今に至る。
思い出すと同時に顔から火が出そうなほどの恥ずかしさが一気にせり上がってきて、彼女の顔もまともに見れない。こうなったのわたしのせいなのに。おそるおそる、彼女の顔を確認する。ばっちりと目が合った。頬はほんのりと赤く、目は少々涙目っぽくなっているが、その視線はわたしをしっかりと見据えている。そんな彼女の様子がわたしには愛おしく見えた。

そして、彼女の唇が一瞬震えたように見えたその瞬間、


キスを した

とても 甘い
とても やわらかい

とても ぎこちないキス


自分の中でなにかが満たされるのを感じた。キスしながら、またおそるおそると彼女の顔を確認する。赤い。紅い。一瞬だけ驚いたように目が見開かれたが、ゆっくりと目を瞑り必死にわたしのキスにこたえてくれる。時折、んぅ、と彼女の唇から可愛らしい声が漏れる。


なぜこんなにもこの子は愛しいのだろう。

なぜ?

この子が好きだから・・・?

わからない・・・


数秒、あるいは数分か経ち、ようやく口を離す。キスし終わった彼女の顔は真っ赤で完全に涙目になっていた。

やってしまった。

ごめんなさい、と一言だけ言い彼女から離れようとすると、着ているシャツの裾に違和感を感じた。まるで掴まれて引っ張られているような・・・そんな違和感を感じるのもその筈、彼女の手によって裾を掴まれていた。


「わたしたち・・・今・・・キスしたの・・・?」


今にも泣きそうで、消え入りそうな声だったが、わたしの耳にしっかりと届いた。


「うん・・・」


行為を思い出し、顔が熱くなるのを感じると同時に罪悪感が増す。なんてことを。なんて言えば。なんて言われるのだろう。どう言えば許してもらえるのだろう。彼女に拒否される前提でこの後をどうするか考えていると、


「・・・ねぇ、今のわたしたちって恋人同士なのかな・・・?」


予想していたのとは全く違うことを聞かれて少し拍子抜けをしてしまった。
しかし、


「・・・そう見えるかもね」
「・・・もうひとつだけ、聞いてもいい・・・?」
「・・・なに?」


今度こそわたしの行動を咎められる。そう内心覚悟して彼女の次の言葉を待つと、予想していた言葉とはまた違って、


「その、イケナイことなのはわかってるけど・・・その・・・えっと、もう一回したいって言ったら・・・ダメ・・・?」


返答の代わりに、もう一回、キスをした。

箱の華

箱の華

わたしと、同級生の彼女のおなはし

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 青年向け
更新日
登録日
2016-10-05

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