もしも私が増えたら
どっかの六子じゃあるまいし。
ああだこうだとペチャクチャ喋って、イェーイと手を叩きあった。
ある日、私が増えた。二人に。
どっかの六子じゃあるまいし、いやいや、と私はごろんと背を向けて寝直して、!?と向き直った。
私は私と色違いのメガネをかけ、スヤスヤと眠っている。
「美味い、美味いなー、婆ちゃんの飯は美味い!」
もう一人の私を、皆異形の者として見ている。私も含め。
ただ一人祖母だけが、そうか、たくさん食べんさいとご飯をよそっている。
従姉妹の赤ちゃんが来たので、私がチャリ銭持って立ち上がるともう一人の私もついてくる。
半ば逃げるようにスタスタ歩きながら、「へーこうなってんだ」とキョロキョロする私を振り返って、「あんた、何?」と聞くと、「私はあんただよ、わかってんでしょ」とへらへら笑う。
人の顔で、と平手を食らわそうとするとひらっと逃げてぴょんと土手の上に飛び乗った。
「あーあー、川の流れのよーにー」
ぴょんと飛び降りて、シスター、音楽タイムだよ、とアイフォンを振ってヘラヘラ笑った。
河原に腰掛け二人で一つのイヤフォンを使い、泉まくらの新曲を聴いた。
「こうしてさー、世界に嫌われたまんまなら、いっそ二人で過ごせばいいじゃん」
そう言う私を見て、その左手に傷があるのにどきりとした。
私には、無い、そんなもん。
あんた、ほんとどっから、そう言う私をよそに、「ここは良いね、父さんも母さんもいて、犬も生きてて、世界は平和だ」
と、振り返って、「あんたをほっといてくれる」と言って笑った。
私は何だか口を噤んで、「ここに来れて良かったね」と立ち上がって笑ってやった。
そうだよ、イェーイ!と奴が手を出すので、私はそんなキャラじゃ無い、と言いながらイェーイと叩いてやった。
米屋でジュースを買って、また戻って来ると、「あたし、あそこで買い物するの、夢だったんだ」とぐすぐす泣いている。
何を大げさな、と言うのを我慢して、うん、そうだったねと頭を撫でてやった。
さ、そろそろ行くわ。
パンパン足を払って立ち上がり、ふわりと空に浮いた。
じゃあねー、あ、アイフォン返すわ、と投げられて、慌てて拾って見上げたら、カラスが一羽、羽ばたいて飛んで行った。
やれやれ、死神が去った。
私は安心してブドウジュースを飲み、奴が買ったあんぱんを齧った。
うちに帰ると一人分食事が多くて、あの子は?と聞かれたので、知らない、帰った、と答えて、この日はご飯をお代わりした。
命が満腹してる。そう思った。
もしも私が増えたら
書き終えました。