DENNOU/始動編 #3

ニューヨークの一角にある世界連合政府の旗が掲げられたビル。かつてここは「世界統一連合政府」本部と呼ばれていた。ビルの8階の広々とした議場。ここでかつては"旧各国"の代表者、世界主要な為政者、金融財閥、富豪らが議場で議論、憲章を制定されていたが、連合政府樹立100年した現在はアジア、ヨーロッパ、アメリカ、アフリカ、オセアニアの代表者が出席して会議を推し進めていた。

「このようなことを口にするのは懸念されるが、人類の存亡がかかっています」
第6代目世界連合政府総裁、アルファード・コペルニクスが声高に叫ぶ。緊急会議は始まった。
彼もそうだが、各々の顔は強張っていた。それもそのはず、世界各地でロボットが反乱を起こしたのだから。

「ヨーロッパ、アメリカ、アジア、オセアニア、アフリカ、それぞれの地域の状況を願いたい」

「アジアは東シナ海、太平洋で連合政府海軍、無人の原子力艦隊を相手に戦闘状態に入れり・・・・・」
アジア代表のテル・ヒロタ統領が文書を読み上げる。

それに続くかのようにそれぞれの代表者が急いで立ち上がり、文書を読み上げる。
手は震えているのがすぐ確認できる。緊急事態であるから・・・・・・。

「ヨーロッパ、特にブリテン島で熾烈な航空戦、海戦、陸戦が繰り広げられ・・・・・・」

「オセアニア、ロボット兵団が一部将校に反乱、政府軍と一発触発の状態の模様」

「アフリカ、エチオピア方面で異変があり、ロボット叛乱軍と陸上戦に。全土に戦闘は展開されておらず」

どこもかしくも”ロボット”による反乱が原因であった。
人類の戦争は形態を変え、ロボット兵団を駆使した戦争が主要であり、苦節のうちに世界は連合政府の樹立に成功した。そして人類の軍事力を全世界の電流、電気を通ずるあらゆるモノを司る”電脳”にほぼ一任に近いカタチで担わせた。

しかし、電脳は感情を持っている。いや、ロボットは感情を有するのは当たり前となった今、連合政府の強制的な、あるいは圧政的な"チップ"、"ナンバー制"に代表されるような人民抑制に疑念を抱いたのだろう。

いわばロボット兵団は一般地球市民を世界連合政府の手から救おうではないか、と脳は判断し、"彼"を総帥とする各地のロボットは兵団に関わらず反乱に至った。
その電脳の所在地は一般的には明らかにされていない。一握りの者たちにしか知らないことであった。この世界連合政府の総軍代表のジェイミー・ボヤンスキー元帥、そして連合政府のまたさらに上に位置する"上層会議"のメンバーにしか分からなかった。

「最悪である・・・・・・。ここアメリカ本土も長くはもたないだろう。原発院からの報告に世界の原発はメルトダウンしているのだ」

苦渋の表情を浮かべ、声を振り絞るコペルニクス。周りの各州の代表者は驚きの表情はみせなかった。まるでこの状況に諦めているかのうように。


「総裁、それは承知のこと。元をただせばあの電脳とかいうバカコンピューターに頼りすぎたからだ!」
アフリカ代表、フェードン・ルルーシュは声を荒げる。彼はアフリカの統領でありながら"文明進歩批判論"なる自論を呈し、世界で議論を呼んだことがある。
アフリカ代表選ではアフリカ人から熱烈な支持を得、選ばれた。何度か政治活動に於いて妨害や命を狙われたことがあった。やはり彼をよしとしない一部の人らがいたのは事実であった。

「君、弁えたまえ!今更、そんなことを言って何になる!ふざけるな、一刻も早く対策を練らねばいけないのだぞ!」
 
「落ち着け!もう、そんな問答などいらん!人類は滅ぶ!何事も不滅などありえん。しかし、今滅んではどうしようもならない。なんとかこの星を延命し、未来に託そうではないか!」

総裁議長はルルーシュとヨーロッパ代表のジョージ・ルイの報酬の仕合を制止させた。
 
「どうしてそんなことが言えるのだ!もう、この星は放射線で汚染されるではないか、一生を防護服で過ごすなんて可能であるのか?食物は?さぁ、どうなるんだ!?」
ルルーシュには制止など無駄であった。連合政府の限界、政策を批判していた過去を持つのもあり、選ばれたからには"民主主義"を推し進め、世界連合政府を中枢から改革しようと熱意を持っていた。
 
「まぁ、落ち着いてください。各大州の選抜部隊を招集し、"電脳"を潰すことも考えねばなりません」
穏やかなテル・ヒロタは言葉を選びながら場を収めるよう努めたが、そんな時間はないのは誰にも分っていることであった。たった数時間、たった一夜にしてこの様である。また、電脳を潰すなんて、非現実的であり、所在すら知らないのである。

「電脳はどこにあるか元帥に問いただす他ない、しかしだ、仮に電脳を壊すとどうなるのか、だ」
コペルニクスは立ち続けていたが、頭を抱えながら座り込む。まさに疲弊していた。苦悩、極まる。
誰もが一度は電脳の"破壊"を考えた。しかし、破壊したら世界秩序はどうなるのかもわからなかった。

オセアニア代表のイーサン・ウィリアムスが悲鳴の如く、声を荒げる。
「総裁閣下、元帥はどこにおるのですかッ!?」

DENNOU/始動編 #3

DENNOU/始動編 #3

  • 小説
  • 掌編
  • 成人向け
  • 強い暴力的表現
  • 強い反社会的表現
  • 強い言語・思想的表現
更新日
登録日
2016-10-05

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