復活ドラゴンヴァルキリーⅠ
第Ⅳ部 復活・ドラゴンヴァルキリーⅠ編
第二十五話
志穂の新たな戦いの始まり
ここは噴水のある公園。
噴水の前に30代前半ぐらいのホームレス風の女性が座っていた。
懐から食パンを取り出し、モグモグと食べ始めた。
近くをカップルが通ったが、この女性を見て慌てて逃げ出してしまった。
「カメラ!女教授サマにごホウコクがあります!」
背中の噴水の中から話しかける声が響いた。
女教授(じょきょうじゅ)と呼ばれたその女性は声に気を止めずに食パンを食べ続ける。
噴水の中の声は構わずに続ける。
「カメラ!女医サマが聖女にイドみジュンシされました!カナしいコトです…」
女教授は食パンを食べ終えて自分の食べカスをつつきにきたハトを眺めている。
そして声は続く。
「カメラ!それとはベツにワレらのコトをサグっていたニンゲンをツカまえました!どうやら聖女のカンケイシャのようです!!いかがしますか?」
空気が変わった。
パン屑を食べていたハトが逃げ出す。
女教授は立ちあがりよれよれのコートを脱いだ。
するとスーツをパリッと着た女性に変身した。
そして言った。
「その人間、使えるな…一度、逃がせ。聖女と接触させろ。」
後ろの噴水からザバーとカメの姿をした魔女が出てきて言った。
「カメラ!女医サマのトムラいガッセンだ!!」
女教授はカバンから口紅を出し、自分の唇を塗りながら言った。
「女医め、改造にばかり興味を持つからこうなるのだ…だが、聖女よ。魔女を狩るだけならともかく我が同志にまで手をかけるのはやりすぎたな。」
「助教授っスか?」
香矢が鳥羽兎で志穂に聞いた。
志穂は首を振り言った。
「違います。女に教授と書いて女教授です。私は友知に戦いを任せている間、お父さんと一緒にウィッチの事を調べたのです。そして幹部の名前…女医と同位の人物、女教授という幹部がいる事を突きとめたのです。」
香矢がふーっと溜息をつき言った。
「女医がラスボスじゃなかったんスね…って事はまだその上にも誰かが?」
志穂は答えた。
「さあ…今、分かっているのはその二人だけで…」
香矢は腕組をしてうなった。
「むむむ…これは強敵の悪寒…じゃなくて予感…」
志穂は少し笑いながら言った。
「どっちでも同じようなものじゃないですか?それにいずれ戦う事になるかもしれないですけど、向こうから来る事は少ないと思いますよ。女医は私達に個人的に興味を持っていただけで、ウィッチは事を公にしたくはないみたいですし…」
その時、地味な着信音が響いた。
香矢が驚く。
「何スか、この初期設定の着信音は…」
志穂がポケットから携帯を取り出して言った。
「あっ、私です。」
香矢が言う。
「もう少し、可愛い着信音にするっスよ…というか志穂さん、いつの間に携帯を?」
志穂は照れ臭そうに言った。
「お父さんにもらったんですよ。連絡用に…!大変です!!エミさんからの連絡が途絶えたそうです!!」
香矢が聞いた。
「いや、エミたんって誰スか?」
志穂は答えた。
「エミたんとは言ってません!エミさんは魔女対策本部の新メンバーです!!」
香矢が納得して言った。
「なるほど、いつの間にか勢力を拡大してたんすね…」
志穂が立ちあがって言った。
「とにかく、エミさんがいなくなったところに行ってみます!!」
香矢も立ちあがって言った。
「あちきも行きやす!」
「しかし…」
「志穂さん、そこは歩いて行けるところっスか?バイクは必要ないスか?」
「…結局このパターンですか。お願いします。」
そして香矢は言った。
「それに…」
「それに?」
ニヤリと笑い香矢は言った。
「新キャラに挨拶しておかないと、どんどん影が薄くなっていくスよ。」
エミは廃屋の前で立ち止まっていた。
(何で私は解放されたんだろう?確かにここで魔女に捕まったはずなだったのに…)
考えられる理由は一つ。
囮。
(となると下手に志穂さんやリーダーに連絡をとるわけには…かと言ってどうしたら…)
だから動けずにいた。
そこにバイクの音が聞こえてきた。
(誰?)
現れたのは見知らぬ子と…
「志穂さん!?」
エミは思わず叫んだ。
香矢が言った。
「げっ、自分以外に「志穂さん」って呼ぶキャラ登場スか…嫉妬の炎がメラメラと。」
そんな香矢を無視して志穂が言った。
「エミさん!大丈夫ですか?」
エミは一瞬嬉しそうな顔をしたがすぐに険しい顔に戻って言った。
「どうして来たんですか!これは罠ですよ!!」
「カメラ!その通り!!」
廃屋の影からカメ魔女が出てきて言った。
「カメラ!そのニンゲンがナカナカウゴかないのでコマっていたところだ!ジブンからきてくれるとはありがたい!さて、どちらが聖女だ?それともただのニンゲンのナカマか?」
香矢が不思議そうに言った。
「あり?こいつ志穂さんの顔を知らないみたいっスよ?今までの魔女は知ってる感じだったのに…」
志穂はその疑問に答えた。
「魔女の間でも派閥があるみたいですね。今まで戦ってきたのは女医寄りの魔女だったのでしょう。」
カメ魔女は言った。
「カメラ!そのトオり!ワタシは女教授サマチョクゾクの魔女だ!」
香矢が言った。
「あっらー、こいつ自分でペラペラばらしてるっスよ…」
志穂は静かに言った。
「女医だろうが女教授だろうが…魔女は魔女!」
胸の十字架を握りしめ叫んだ。
「ドラゴンヴァルキリー!ドレスアップ!!」
左手で銀の、右手で金の十字架を引き千切った。
志穂の体は2つの十字架を中心に輝きだし
両手の十字架は柄の宝石が青と黄のハーフの入った剣になり、
髪は金色になり、
服は青と黄のチェックのミディスカートになり
胸は巨乳になり
背中には黒い小さなコウモリの羽が生え
お尻には恐竜のような緑色の短めの尻尾が生え
そんな姿に
なった。
そして叫んだ。
「聖女・ドラゴンヴァルキリー!ダブルドレス!!」
香矢が目を輝かせながら言った。
「志穂さんも魔女っ子としての自覚が出てきたんスね…」
カメ魔女は言った。
「カメラ!キサマが聖女か!!」
志穂は剣を構えて言った。
「そうよ…あんた達、魔女を地獄に連れ戻す聖女よ!!」
「待ちなさい。」
そこに声が響く。
その場に不釣り合いなスーツ姿の女性…女教授が現れた。
「私にも自己紹介をさせてくれ。私はウィッチの幹部、女教授というものだ。」
「あなたが…」
「女医を倒したそうだな?別に仇うちとか言うつもりはないが…他の魔女と違ってあの頭脳が消えたのは痛手なのだよ。」
そう言ってカバンをゴソゴソと探りだした。
中から出てきたのは石器時代で使われていそうな石のナイフだった。
そして女教授は言った。
「ウィッチの邪魔をするものは許さない。」
「カメラ!シュクセイだ!!」
女教授がナイフを志穂に向けると散弾銃のようにパラパラパラと弾丸が発射された。
志穂はうまくかわし、雷雲を呼び出しカミナリを剣に落とし相手に向けて放った。
しかし、当たる直前にカメ魔女が前に出てきて叫んだ。
「カメラ!カメ魔法ハンシャコウラ!」
背中の甲羅を向けると志穂の電撃を跳ね返した。
跳ね返された電撃は志穂を襲う。
「カメラ!やったぞ!!」
喜ぶカメ魔女を女教授が制する。
「まて、あの姿は並みの電撃は吸収してしまうようだぞ?」
そういって再びナイフを志穂に向けた。
志穂は体勢を立て直し水のバリアを張ってそれを防ぐ。
女教授は言った。
「ほう、真正面からでは駄目か…カメ魔女!」
「カメラ!」
カメ魔女は志穂の横に移動した。
次に女教授は志穂の方ではなくカメ魔女の方に発砲するのであった。
「カメラ!カメ魔法ハンシャコウラ!」
発砲した弾丸を乱反射させた。
志穂はかわそうとしたが足に何発かうけて倒れてしまう。
「うっくっ!」
女教授は言った。
「はっはっはっはっ!終わりだな聖女。」
香矢がやきもきしながら言った。
「あうー、あいつら今までにないコンビネーションっスよ!」
志穂も焦っていた。
(カメ魔女から肉弾戦で倒そうにも女教授の弾丸がこちらを狙ってるし…女教授を狙おうにもカメ魔女が反射するし…充電する隙は与えてくれないだろうし…どうすれば?)
「カメラ!とどめだ!」
その瞬間、志穂はひらめいて剣をクロスさせた。
すると、雷雲…ではなく雨雲が呼び出された。
雨がポツポツと降ってきた。
「カメラ!ナンだ、ただのアメじゃないか!」
しかし、女教授は気づいて言った。
「!まずい!!これは霧雨だ!!」
遅かった。
志穂の体は霧の中に消えた。
「カメラ!?どこにイった!?」
「…ここよ!」
志穂はカメ魔女の後ろに現れカメ魔女の甲羅を叩き割った。
「カメラ!!!」
カメ魔女はしばらく悶えた後、動かなくなった。
志穂は女教授を睨みつけて言った。
「さぁ、次はあんたの番。」
女教授はカバンから口紅を出して言った。
「…さすがだな聖女。ここは仕切りなおさせてもらうとしよう。」
唇に口紅を塗ったと思ったら女教授の姿は消えていた。
香矢がそれを見て言った。
「はー、女医の時も思ったスけど、あんなすごい事できるならそれを戦闘に使えばいいのに…」
志穂が変身を解いて笑いながら言った。
「それだと私、負けていましたよ?…まぁ、逃げるためだけの奥の手魔法なのでしょうけど。」
そして決意の目で空を見て志穂は呟いた。
「女教授…恐ろしい相手…」
第二十六話
武士道とは死ぬことと見つけたり
「面!」
ある日の日曜日。
コーチのつてで道場を借りて剣道の練習をみんなでしていた。
「いてて…志穂さんにはやっぱり敵わないっスよ…」
志穂に一本とられた香矢が尻もちををついて言った。
それを見たコーチが笑いながら言った。
「ねっ、情けないぞ香矢!年下に簡単に負けるなんて…」
香矢は反論した。
「年下って…相手は聖女様っすよ?」
志穂は、クスリと笑い言った。
「剣道で重要なのは力じゃなくって技術ですよ?実際、私はコーチに敵わないわけですし…」
香矢が言う。
「あー、そうなんスよね!コーチ見てると達人って言葉が頭に浮かんでくるスよ…」
コーチが照れ臭そうに言う。
「まあねっ、私も若い頃はそれなりにやったからな…んっ、それよりも田合剣。」
「はい、コーチ。」
「魔法が戦いの要とはいえ、お前の武器は剣だ。だからねっ、いくら鍛えても損はないはずだ。」
「はい、指導の方をよろしくお願いします、コーチ。」
コーチもうなずき
「よし、二人とも練習再開だ!ねっ!!」
香矢が叫んだ。
「あちきは剣、関係ないっスよ!?」
ここは誰も通らない町の路地裏。
ホームレス風の女性が一人でゴミ箱をあさっていた。
そんな女性に頭上から話しかけてくる声があった。
「バメ!ツバメ魔女、ここに!!」
女性は声が聞こえないかのようにゴミ箱をあさり続けている。
「バメ!カメ魔女のカタキをウちにサンジョウしました!女教授サマ!どうかごメイレイ!!」
女性はゴミ箱の蓋をしめて、よれよれのコートを脱ぎ去った。
するとスーツをパリッと着た女性に変身した。
女教授は言った。
「頼りにしてるぞツバメ魔女よ…それでは命令する。聖女をを殺せ!必ずな!!」
上空からツバメの姿をした魔女が降りてきて言った。
「バメ!ワタシのホコりにかけてカナラずや!」
女教授はカバンから口紅を取り出し、唇を塗りながら言った。
「さて、聖女よ…このツバメ魔女は強いぞ?」
「あっ、帰ってきた。」
鳥羽兎に戻るとエミが待っていた。
そして言った。
「店は定休日でしたけど、待ってれば帰ってくるかなって思って待たせてもらいました…」
志穂は言う。
「待っていた、と言う事は何かあったのですね?」
エミは懐からガサゴソと紙を出して言った。
「えぇ、町中にこんな紙が空から降っていまして…」
その紙には
「ワタシはツバメ魔女!女教授サマのメイレイにより聖女よワタシよタタカえ!!ジャマのハイらないところでマつ…」
と書かれていた。
「うわー、今時果たし状ッススか?随分、時代がかった魔女スね…」
香矢が横から読んで言う。
コーチも一緒に読んで言った。
「でもねっ、これどこで戦うか書いてない…邪魔の入らないところって一体?」
志穂は少し考えてからエミに聞いた。
「エミさん、これって空から落ちてきたのですよね?」
エミは頷いて言った。
「え、えぇ、そうだけど…」
志穂は紙を置いて言った。
「つまり、敵は空にいる…私も空を飛べる。邪魔の入らないところ…。つまり上空!」
香矢が言った。
「はぁ、それならそうと書けばいいのにっス…回りくどいやっちゃなぁ。」
志穂は鳥羽兎を飛び出して胸の十字架を握りしめて叫んだ。
「ドラゴンヴァルキリー!ドレスアップ!!」
左手で銀の、右手で金の十字架を引き千切った。
志穂の体は2つの十字架を中心に輝きだし
両手の十字架は柄の宝石が緑と紫のハーフの入った剣になり、
服は緑と紫のチェックのミディスカートになり
胸は爆乳になり
そんな姿に
なった。
そして叫んだ。
「聖女!ドラゴンヴァルキリー!!ダブルドレス!!!」
叫んだ後に、空高く飛んでいった。
その光景を香矢が見ながら言った。
「空中戦じゃ志穂さんの雄姿が見れないっスよ…残念。でも、うまくすれば下からスカートの中身が?グヘヘ…」
「お前は変態かねっ!」
そういてコーチが香矢の頭を叩いた。
雲よりも高く跳び上がり、志穂は周囲を見回しながら叫んだ。
「来たよ!どこ、ツバメ魔女!!」
その叫び声を聞きつけ、ツバメ魔女が現れて言った。
「バメ!よくキたな聖女!」
志穂は剣構えながら聞いた。
「私と戦って…一体何になるというの?」
ツバメ魔女は答えた。
「バメ!ワタシは女教授サマのためにタタカいシぬ!それだけだ!!」
志穂は腐食ガスを剣先から放出して言った。
「この場所…誰も巻き込む心配がないから、全力で戦える!戦う場所を間違えたわね!」
「バメ!ジャマがハイらないバショだとイったろうが!!」
そう言うとツバメ魔女は腐食ガスが当たる直前で姿を消した。
いや、消えたわけではなかった。
志穂は呟いた。
「ものすごく…早い?」
「バメ!これがワタシのツバメ魔法カソクソウチ!!」
いつの間にか志穂の後ろをとっていたツバメ魔女が言った。
くちばしで突こうとしたが、直前でツバメ魔女の体が止まった。
いつの間にか志穂の袖から植物が伸び、ツバメ魔女の体を押さえていた。
志穂は言った。
「いくら早く動こうとも…捕まえてしまえば関係ない!」
そして、ツバメ魔女の方を向きながら志穂は言った。
「終わりね!」
「バメ!まだだ!」
ツバメ魔女はそう言うと、自分の翼を引き千切った。
「なっ!?」
志穂は驚く。
「バメ!カラダをチギればコウソクからニげるコトもタヤスい!!」
しかし、翼を失ったツバメ魔女は落下していく。
志穂はそれを追いかけていった。
落下した場所はちょうど鳥羽兎の前であった。
「バメ!」
ツバメ魔女は落下の衝撃を耐えきった。
鳥羽兎の中からコーチと香矢とエミが飛び出してくる。
エミが叫んだ。
「魔女!?志穂さんは?」
香矢も言った。
「この状況は…志穂さんの大勝利っスね!」
ツバメ魔女は立ちあがり叫んだ。
「バメ!まだだ!!」
「いや、ここは退こう。」
どこからともなく女教授が現れて言った。
ツバメ魔女は叫ぶ。
「バメ!ですが…」
「ここは聖女に勝ちを譲ろうではないか。次の戦いで勝てば良い。それとも私の命令が聞けないのか?」
ツバメ魔女は女教授の言葉にひざまずいた。
そこに志穂が降りてくる。
コーチ達と女教授とツバメ魔女…
その光景を見て人質に取られると思った志穂はコーチ達の前に立ちふさがり言った。
「この魔女め!コーチ達には手を触れさせないぞ!!」
ツバメ魔女は叫んだ。
「バメ!ミソコな…」
言いかけてツバメ魔女は何かに気付いた。
コーチの方を見つめている。
コーチは思わず言った。
「なっ何だねっ!?」
ツバメ魔女は言った。
「バメ…タナベ…タナベなのか?」
コーチは驚いて聞いた。
「ねっ何故、私の名前を知っている!?お前は…」
ツバメ魔女は言った。
「バメ…イマとなってはカンケイないハナシだったな…」
コーチもツバメ魔女を見つめる。
そんな二人を見ながら志穂がコーチに話しかける。
「コーチ…?どうしたのですか?」
その言葉を聞いてツバメ魔女は話しだした。
「バメ…コーチだと?そうか、聖女はおマエのデシだったのか…ドオりでツヨいわけだ。おマエはムカシからコウハイのシドウにネツをイれていたからな…」
コーチはそこで気付いて言った。
「早瀬…?ねっ、早瀬なのかお前は!」
女教授はそんな二人の前に立ちふさがり言った。
「帰るぞ、ツバメ魔女。」
そしてカバンから口紅を取り出し、唇を塗るとツバメ魔女と共に姿を消した。
コーチは呟いた。
「早瀬…」
香矢も呟いた。
「何であんなに飛びまわってパンチラしないんスか…」
「面!」
それはコーチが中学生の頃の話。
「やっぱり、早瀬は強いねっ!」
コーチは自分から一本を取った相手にそう言った。
早瀬と呼ばれた彼女は面をとり、言った。
「そういう、田鍋も強いじゃないか…何で剣道部に入らないの?もったいないよ。」
コーチは言った。
「剣道部には私が敵わないエースがいるからねっ?」
早瀬は笑いながら言った。
「一緒に練習すれば私より強くなるってば!」
コーチは首を振りながら言った。
「とてもとてもねっ…全国大会優勝間違いなしと言われる早瀬より強くなるなんて…」
早瀬はまた笑いながら言った。
「謙遜しちゃって…でも、残念だなぁ。私が本気で戦える相手になりそうなのに。」
コーチが少し驚いて言った。
「早瀬は一度も本気で戦った事はないねっ?」
早瀬はコクリと頷き言った。
「一度でいいから自分の力を全て出し切った…本気の戦いをしてみたい!死ぬ前に一度でいいから…」
コーチは苦笑しながら言った。
「死ぬ前にとは物騒ねっ…」
早瀬は握りこぶしをつくり、言った。
「私は武士になりたいの。」
コーチは嬉しそうに笑いながら言った。
「また、その話ねっ。」
その後、早瀬は挨拶もなしに転校してしまった。出れば優勝間違いなしと言われていた剣道の大会には転校後に出る事はなかった。
後で聞いた話によると転校の理由は親の借金での夜逃げであったらしい。
鳥羽兎に戻ってコーチは早瀬の話を聞かせた。
エミが口を開いた。
「でも、あの魔女も店長の事を覚えていましたよね?記憶があるという事は脳改造を受けてないのかしら…」
志穂は首を振り言った。
「脳改造は別人にするわけではないのです。ただ、人間としての良心がなくなるだけ…記憶が残っていても不思議ではありません。」
香矢が言う。
「じゃあ、もう手遅れって事スか?」
志穂は少し考えてから言った。
「いや…黒猫さんや友知の例もありますからまだ可能性は…」
「翼の修復には時間がかかりそうだな。」
女教授はツバメ魔女の怪我を見ながら言った。
「仕方ない。お前は傷を癒しておけ。その間に他の魔女にでも…」
その女教授の言葉にツバメ魔女は叫んだ。
「バメ!女教授サマにおネガいがあります!!」
女教授は言った。
「…言ってみろ。」
ツバメ魔女は続けて言う。
「バメ!キズのチユをマつヒツヨウはありません!イマすぐ聖女とのイッキウチちをネガいます!!」
女教授は驚いて言った。
「…何を馬鹿な事を言い出すのだ。」
ツバメ魔女はさらに言った。
「バメ!聖女はかつてワタシのライバルであったオンナのデシです。ホカの魔女にウたれるよりもサキにワタシはケッチャクをつけたいのです!」
女教授はため息をついて言った。
「…駄目に決まっているだろ?死ににいかせるようなものではないか。これは命令だ。」
ツバメ魔女は叫んだ。
「バメ!メイレイにサカらうコトをおユルしください!!」
そう言ってツバメ魔女は飛び出して行った。
「バメ!出てこい聖女!」
ツバメ魔女は鳥羽兎に再び来て叫んだ。
鳥羽兎の中から志穂とコーチが出てきた。
ツバメ魔女は言った。
「バメ!タナベのデシである聖女、おマエにケットウをモウしコむ!!」
志穂はコーチに言った。
「何とか時間を稼いで洗脳を解く方法を…」
コーチは答えた。
「いや…あいつとの決闘を受けてはくれないかねっ…」
「しかし…」
「頼む田合剣。ねっ。」
そう言ってからコーチはツバメ魔女に言った。
「早瀬…ここよりも決闘にふさわしい場所がある…分かるねっ?」
ツバメ魔女は頷いた。
「バメ!そうだな…」
3人が着いた先は剣道の大会が行われる…市の体育館であった。
今は誰もいない。
コーチは志穂に耳打ちをした。
志穂はコーチの方を見て言った。
「そんなの…良いのですか?」
コーチは寂しげな顔をして言った。
「頼む…それがあいつの願いなのだ…」
その時、薄暗かった体育館の証明が点いた。
そして、観客席に人影があった。
女教授であった。
「全く、仕方がない奴だ…」
そう言うと女教授はカバンから日本刀を取り出してツバメ魔女に投げ渡した。
「バメ!カンシャします、女教授サマ…」
そう言って女教授の方におじぎをした。
志穂も胸の十字架を引き千切り、再び緑と紫の姿に変身した。
そして言った。
「魔法は使わない…この剣だけで私はあなたと戦います!!」
それがコーチの願いであった。
それを聞いて志穂におじぎをしながらツバメ魔女は言った。
「バメ!ワタシのココロイキをクんでくれたおマエにもカンシャをする…ワタシのショウリをもって!」
二人は剣を構え睨みあう。
空気が途端に重くなる。
お互いに睨みあったまま動けなくなる。
「勝負は一瞬で…最初の一撃で決まる!!」
コーチが呟いた。
そして、先に動いたのは志穂であった。
「りゃああああああああ!」
「バメ!」
二人は叫び合いながらぶつかり合った。
カキン!
金属の響く音の後、お互いの位置が背を向けて入れ替わった。
志穂は膝を崩した。
そんな志穂の方に背中を向けたまま、ツバメ魔女は叫んだ。
「武士道とは…死ぬことと見つけたり!!」
「物騒な言葉ねっ…それが早瀬の好きな言葉?」
初めてその言葉を聞いた時にコーチは早瀬にそう聞いた。
早瀬は嬉しそうに言った。
「人によって受けとり方は様々だけど…私は死んでもいいぐらい本気で何かをやり遂げた時に出てくる言葉だと思ってる。だから私はこの言葉が好き。」
「早瀬…私は嫌いだよ。その言葉。」
ツバメ魔女…かつての親友の亡骸を見つめながらコーチは呟いた。
第二十七話
記憶喪失の少女
彼女は泉に写った自分の姿を見て呟いた
「これが私…」
そこには茶色い長い髪の少女が写っていた。
泉から目を外し呟いた。
「私は…誰?」
彼女は記憶を失っていた。
自分の名前すらも思い出せなかった。
疑問ばかりが口から出てくる。
「ここはどこ?何故、こんなところにいるの?」
そこは誰も人のいない…森の泉であった。
「私は…誰?」
再び呟いた。
その時、背後に気配を感じた。
「誰?」
彼女は問いかけた。
木の裏で影がガサゴソと動いていた。
「あなたは…私を知っているの?」
彼女は問いかける。
ふいに影がピタリと止まって答えた。
「…」
「えっ?」
その声は…人間の声とは思えないものであった。
(人間じゃなかった?無駄な事をしたのかな?)
彼女が考えているうちに影が再び喋った。
「…!シっているとも。」
今度は人間の言葉が耳に入ってきた。
彼女がホッとした瞬間に、それは木の裏から飛び出してきて叫んだ。
「ブワーヒ!おマエは、聖女・ドラゴンヴァルキリー!夜葉寺院友知だ!!」
それは豚の鼻にワシの翼をつけた黒い豹という異形の姿…醜悪といっても良い生き物であった。
友知と呼ばれた彼女は恐怖で固まりながら呟いた。
「化け物…」
醜悪な相手は忌々しそうに言った。
「ブワーヒ!ダレのせいだとオモってる?おマエのせいでワレらはアルジをウシナい、このようなキメラ(合成獣)になるしかなかったのだぞ!!」
彼女は後ずさりながら聞いた。
「私の…せい?」
キメラ魔女は言った。
「ブワーヒ!そうだ!だからおマエもこのカラダのイチブにしてやる!!」
彼女は相手に背を向けて一目散に逃げ出した。
キメラ魔女はニヤリと笑い彼女を追った。
友知はイカ魔女との戦いで命を落としたはずであった…
彼女は本当に友知なのだろうか?
「今日も良い天気っスね~。」
香矢がマユのリードを持ちながら呟いた。
コーチが手を離せないので代わりにマユの散歩をしているのだった。
「散歩日和っスね!マユ?」
香矢が話しかけるのに答えるかのようにマユは電信柱におしっこをした。
香矢はブスッとして言った。
「…どういう意味っスか。タイミングが悪かったと信じてるっスよ…」
その時、マユは急に顔を上げたと思ったら急に走り出した。
香矢は思わず叫ぶ。
「わわわのわ!危ないっスよ!何事っスか!?マユ乱心、乱心!!」
マユに引きずられるまま香矢は路地裏に入り込んだ。
そこには、少女が倒れていた。
マユは少女の横に駆け寄り、ワン!と吠えて尻尾を振った。
香矢も駆け寄り、少女に声をかけた。
「大丈夫っすか!?もしもし、もしもーし…ここは眠る所じゃないっスよ。」
少女を抱き起こし、その顔を見て香矢は驚いて言った。
「…!!!友知!?」
先ほどの少女であった。
香矢は少女に話しかける。
「友知!友知なんでしょ!?生きてたんスか!?しっかりして!!」
少女はぐったりしていた。
香矢は言う。
「とにかく、鳥羽兎に戻らないと…」
少女は夢うつつに言った。
「化け物が来る…怖いよ…」
鳥羽兎で友知の姿を見たコーチも驚いて言った。
「よかったねっ…私はあの時、てっきり…」
目を覚ました少女は言った。
「…私の事を知っているのでしょうか…」
香矢がその言葉を聞いて言った。
「ま、まさか…冗談っスよね?もしくはお得意の演出っスよね?」
少女はきょとんとして言った。
「あなたも私の知り合いでしょうか…思い出せない…ここの事も、あなた達の事も、私の事も…!」
コーチと香矢は目を合わせ、溜息をついた。
そして、コーチが言った。
「…これは本当に記憶喪失みたいねっ。」
香矢も言う。
「確かに…この大根役者が記憶喪失を演じているには上手すぎるっスね。」
その時、少女が立ちあがって言った。
「そうだ…!私の事を知っているならあのバケモノの事も知っていますか!?私、追われているんです!!でも、何で追われているのかも分からなくて…」
コーチは答えた。
「化け物…まさか、魔女の事か!?じゃあ、やはり君は…」
少女は怯えている。
香矢はそんな彼女を励まして言った。
「大丈夫っスよ!ここには魔女からみんなを守ってくれる方がいるっスから…あれ、そういえば志穂さんはどこへ?」
店内を見回しても志穂の姿がなかった。
コーチが言った。
「田合剣には買い出しに行ってもらっているんだがねっ…」
少女は恐怖をごまかすかのように足元のマユをなでていた。
マユは相変わらず尻尾を振って少女にすりよっている。
志穂はデパートで買い物をしていた。
志穂は買い出しのメモを見ながら呟いた。
「りんごとみかんとトマトと…コーチも取り寄せればいいのに、こんな食材。」
その時、志穂に近づく人影があった。
「…志穂殿。」
影は志穂に耳打ちをした。
志穂は影の方を見て言った。
「…ミカさん。日本にきていたのですか。」
ミカと呼ばれた女性は事務的に答えた。
「リーダの命によりマリとユリと交代で志穂さんのサポートに参上しました。エミと共にこれからは鳥羽兎でお世話になります。」
志穂は答えた。
「そうですか…でも、無茶はしないでくださいね?エミさんもあなたも普通の人間なのですから。」
「ご心配ありがとうございます…それでは自分は現在追っている近くの魔女の調査に戻るのでこれにて。」
そう言ってミカは音もなく走り去っていた。
本人は目立たないようにしたのだろうが、逆にその走り方がデパートでは注目を浴びてしまった。
志穂はそんな彼女を見ながら呟く。
「まるで忍者ね…友知や香矢さんが狂喜しそう。」
そして志穂もデパートを後にした。
鳥羽兎に着いた志穂は友知そっくりの少女の姿に気付き驚いた。
「…友知!!」
少女も志穂の姿に驚いて言った。
「聖女…ドラゴン…ヴァルキリー!?」
全員が少女の方を見た。
「志穂さんの事…覚えてるっスか!?」
香矢が思わず聞く。
少女は首を横に振って言った。
「分かりません…今の言葉は無意識にでてきたものです。でも、私はあなたを知っている?」
少女は志穂の方を見つめている。
志穂も少女の方を見つめながら言った。
「…彼女から魔力を感じます。」
香矢が言った。
「分かるんスか!?そんな能力が志穂さんに…ってお約束か。」
コーチが志穂に聞く。
「それじゃあ、やっぱり彼女は友知ねっ…」
志穂は少し考えて言った。
「でも、友知の魔力とは違うような…以前より弱い、そんな感じがします。」
少女は志穂に泣きついて言った。
「教えてください!私は誰なんですか!?あなたを見た瞬間に私は無意識にあなたの名前を呼びました…知ってるんでしょ、私の事を!?」
志穂は少し困って言った。
「どうしましょう?」
コーチや香矢が何かを言う前に彼女は叫んだ。
「知りたいんです!自分の事を!!何故、私が化け物に追われなければならないのかを!!」
「ブワーヒ!それはおマエが聖女だからだ!!」
突然、声が響いた。
香矢がきょろきょろと見渡して言った。
「どこっスか!?」
志穂が叫んだ。
「そこです!!」
志穂の指の先には少女の背中に小さなゴミくずのような物があった。
「ブワーヒ!ハナシはキかせてもらった!!おマエもそこにいるもうヒトリの聖女とともにホウムってやる!!」
志穂は少女の服からそのゴミくずをとり踏みつぶした。
ゴミくずはその見かけと違い、バキッと機械の壊れる音を出した。
志穂は言った。
「まずいですね…今の機械はこちらの場所を特定させる事もできたみたいです。」
香矢が驚いて言った。
「盗聴器とスピーカーと発信機の機能を持ち合わせていたって事スか…!あんな小さい中に!相変わらず、ウィッチの技術は半端ないスね。」
少女は志穂に聞いた。
「…それでは私はここにあいつらをおびき寄せてしまっているのですか。」
コーチは慌てて言った。
「いや、それはだねっ…」
少女は叫んだ。
「自分に優しくしてくれた人を巻き込んで!!私は…私は!!」
そして鳥羽兎を飛び出していった。
慌てて志穂と香矢は追いかけて行ったが、すぐに見失ってしまった。
香矢が言った。
「まずいっスよ!狙われてるこの状況で!!」
志穂は携帯を取り出した。
(お父さんの話では魔女対策本部のメンバーの番号は全て登録されているって話だった…さっき会ったミカさんは近くの魔女を追っているって言っていた。彼女にその魔女の居場所を聞いて先におさえれば…!)
ミカの名前は登録されていた。
志穂がその名前を押そうとした瞬間に声をかけられた。
「お呼びですか?」
いつの間にか、ミカが立っていた。
香矢が言う。
「さすが志穂さん…召喚魔法スか?」
志穂が否定して言う。
「そんな力、持っていません!ミカさん、今電話しようと…」
ミカは言った。
「自分は携帯が嫌いなものでして…」
志穂は気を取り直して聞いた。
「そ、それよりもミカさん。さっき近く魔女の事を調べているって言っていましたけど。」
志穂は事情を話し、ミカから魔女の居場所を聞いた。
「…どうしてこんな事に?」
彼女は再び最初にいた森にきて呟いた。
答えは出なかった。
何も覚えていないのだから。
「私は聖女…あの化け物と戦うの?」
「ブワーヒ!そうだ。」
少女の疑問に答えるようにキメラ魔女が出てきた。
キメラ魔女は言う。
「ブワーヒ!タタカえ!そしてシね!!それがおマエとワレらのシュクメイなのだ!!」
そこに走る音がしてくる。
志穂であった。
キメラ魔女は嬉しそうに言う。
「ブワーヒ!キたか!!」
志穂は叫んだ。
「させないよ…友知にはこれ以上戦いなんか!!」
変身しようと十字架を握りしめた瞬間にキメラ魔女の後ろから人影が現れた。
女教授であった。
志穂は叫んだ。
「やっぱりあなたの仕業だったのね!」
女教授はキメラ魔女の方を見てから言った。
「いや、こいつは私の予定外でな…予定外と言うならこの状況もだが…だが、これを利用しない手はないな。」
女教授は唖然としている周りを無視して続けた。
「さぁ、思い出すが良い!私との日々を!!共に戦おうぞ!!!」
そう言って口紅を女教授は塗りなおした。
その光景を見て少女は言った。
「…女教授サマ。」
志穂は少女の方を見て驚いて言った。
「えっ!?今、なんて!?」
そして、少女の姿は友知からタヌキの魔女の姿に変わった。
女教授は笑いながら言った。
「そういう事だよ聖女!ドラゴンヴァルキリーに化けようとしたんだが上手くいかなくて記憶を失ってしまってな…その上、仲間の魔女につけ狙われるとは!」
魔女達はジリジリと志穂によって来る。
女教授は言った。
「さて、2人の魔女を相手にどう戦うね?いや、4人かな?」
その時、フルートの音色が鳴り響いた。
「これは…」
「ブワーヒ!まさか?」
志穂とキメラ魔女が同時に叫んだ。
フルートを吹いていたのは…友知であった。
志穂は叫ぶ。
「友知!今度こそ本物!?」
友知は志穂の目の前まで歩いて行き言った。
「今、証明するよ…本物にしかできない事を!」
そして志穂の胸の銀色の十字架を握り叫んだ。
「ドレスアップ!ドラゴンヴァルキリャー!」
十字架をもぎ取ると黄色い姿に変身した。
「聖女!ドラゴンヴァルキリー!!イエロードレス!!!」
志穂は驚いて言った。
「友知!自分の…銀の十字架だけで変身して大丈夫なの?」
友知はニヤリと笑い言った。
「死線をさまよったワタクシは洗脳すらも乗り越えましたの…それよりも、さぁ志穂!」
そして志穂も胸の十字架を握りしめて叫ぶ。
「ドラゴンヴァルキリー!ドレスアップ!!」
十字架をもぎ取り赤い姿に変身した。
「聖女!ドラゴンヴァルキリー!レッドドレス!!!」
「タヌー!ホンモノだと!!」
タヌキ魔女が叫ぶ。
友知はふっと笑い言った。
「ワタクシの偽物とワタクシの倒した出戻り魔女が現れたんですもの…ワタクシの出番は当然ですわ。」
志穂は言った。
「友知!油断しないで!!」
「ブワーヒ!キメラ魔法!ブラックトルネード!!」
キメラ魔女が叫んだ。
黒い竜巻を見て友知が言った。
「油断するなと言うのが無理ですわ…以前に敗れた魔法を使ってどうしますの?」
今度はタヌキ魔女が叫んだ。
「タヌー!ならばタヌキ魔法!バけヘンシン!!」
タヌキ魔女はキメラ魔女と同じ姿になった。
そして叫んだ。
「タヌー!合体魔法!ダブルトルネード!!」
2匹の魔女の黒い竜巻が重なり合う。
友知は言った。
「もともと合体魔法だったのをまた合体させてどうしますの!」
志穂は言った。
「解説はいいから…」
黒い2重の竜巻がジリジリと近寄ってくる。
しかし、友知は平然として言った。
「合体魔法には合体魔法…志穂!やりますわよ!」
「…何を?」
志穂はキョトンとして言った。
友知は志穂の剣を無理やり構えさせて言った。
「いいから!合わせてくださいな!!」
そして友知は志穂の剣と自分の剣をクロスさせた。
雲が出てくる。
友知は言った。
「この火の雨…その強さは以前にも経験済みですわよね?」
雲が出てき、そこから火の雨が降り注いだ。
「ブワーヒ!」
「タヌー!」
2人の魔女は火の雨の前に倒れた。
友知は叫んだ。
「見ましたか!二人の愛の結晶、合体魔法を!!」
「女教授は!?」
そんな友知を無視して志穂が叫んだ。
いつのまにか女教授の姿は消えていた。
「無事だったのね…」
お互いに変身を解いた後に志穂が友知に聞いた。
友知は答えた。
「イカ魔女との戦いはアタシの体へのダメージが大きすぎたの…だから、少し休養が必要でね。身を隠していたってわけ。」
そして自分の十字架を志穂に渡して言った。
「もう少し休養が必要でね…そうね、リーダのところにでも行ってようかな?もうしばらく、アタシの力を預かっておいてね。」
そして背を向けて歩きだそうとしてピタリと足を止めて言った。
「そうそう、さっきの言葉だけど…」
志穂は聞く。
「何の話?」
友知は振り返って言った。
「もう、アタシを戦わせないって話。まーだ、アタシを巻き込んだつもりなのかね君は。これはもうアタシの戦いでもあるのだよ。アタシが戦いから解放される日はアンタも解放されなきゃ駄目。でしょ?」
何か言おうとした志穂に対して耳を塞ぐジェスチャーを友知はした。
「それじゃまたね。相棒。」
そう言って、友知は歩きだした。
第二十八話
仲間の在り方
「お疲れ様でーす。」
「お疲れ様でーす。」
ここはあるデザインの会社。
女性ばかりの社員が定時になり次々と帰って行く。
「はい、お疲れさん。」
30代半ばと思われる女の社長がみんなを見送って言った。
全員がいなくなり、社長一人になると彼女はパソコンを開いた。
そこにはドラゴンヴァルキリーの画像がたくさん写っていた。
誰も撮影していないはずなのに…
次の瞬間、会社の証明が消えた。
パソコンの光だけが女性の顔を照らす。
「ホホホ…」
どこからともなくカニの魔女が姿を現した。
女社長は顔色も変えずに言った。
「女教授の直属の魔女か…何用かな?」
そして引き出しを開けて煙草を取り出し火をつけた。
火が彼女を照らすと彼女の姿は中世の貴婦人のようなドレス姿になり煙草はキセルになった。
カニ魔女は言った。
「ホホホ…ワタシは女教授サマのタメに聖女のシュクセイをオコナうコトにしました…そのために女帝サマのおチカラゾえをどうか…」
女帝と呼ばれた女性はキセルの煙を吐きながら言った。
「…それは女教授の命令かね?」
カニ魔女は少し怯みながらも答えた。
「ホホホ…スベてワタシのドクダン…」
女帝は再び煙を吐きながら言った。
「話にならんな…女教授に恩を売れるならともかく、お前如きに力を貸して私は何を得るというのかね?」
カニ魔女はそこまで聞くと背を向けてここを後にしようとした。
その背中に女帝が話しかける。
「まぁ待て。せっかく来てくれたのだから知恵ぐらいは貸してやろう。」
カニ魔女は振り返って地にひざまずいて言った。
「ホホホ…ありがとうございます!女帝様!!」
女帝はキセルを置いて言った。
「まあ、これもビジネスだ。」
「女帝…ですか?」
今日から鳥羽兎で働く事になったエミに志穂は聞き返した。
「はい…リーダーは魔女の事を調べていて警察を追われました。しかし、今まで志穂さんや友知さんと戦ってきた女医や女教授は魔女を支配していても警察との繋がりは見えてきませんでした。」
エミの説明に横で聞いていたコーチも言った。
「確かにね…奴らは魔女をけしかけてくるだけだったね。」
エミは続けて説明した。
「実際に警察や人間社会に繋がりを持っていたのは女帝と呼ばれる幹部…ただ、名前だけでどこの誰かまでは分からないのです…」
香矢が溜息をついて言った。
「それじゃあ、今後は警察とか政治家とかも相手にしないといけないっスかね…」
エミは首を横に振って言った。
「警察も一枚岩ではございません。下手に動かせば内部分裂が起こってウィッチ側にとっても面白くない状況になるでしょう…とは言っても人間でウィッチ側についている敵が出てくる可能性はありますが…」
志穂も溜息をついて言った。
「魔女よりもやっかいそうですね…」
香矢が胸を張って言う。
「まあ、魔女退治は志穂さんに任せるとして、そういう人間の闇はあちきにお任せあれっスよ!!」
それを見てますます志穂は溜息をつくのであった。
その時、エミが立ち上がり香矢のお尻をつねった。
香矢は叫ぶ。
「いっでぇ!エミーる、何をするっスか!!」
エミはオドオドしながら言った。
「えと、ごめんなさい。実は友知さんから頼まれていまして…「香矢が調子こいた事を言ったらお尻を一つ千切ってね?」と。」
香矢はまたまた叫ぶ。
「んがー!あいつめー!つーか、お尻は2つしかないっスよ!?2回で終われと!!」
香矢が叫ぶのとほぼ同時刻。
幼稚園のバスが発車しようとドアを閉めた。
社内では幼稚園児達がキャイキャイと騒いでいる。
「はーい注目!」
同乗していた保母さんが呼びかけた。
「今日からバスの運転手さんが変わりまーす。みんな、挨拶しましょうねー!」
保母がそう言うと運転手は立ちあがった。
保母は言った。
「新しい運転手のカニ魔女さんですよー!」
「ホホホ…」
運転手が帽子をとると中からカニ魔女が出てきた。
園児達の笑い声が悲鳴に変わった。
数時間後、香矢はお尻をさすりながら店内の掃除をしていた。
そしてぼやく。
「まだ痛いっスよ…エミーる、本気で千切ろうとしてなかったっスか…」
その時、TVが緊急ニュース番組に切り替わる。
「緊急ニュースです。今朝出発した、幼稚園バスが行方不明になりました。警察では誘拐事件を考慮して捜査しており…」
ニュースキャスターがそう告げると香矢は志穂の方を振り向いて言った。
「これはまさか…魔女の仕業!?」
志穂は逆に驚いて言った。
「そんなわけないでしょ!怪しい事件は全部魔女のせいですか!!」
香矢は頭をポリポリ掻きながら言った。
「いや、幼稚園バスジャックはお約束かと…ってエミーる!さりげなくあちきの後ろに立つな!!」
ニュースキャスターは続けた。
「続報が入りました…犯人からの要求です。「園児の命が惜しければ聖女はカメ魔女を倒したところにこい」…これは何でしょうか?暗号か比喩でしょうか?」
香矢は少し嬉しそうに言った。
「ねっ?魔女の仕業だったスよ!」
コーチが叱った。
「バカねっ!喜んでる場合か!!どうする田合剣?」
志穂は着替え始めながら言った。
「魔女の仕業なら…黙っていられません!!」
カニ魔女は不機嫌そうにバスの外に待機していた。
バスの中では園児達が泣きじゃくっている。
「ホホホ…キにイらん。」
カニ魔女は呟いた。
バスの中から保母が顔を出し、聞いた。
「何がですか?魔女様。」
カニ魔女は保母の方を向いて言った。
「ホホホ…おマエのコトだ。いくら女帝サマのサクとはイえニンゲンのチカラをカりるなぞ…」
保母は笑って言った。
「宜しいではないですか…聖女に勝てばそのような事はどうでも。」
カニ魔女はますます不機嫌そうに聞いた。
「ホホホ…おマエはイいのか?ニンゲンでありながら魔女のミカタをして…」
保母はまだ笑いながら言った。
「そんな事ですか…女帝様は大金を約束してくださいました。普通に働いていては手に入らないような大金を。そのためなら私は魔女にだってなりますよ。」
カニ魔女は保母から視線を外して呟いた。
「ホホホ…ショセンはニンゲンだな。くだらん。」
その時、一人の少女が姿を現した。
志穂であった。
志穂はバスと魔女の存在に気付き言った。
「ウィッチの魔女め…子供達をすぐに解放しなさい!!」
カニ魔女は立ちあがり言った。
「ホホホ…よくキたな聖女よ!だがこいつらはダイジなヒトジチだ!キサマをコロしたアトにカイホウしてやろう!!」
志穂が変身しようと十字架に手を伸ばした瞬間にカニ魔女は言った。
「ホホホ…テイコウはやめろ!このばすにはバクダンがシコんである!」
志穂は手を戻し言った。
「くっ…この卑怯者!!」
カニ魔女は叫んだ。
「ホホホ…イうな!ツバメ魔女をタオしたおマエにカつにはこれしかホウホウがないのだ!!さあ、このはさみでクビをカってやる!!」
その様子を物陰から香矢とエミが見ていた。
エミが小声で言った。
「どうしましょう…このままじゃ志穂さんが…」
香矢は志穂とカニ魔女ではなく別の場所を見ながら言った。
「あの保母さん…志穂さんとカニ魔女が睨み合いだした瞬間にバスから降りてきましたっスよ…バスのドアを閉めてバスからじりじり離れていく…まさかグル!?」
それに気付いた香矢は保母の方に走って行き保母を羽交い締めにした。
保母は叫んだ。
「何だお前!この、離せ!!」
香矢は離さない。
そして言った。
「何、安全なところに逃げようとしてるっスか!?ほら、魔女!お前の仲間がバスの近くにいるから爆破は無理っスよ!!」
保母は焦りながら言う。
「あいつに言っても無駄だ!リモコンは私が持ってるんだから!!」
香矢はニヤリと笑い言った。
「へー、それはそれは…さっきからポケットに手を突っ込んでるのはもしや?」
ゴソゴソと手をポケットに手を入れ、香矢は叫んだ。
「あった!そしてとったどー!」
リモコンを志穂の方に掲げる。
カニ魔女は忌々しげに言う。
「ホホホ…ニンゲンはやはりヤクにタたん。」
志穂は言い返す。
「そうでもないわ…あなたの仲間が私の仲間に負けただけよ!」
志穂は胸の十字架を握りしめ叫んだ。
「ドラゴンヴァルキリー!ドレスアップ!!」
左手で銀の、右手で金の十字架を引き千切った。
志穂の体は2つの十字架を中心に輝きだし
服は赤と緑のチェックの短パンになり
胸はぺったんこになり
そんな姿に
なった。
そして叫んだ。
「聖女!ドラゴンヴァルキリー!!ダブルドレス!!!」
カニ魔女は叫んだ。
「ホホホ…ならばマっコウからショウブ!カニ魔法!バブルシバり!!」
無数の泡が志穂の体を覆いつくす。しかし、志穂の袖が伸び、植物となって泡を吸収していった。
志穂は剣を構えて言った。
「相手が悪かったわね…本当に!!」
剣先から炎が噴き出し、カニ魔女を包み込む。
「ホホホ…どうせこうなるならサイショからセイセイドウドウとショウブすればヨかった…女教授サマ!モウしワケありません!!」
カニ魔女はそう叫び、消し炭となった。
志穂に香矢が駆け寄ってきて言った。
「さすが、志穂さん!かっこいいスね!!」
志穂は変身を解いて言った。
「カッコイイのは香矢さんですよ?香矢さんがいなかったら本当に危なかった。」
香矢は照れながら言った。
「だから言ったスよ?」
胸を膨らまし続けて言った。
「魔女退治は志穂さんの役目。フォローがあちきの役目!」
エミがそこで聞く。
「あれ、香矢さん捕まえていた保母さんは?」
香矢ははっとして言った。
「あう、しまった…せっかく決めて終わろうとしたのに…」
志穂とエミは二人して笑った。
保母は逃げながら呟いた。
「くそ、役に立たない魔女め…まぁ、いいか。私の仕事は終わった。これで女帝様に大金を…」
「くだらん。」
どこからともなく声が聞こえたと思った瞬間、保母は倒れた。
声の主は…女教授であった。
女帝も後から姿を現し言った。
「おいおい、ひどい事をするな…せっかく協力してやったのに。」
女教授は口紅を塗りながら言った。
「余計なお世話だ…聖女は私の獲物だ。部下の仇は私がとる。お前は人間を減らす事だけ考えていればいい。」
女帝は言った。
「そう言うなよ…目的が同じ仲間同士、協力し合おうじゃないか。それがビジネスってもんだろ?」
女教授は答えずに消えた。
女帝は呟く。
「私のビジネスには邪魔かな…?聖女も女教授も。」
第二十九話
人食い試着室
ここは小さな駅。
駅のホームで女性のホームレスがゴミ箱をあさっていた。
人気のない駅には駅員ぐらいしかいなかった。
その駅員も関わりたくないのか、目を合わせないようにしている。
その駅に羽振りのよさそうな女性が姿を現した。
女帝であった。
女帝はホームレス…女教授に近づいて耳打ちをした。
「ビジネスの話だ…実は今度、新しい商売を始めようと思ってね。君にも協力してもらいたい。」
女教授はまるで聞こえないかのようにゴミ箱をあさり続けている。
構わず、女帝は喋り続ける。
「その筋に人気なビデオを売るだけなんだが…法に触れる内容でね。周りにバれないように売りたいんだ。しかし、秘密というものは漏れるのが常だろ?商売の内容を知った聖女がまた邪魔をしないとも限らない。その阻止を君にお願いしたいのだ。簡単な話だろ?」
女帝はそこまで喋ると封筒を投げ捨てた。
ドサッと音がして中から万札の束が顔を見せる。
女教授はそれをチラっと見た。
遠くから様子を見ていた駅員がギョッとする。
女帝は駅を出て行った。
そんな女帝の方を見ずに女教授はサッと封筒を拾い上げた。
舞台はかわって、ここはブティック。
「すみませーん。これ試着してみたいんですけど?」
若い女性が店員に聞いた。
店員は笑顔で答えた。
「はい!試着室はあちらになりますのでどうぞ。」
女性客は服を持って試着室に入った。
「フンフンフフン♪」
鼻歌を歌いながら女性客は着ていた服を脱いだ。
その瞬間、ガコっという音がした。
「?」
考える暇もなく、目の前のカーテンが上に昇っていき、目の前は黒くなっていった。
床が抜けて落ちているんだな、と気付いたのは再び地に足が着いてからだった。
「いたた…」
長い時間かけて落ちた割には少しの痛みだけで女性客は怪我ひとつなかった。
周りを見渡す。
そこは映画で出てくるようなアラビアとかの…お金持ちが住んでそうなイメージの部屋であった。
「ここ…何?」
彼女は呟いた。
まずは出ようと思いつき出入り口を探したが四面壁になっていた。
「ガ…」
その時変な声がした。
声の方を向くとベッドがあり、何かが布団にくるまっていた。
彼女は唾をゴクリと飲み、ベッドに近づいた。
「…えい!」
勇気を振り絞り、布団をはがした。
「ガー!」
布団の下からライオンが出てきた。
「きゃー!?」
その映像を暗い部屋で数人の仮面をつけた男女が見ていた。
女性が部屋中を叫びながらライオンに追いまわされ、やがて捕まり、生きながらバラバラに食い千切られていくそんな映像を…彼らは目を輝かせながら見入っていた。
ビデオが終わると部屋の電気がつけられ女帝が巨大なスクリーンの裏から出てきた。
女帝は彼らに言う。
「いかがでしたか?今の映像はもちろん、他のショーも四点収録したDVDを通常版が百万円、限定版が一億円で販売させていただきます。」
前の方にいた、仮面の客が質問した。
「限定版はどのような内容になっているのかね?」
女帝は一つ咳払いをしてから答えた。
「このDVDに登場した人間の皮で作った財布がついてきます。さて、お買い上げの方から前にどうぞ。」
仮面の客達は一斉に立ち上がり女帝のところに行った。
しかし、何人かは内容が気に入らなかったのか部屋を出て行くのであった。
そんな彼らに女帝が声をかける。
「お買い上げにならないのは残念ですが、ここの事はくれぐれも内密に…」
出て行く客の一人が答えた。
「分かっているよ…それに世間にこれがばれたら我々もただではすまんからな。」
買わずに出て行った客達…
その中の一人が外に出てから仮面をとった。
それはエミであった。
「こ、こえぇー!そんなDVD、お金貰っても見たくないっスよ!!」
鳥羽兎でエミの報告を受けた香矢が身震いしながら言った。
コーチも顔を暗くしながら言う。
「何か、聞いた事ある話ね…私が聞いたのはライオンに襲わせるんじゃなくてだるまにするって話だったけど。」
エミは言った。
「それは都市伝説ですね。今回の事件が元なのか、だるまの都市伝説を参考にしたのかは分かりませんけど。」
香矢がキョトンとして言った。
「卵が先か鶏が先かってやつっスね…つーか、だるまの都市伝説って何スか?あんなプリチーな姿になれるなら大歓迎じゃなスか?」
エミが少し苦笑いしてから言った。
「だるまが可愛い…?だるまになるって事はですね、手足をチョン切るってことですよ?」
香矢は再び身震いしてから言った。
「そ、そんな伝説が…もう一人で試着室とか入れないっスよ!ねぇ、志穂さん?今度から一緒に入ってくれません?」
志穂は溜息をついて言った。
「…嫌です。」
香矢は驚いて言った。
「何でスか!?別に志穂さんの着替えを見せてくれってわけじゃないっスよ!!」
志穂は言った。
「だって香矢さん、「香矢ちゃんストリップショー!」とか言って踊りながら脱ぎそうですもの…」
志穂の言葉にコーチとエミはうんうんと頷いた。
香矢が叫ぶ。
「ひつれいな!…でも、個室で二人きりになったら仕方ないよね?」
そんな香矢を無視して志穂がエミに聞いた。
「でも、これ以上被害者が出る前に何とかしないと…エミさん、そのブティックってどこにあるんですか?」
エミは首を横に振って言った。
「残念ながらブティックの場所までは…DVDを売買しているところも毎回変わりますし…次に売買する時に一緒に来てもらう事は出来ますけど。」
コーチが言った。
「それだと次の被害が出てからになるね…」
その時、鳥羽兎の扉を開ける音がしてお客が入ってきた。
「いらっしゃ…」
全員が声をかけようとして止まった。
入ってきたのは女教授であった。
驚く4人を無視し、カウンター席に座ると女教授は言った。
「水をくれないか。」
志穂は十字架を握りしめ変身をしようとしていた。
そんな志穂を制して女教授が言った。
「まぁ、待て今日は戦いにきたのではない…無抵抗な者に刃をむけるような事はしないだろう?」
志穂は十字架から手を離して聞いた。
「…何の用よ。」
女教授は言った。
「さっき言っただろう?水を飲みにきたんだよ。」
コーチは水を女教授に出して言った。
「…どうぞ。」
女教授は水を一気に飲み干し氷をかみ砕くと懐から封筒を取り出して言った。
「お会計はこれで頼むよ。」
コーチは受け取らずに言った。
「…お冷でお金を受け取るわけにはいきません。」
女教授はフッと笑い言った。
「そう警戒しなくてもいいだろ?置いて行くよ。」
カウンターの上に封筒を置いて鳥羽兎を出て行った。
コーチは警戒を解いて言った。
「本当に何しにきたね…」
香矢が封筒を開けて叫んだ。
「ぶわー!万札がたくさん入ってるっスよ!!」
指に唾をつけて数え始める。
そして間にメモが挟まっているのに気付き香矢は言った。
「…?これは何スかね?住所みたいのが書いてあるっスよ…試着室?ショー?…あっ!」
それは先ほどのエミの話に出てきたブティックのようであった。
コーチが首をかしげて言った。
「何だってあいつはこんな事を教えるね…やはり罠か?」
志穂は首を横に振って言った。
「分かりませんけど…あの人は戦う時は真っ向からきて罠を仕掛けたりする人じゃないと思います。…敵ですけど分かるんです、あの人の事が。」
鳥羽兎を出た女教授はカバンから口紅を取り出し唇を塗りなおして呟いた。
「1回は1回だ。カニ魔女の誇りを汚した責任はとらせてもらうぞ、女帝。貴様風に言うならこれもビジネスだよ。」
「あああーの、すすみませんス。」
香矢は件の店で店員に声をかけた。
志穂と二人で来ていた。
「はーい?」
声をかけられた店員が答えた。
香矢はまた体をカチコチにしながら言った。
「こここぉれ、試し切り…じゃなくて試しに着てみたいんスけどけど?」
店員は事務的に答えた。
「どうぞ。試着室はあちらになります。」
香矢は志穂の方に手を置いて言った。
「この子も一緒っしょに入ってももいいいいスかね?」
店員はニコリとしてから言った。
「妹さんですか?どうぞご自由に。」
そして二人は試着室に入った。
志穂が口を開く。
「…らしくないですね。何で緊張しているのですか?」
香矢が一息ついてから答える。
「だって、こんな高そうな店入った事ないもんスよ!志穂さんがやってくれれば良かったのに…」
志穂は言った。
「私のサイズ、売ってないから無理ですよ…それよりも早く!」
香矢は意味が分からずポカンとしていた。
志穂がうながして言った。
「早く着替えてください!着替えないと例の罠が発動しないでしょ?」
香矢が驚いて言った。
「でも、ここって撮影されてるんスよね?本当にストリップショー開くのはマジご勘弁…」
志穂が言った。
「事件の後、撮られた映像は全て処分しますから!私が後ろを向いている間に早く!!」
香矢は脱ぎ始めながら呟いた。
「とほほ…親父にも見せた事がないのにス…」
志穂は後ろを振り向かずに言った。
「…全部脱げとは言ってないじゃないすか。」
そんなやり取りをしているうちに底が抜けた。
志穂は綺麗に着地し香矢をお姫様抱っこする形で受け止めた。
香矢が歓喜して言った。
「ナイスキャッチ!女の子の夢スねー。もう、結婚して!!」
志穂は香矢を乱暴に下ろしてから言った。
「香矢さん、私の後ろから離れないでくださいね…ってなんですか、そのパンツは。」
香矢のパンツはTVアニメのキャラがプリントされたキャラクター物のパンツだった。
香矢が叫ぶ。
「ぎゃひ!見~た~な~。」
志穂は香矢を後ろに押しのけて言った。
「見なかった事にしときます。それよりも来ますよ!」
ベッドの布団をはがし、ライオンが姿を現した。
「ガー!」
ライオンの咆哮に志穂が叫び返した。
「殺人ビデオは…今日で販売中止よ!!」
胸の十字架を握りしめ叫んだ。
「ドラゴンヴァルキリー!ドレスアップ!!」
左手で銀の、右手で金の十字架を引き千切った。
志穂の体は2つの十字架を中心に輝きだし
服は青と緑のチェックのミニスカートになり
胸は爆乳になり
そんな姿に
なった。
そして叫んだ
「聖女!ドラゴンヴァルキリー!!ダブルドレス!!!」
ライオン魔女は思わず叫んだ。
「ガー!聖女!?」
別室でその光景をモニターで見ていた女帝が言った。
「まさか、もう嗅ぎつけてくるとは…女教授の役立たずめ。まぁ、いい。それならば聖女殺人ビデオに企画変更だ!やれ、ライオン魔女よ!!」
「ガー!ライオン魔法!シーサーフォーム!!」
そう叫ぶと手足の爪と牙が鋭く伸びた。
「ガー!切り刻んでくれる!」
そう叫びながら突っ込んでくるライオン魔女に志穂は平然としていた。
志穂は言い捨てた。
「ただ真っ向から突っ込んでくるだけ…剣で応戦する必要もないわね!」
そう言ったかと思うとライオン魔女の体はいつのまにか水で覆われていた。
「ガーボガボ…」
苦しむライオン魔女に志穂は言った。
「苦しい…?あんたに生きながら食い殺された人達の苦しみが少しは分かった!?」
ライオン魔女はパタリと倒れ絶命した。
香矢は志穂の背中から顔を出し言った。
「うわー、残酷…でも、溺死と食い殺されるのてどっちがマシっスかね?…って志穂さん、何をしてるスか?」
見ると志穂は袖から植物を伸ばし、部屋中に張り巡らしていた。
志穂は香矢の質問に答えて言った。
「香矢さんの映像、消さないといけないでしょ?だから…」
「…とんだ放送事故だな。」
別室の女帝が呟いた。
「まぁいい。また、面白いビデオを撮れば…!?」
その時、女帝の見ていたモニターが爆発した。中から植物がニョキニョキと伸びてきた。
とっさに女帝は部屋の外に避難する。
植物は次々と部屋の中の機材やDVDを破壊していく。
「おのれ、機材が!これでは次の撮影ができんではないか!!この損害、必ず支払ってもらうぞ。聖女よ!!」
そう呟いて女帝は消えた。
「これでもう大丈夫ですよ。機材まで壊されたら撮影もできないでしょうしね。」
植物を戻し、変身を解いた志穂が言った。
香矢が感心する。
「さすがっスね…そこまで考えて青と緑の姿に変身したスか?」
志穂は照れながら言った。
「さぁ、帰りましょう!そんな格好でいると風邪をひきますよ?」
香矢は自分の格好を見て言った。
「…そういえば、こんな姿で町中に出れないスよ。どしましょ?」
部屋のカーペットを体にくるんだ香矢と志穂は鳥羽兎に帰ってきた。
「ただい…!?」
志穂が帰りの挨拶をしようとしたが、店の中に女教授が再びいたので思わず声を止めた。
女教授はニコリと笑い言った。
「見事な勝利だったようだね。敵ながら称賛させていただくよ。」
志穂は身構えながらも言った。
「あなたこそ…あなたの情報のおかげで事件を解決できたわ。それは感謝します。」
女教授は水を飲みながら言った。
「それは私にとってもメリットのある事だから気にしなくてもいいよ。それよりも教えてくれ。君はまだ人間の味方をするのかね?」
志穂は黙って俯いた。
香矢は意味が分からずに二人を交互に見ている。
女教授は続けて言った。
「今回の事件は良い例だ…確かに手をくだしていたのはライオン魔女だ。しかし、何故ライオン魔女は人を殺していたのか?それを見たがっているゲスな人間がいたからだよ。君はそんな人間を守ろうと言うのかね?」
香矢が何か言おうとしたのを制止して志穂は言った。
「…私が守りたいのはそういう自分勝手な理屈の犠牲になる人の方です。」
女教授はコップの氷をかみ砕くと席を立った。
「まぁ、いい…ならば私との対立は避けられないということだ。いずれ、決着をつけよう。」
そして鳥羽兎を後にしようと扉の前で足を止め言った。
「私と君が守りたいもの…同じなのかもしれない…いや、これを言うのは野暮だったな。」
口紅をカバンから取り出し唇を塗りなおして出て行った。
第三十話
女教授の哀しき正体!
「バーラァ!ショウブだ、聖女!!」
バラの姿をした魔女がそう叫んだ。
志穂の元に果たし状が届いた。
その相手が目の前のバラ魔女であった。
志穂は青と紫の姿になってバラ魔女の挑戦を受けている。
志穂は言った。
「正々堂々の勝負ならいつでも受けます…来なさい!!」
バラ魔女はうなずいて叫んだ。
「バーラァ!バラ魔法!ばらすのツルギ!!」
バラ魔女はバラの剣を出し、志穂に切りかかる。
志穂も剣で受けるが、その高速の太刀筋は防ぎきれず、何回か切られてしまった。
志穂は呟く。
「くっ…!こいつ、ツバメ魔女以上の剣客!?」
バラ魔女は誇らしげに言った。
「バーラァ!ワタシは女教授チョクゾウサイキョウの魔女!」
志穂は距離をとり言った。
「確かに今まで一番の強敵ね…悪いけど、飛び道具で応戦させてもらうわ。」
志穂は剣先から毒ガスを放出した。
「バーラァ!バラ魔法!ばらすのタテ!!」
そうバラ魔女が叫ぶと、バラの剣は盾の変化し、志穂の毒ガスを防ぐ…いや、跳ね返した。
「くっ!?」
志穂は慌てて水を放出し自分の体を覆う。
「バーラァ!ウスいマモりだな…バラ魔法!ばらフブキ!!」
バラ魔女がそう叫ぶとバラの盾は散り散りになり、その花びらの一つ一つが小さなバラに変化して志穂に向かって襲ってくる。
大量のバラは水のバリアごと志穂の体を覆う。
「バーラァ…そのままオしつぶされるがいい!」
志穂を覆ったバラの塊は徐々に小さくなっていき、最後には半分ぐらいの大きさまでになってしまった。
「バーラァ!あっけなかったな、聖女!」
バラ魔女はそう言ってから指をパチンと鳴らした。
覆っていたバラがボロボロとこぼれ落ち、中から水が流れ出し、志穂の体は…なかった。
「バーラァ!?」
バラ魔女が驚くと同時に背後から剣が振り下ろされた。
皮一枚でバラ魔女が飛び避けて振り向くとそこに志穂がいた。
「バーラァ!いつのまに!?」
志穂は言った。
「さっきまであんたが攻撃していたのは水で作った私の虚像…最初からあんたの後ろで油断するのを待っていたのよ。」
「バーラァ…さすがだな!」
(あんたもね。)
バラ魔女の声に志穂は心の中で答えた。
(今の一撃で致命傷を負わせれなかったなんて…)
志穂は再び剣を構えバラ魔女と睨みあった。
(隙を見せたら…負ける!)
志穂は相手に集中した。
音が消えた。
お互いに動けなくなったのだ。
その瞬間、
「パンプキン!」
「!」
かぼちゃの姿をした魔女が志穂の背後から飛びかかり志穂を羽交い締めした。
志穂は言った。
「しまった!伏兵がいたの!?」
「パンプキン!かぼちゃ魔法!ダイバクハツ!!」
そうかぼちゃ魔女は叫ぶと爆発した。
かぼちゃ魔女の破片が飛び散る中、片膝をつく志穂。
(うかつだった…大したダメージはないけど、今の爆発は電気も帯びていた…これではしばらく動けそうにない…この間にバラ魔女の攻撃がくれば…)
志穂は歯を食いしばった。
しかし、バラ魔女は動こうとしない。
志穂は思った。
(どういう事?果たし状を出すぐらいだから卑怯な横やりを嫌うとか…)
バラ魔女はまだ動かない。
(横やりを嫌って攻撃してこないにしても…何も言わない、立ち去ろうともしない…)
「志穂殿!」
その時、ミカの声が響いた。
ミカは志穂に肩を貸して言った。
「…とにかくこの場は退きましょう。」
そして煙幕玉を投げて、煙に乗じて走り去った。
後にはバラ魔女だけが残される。
やがて、バラ魔女は崩れ落ちた。
舞台は変わってここは女帝のオフィス。
就業時間が終わり、女帝は一人で本を読んでいた。
その時、荒々しく扉が開く。
女教授であった。
ドカドカと女帝の方に向かって歩いていき、机をバンと叩いて怒鳴った。
「どういうつもりだ!?決闘の邪魔をするなど…あの、かぼちゃ魔女はお前直属の魔女だろ!?」
女帝は本から目を離さずに言った。
「良い出来だったろ?魔力の低さをああやって補えば…魔力の高い人間を探すよりよぽど効率が良い。使い捨てだと考えればな。」
女教授は女帝の本を取り上げ、乱暴に投げ捨てた。
そして、女帝の方を睨みつけながら怒鳴った。
「そういう話ではない!邪魔をした理由を聞いているんだ!!」
激昂する女教授とは対照的に女帝は涼しげな顔で言った。
「もったいないからだ。聖女を我々の元に戻す良い情報を手に入れたのでな。」
そして、女教授に耳打ちをした。
女教授の顔色が変わる。
青い顔で女教授は呟いた。
「まさか…そんな事が…」
女帝は嬉しそうに言った。
「確かな情報だよ。」
女教授は出口に向かって歩き出した。
「自分で確かめる…貴様は信用できん。」
そう言ってオフィスを出て行った。
女帝は、さっき投げ捨てられた本を拾い上げ呟いた。
「せいぜい頑張ってくれたまえよ。」
志穂とミカは鳥羽兎についた。
奥からコーチが駆け寄ってくる。
「大丈夫か?ねっ、田合剣?」
志穂はフラフラしながらも言った。
「大丈夫ですコーチ。少し痺れただけです…それにしても、どうして私は無事なのでしょうか?バラ魔女にとっては最大のチャンスでしたのに…」
ミカが言った。
「あのかぼちゃ魔女の爆発は志穂殿だけでなく、バラ魔女の体も巻き込んでいました…まるで、最初から二人を倒すつもりだったように…」
志穂は納得して言った。
「バラ魔女は女教授直属の魔女と言っていました。女教授と対立している人物がいる…まさか女帝?」
コーチは頷いて言った。
「ウィッチも一枚岩ではないのね…」
志穂は自由になってきた体を動かしながら言った。
「魔女もどんどん強くなっていく…私も強くならないと…」
そして鳥羽兎の扉へと向かっていった。
エミが声をかける。
「志穂殿、どちらへ?お供しますよ。」
志穂は首を振って言った。
「少し頭を冷やしてくるだけです。一人にしてもらえますか?」
そして、鳥羽兎を出て行った。
志穂はかつて自分が住んでいたアパートの前に来ていた。
生まれた時から住んでいる家。
こんな事件に巻き込まれなければ今も住んでいた家。
家を乗っ取った冬虫夏草魔女はもういないので、ここは無人と化していた。
(この戦いが終わったらまたお父さんと一緒にこの家に戻って昔みたいに…ふふふ、無理だよね。もう、普通の生活は送れない体になってしまった…)
その時、後ろから足音がした。
志穂が振り向くとそこには
「女教授…!」
志穂は呟いた。
女教授は顔色が悪かった。
志穂は違和感を覚えながら言った。
「何しに来たの!?人間だった時の思い出にひたる私を笑いに来たの!?」
「ここが思い出の地…やはり、お前は…」
女教授はブツブツと言った。
しばらく考え事をした後に我に返って女教授は言った。
「お前の父親は一志さん…?」
突然、父親の名前を呼ばれ志穂はビクッとした。
怯まず志穂は言った。
「…そうよ。魔女対策本部のリーダーの。」
女教授は道端の石に座り込んで言った。
「…少し話を聞いてくれないか。私の昔話だよ。」
かつて私も人間…高校の歴史の教師だった。
ある日、自分の受け持つクラスの生徒の一人に誘われた。
「まだ未開の遺跡があるんですけど、一緒に調べに行きませんか?」
何でもバイト先の社長の土地から誰も調べていない新しい遺跡が発見されたという事だ。
通常、こういったものは国とかに調べてもらうものだが、その社長は自分で最初に調べてみたくなったようだ。
とはいえ、考古学的な知識に疎い店長はバイトの子に頼んで少しは考古学の知識のある私に調査の協力を頼んできたわけだ。
メンバーは4人。
私とその生徒と社長と社長の友達…医者をやっている女性。
少人数だが見るだけならこんなものであろうと、私はこの話に乗った。
「ここです。」
社長の案内で来た場所は遺跡というより防空壕のように整備された洞窟であった。
私はこの社長に騙されたかと疑いつつも洞窟の中に入っていった。
洞窟の中は殺風景であったが何というか…どこか快適であった。
「?何かありますよ。」
医者の女が言った。
洞窟の行き止まりに十字架のカギがついた箱が置いてあった。
暗い洞窟の中でその存在は異彩であった。
私達はその箱をどうするか話し合った結果、まずは開けて中身次第で持って帰ろうという事になった。
とはいえ、危険な虫や蛇でも入っていたら開けるときに危険だ。
そう思った私は自分が開けるのを提案した。
「…では開けます。」
十字架のカギはついているだけで箱を封していたわけではなかった。
箱はあっさり開いた。
中には何も入っていなかった。
物は。
次の瞬間、私達の中に記憶が入ってきた。
最初の魔女、我らの主、ドラゴン様の記憶、そして、ドラゴン様の憎悪が!
私は…私達は人間をやめた。
人間の罪深き姿を知ってしまったから。
それまでの生活も、夫も、娘も捨てて。
「…だから何?」
聞き終えた志穂は言った。
内心は混乱しながらも志穂は言い続けた。
「娘を捨てたなんて話を私にして…そう私にして…」
女教授は優しい顔をしながら言った。
「そうだよ、志穂…お前は私が8年前に忘れて行った私の娘…」
「嘘だ!!」
志穂は叫んだ。
(母親…?)
志穂は小さい頃、自分に母親がいない事を何度か疑問に思った事がある。
父親に聞いたこともあったがいつも困った顔をするので、自然と聞かなくなってしまった。
だから自分には母親がいないのが当たり前なんだと思って育ってきた。
「嘘だ!嘘だ…嘘…」
志穂は叫び続けた。
女教授は優しく言った。
「寂しい思いをさせて悪かったな、志穂。だが、もう大丈夫だ。これからは共にドラゴン様に仕え人間を粛清しよう。」
志穂は女教授を睨みつけて言った。
「ふざけないで!何で私が魔女の味方を…」
女教授は尚も優しく言った。
「お前は知らんのだよ。私達魔女が迫害されてきた歴史を。」
志穂は言った。
「聞いたことはあるわ…15世紀の魔女裁判とかね。でも、あれはあなた達を恐れたから…」
女教授は笑って言った。
「恐れ?人間どもは私達を恐れなぞしないよ!ただ、痛めつける対象が欲しかっただけ…ドラゴン様も過去の魔女達も魔法を持たない人間の力になろうとしてきた…しかし、やつらはその力に嫉妬し魔女達をむごい…思い出すのもおぞましい…仲間たちが殺されるのを悲観したドラゴン様は自ら命を絶ったのだ。復讐に走らないように…しかし!」
女教授から笑みは消えていた。
そして続けて言った。
「何故、力を持つものが泣き寝入りをしなければいけないのだ!?ドラゴン様の記憶を知った我らは自らの体を魔女に改造し人間への復讐を誓った。志穂、」
志穂は叫んだ。
「気安く呼ばないで!私はあんた達に協力なんて絶対にしない!!」
女教授は再び優しい顔しながら言った。
「志穂…母の言う事が聞けないのか?」
志穂は叫ぶ。
「あんたは母親なんかじゃない!私が母と呼ぶのは友知のおばさんと…コーチだけ!あんたじゃない!!」
女教授は困った顔をしながら言った。
「そうか…」
志穂は胸の十字架を握りしめ叫んだ。
「ドラゴンヴァルキリー!ドレスアップ!!」
十字架を引き千切り、青と紫の姿に変身した。
「聖女!ドラゴンヴァルキリー!!ダブルドレス!!!」
女教授は悲しい顔をしながら言った。
「戦うつもりか。ならば仕方がない…連れ帰って脳改造をするのみ!!」
カバンから口紅を取り出し唇を塗りなおすと女教授の体が変わっていく。
「バーラァ!」
女教授はバラ魔女になった。
「バ、バラ魔女だったの…」
志穂は驚いて言った。
バラ魔女は叫んだ。
「バーラァ!バラ魔女サイキョウの魔法をミせてやる!!バラ魔法!ばらフブキキョウ!」
バラ魔女の体が無数のバラの花びらに変化していき、志穂に向かって飛んでくる。
志穂は言った。
「そんな攻撃!さっきと何が違うっていうの!?」
剣で叩き落とそうとしたが、花びらは剣をかわし志穂の背中に回り刺さった。
「ぐっ!?」
志穂はよろめくとあちこちのバラから声が響く。
「バーラァ!このハナびらヒトウヒトツがワタシなのだ!スベてタタきオとせるかな?」
志穂は剣を構えた。
闇雲にではなく一つの花びらに向かって。
「はぁぁぁー!」
そしてその花びらを真っ二つに切った。
その途端飛び交っていた花びらが全て落ちた。
落ちた花びらは切り裂かれた花びらに集まっていき、最後には女教授の姿になった。
女教授は息耐えながら言った。
「見事だ…何故、私の本体の位置が分かった。」
志穂は変身を解いて言った。
「…分からない。ただ、あなたがそこにいると思ったからそこを切っただけです。」
女教授は溜息をついて言った。
「まさか、自分の娘に殺されるとは…いや、幸せだったのかもしれん。人間に殺されるよりはな。」
志穂は無表情で女教授を見ている。
「志穂…お前にも人間の醜さが分かる日がくるよ…いつか必ず。それまで生き抜きなさい。父さんをよろしく…」
そう言って女教授は息を引き取った。
志穂は女教授の亡骸を埋めてその場を後にした。
「さようなら…お母さん…」
そう最後に呟いて。
第三十一話
恐怖のみかん買占め作戦
「みかんはやっぱり、やっぱり、gooスよ!」
「いいや、あんちゃんだよ。」
香矢とルリが言い争いをしている。
「ただい…って何の騒ぎですか?」
買い物から帰ってきた志穂が驚いて聞く。
奥からコーチが出てきて言った。
「一番、美味しいみかんジュースで言い争いしているのさ。くだらないねっ…」
「志穂ちゃんは!?」
「どっち派スか!?」
ルリと香矢が同時に聞いてきた。
志穂はその勢いに押されながら答えた。
「私は…ええと、サッホロ?」
その答えに二人は肩を落とす。
香矢が言った。
「志穂さん、それはビールのメーカースよ…」
ルリも言う。
「志穂ちゃん…渋すぎ…」
志穂は困りながら言った。
「だって私はジュース飲まないですもん…飲み物のメーカーなんてお父さんが飲んでいたビールメーカーぐらいしか…」
コーチがみかんジュースの入ったコップを3っつ持って出てきて言った。
「まぁまぁ、ジュースは自家製が一番…どう一杯?」
3人はコップのジュースを飲み干す。
香矢とルリはジュースを噴き出した。
一人だけ飲み干した志穂が言った。
「…みかんって苦いのですね。」
「ふふふ…うまいうまい。」
女帝がみかんジュースを飲みながら呟いた。
「邪魔者もいなくなったわけだし…これからは自分のしたい事だけをさせてもらうとするかね。」
楽しそうにみかんジュースの缶を開けていく女帝。
やがて全てのジュースを飲み干してしまった。
女帝は言った。
「ふむ、早速良い事を思いついたぞ。みかん魔女!」
「ミー!」
女帝に呼ばれてみかん魔女が姿を現した。
女帝はみかん魔女に命令した。
「日本中のみかんジュースを手に入れてこい。かぼちゃ魔女を使っても構わん。」
「ミー!おマカせを!!」
そう言ってみかん魔女は出て行った。
女帝はジュースの缶の山を蹴り飛ばしてハマキを取り出して吸い始めた。
「最近、自販機からみかんジュースが消えたと思いませんか?」
数日後、ミカが話し始めた。
香矢が言った。
「知らないスか、ミカさん?みかんジュースを運んでいるトラックが強盗に合っているって話…お金じゃなくて中のみかんジュースだけ奪っていくらしいスよ?」
コーチがその話を聞いて言った。
「変な強盗ね…そんなものを集めてどうするのかしら?」
香矢はちっちっちっと指を振り、言った。
「これはきっと魔女の仕業ス!みかんを奪う事で人々の心を荒廃させようとする恐怖の作戦…さぁ、志穂さん!聖女ドラゴンヴァルキリーの出番スよ!!」
ノリノリの香矢を制止してミカが言った。
「しかし、香矢殿。この強盗事件はダイナマイトとか使っての事件ですから魔女とは無関係では?」
香矢はズルっとこけて言った。
「そうなん?ってミカさん、あちきより詳しいじゃないスか…」
ミカは表情を変えずに言った。
「いや、香矢殿の情報収集能力を試そうかと…」
香矢は叫んだ。
「むがー!何の試練スか!やはり忍者には敵わないスか…」
志穂は笑いながら言った。
「まあまあ…でも、魔女の仕業じゃないにしても物騒ですね。香矢さんじゃないですけど私の出番なのかも…」
志穂は香矢と一緒にみかんジュースの工場に来ていた。
香矢が小声で言った。
「トラックを襲いすぎて運ぶの自体やめてしまったスからね…となると次は大元の工場を狙うのがセオリーっス。」
志穂は言った。
「とりあえず、付近に怪しい人物の気配はしませんけど…」
香矢は驚いて言った。
「分かるスか?」
志穂は軽く答えた。
「えぇ。人間とかの気配なら何とか。でも、魔女は気配を隠しているから分からな…」
その時、爆音が響いた。
志穂は言った。
「行ってみましょう!」
香矢が呟いた。
「魔女以外の気配が分かる志穂さんがいるのに事件が起きたって事は…」
「ミー!かぼちゃ魔女どもよ、ハタラけ!!」
爆発のあったところではみかん魔女とかぼちゃ魔女がみかんジュースを集めていた。
そこに志穂と香矢が駆け付ける。
香矢が言った。
「のわー!?みかんがみかんを奪ってる!?」
みかん魔女は怒鳴った。
「ミー!何やつだ!?」
志穂は胸の十字架を握りながら言った。
「魔女の仕業と分かれば…もはや手加減の必要はないわね!!」
そして叫んだ。
「ドラゴンヴァルキリー!ドレスアップ!!」
十字架をもぎ取り黄と緑の姿に変身し、叫んだ。
「聖女!ドラゴンヴァルキリー!!ダブルドレス!!!」
「ミー!かかれぇ!!」
みかん魔女はかぼちゃ魔女達に命令した。
香矢が言った。
「うわー…自分で戦わない典型的な悪役スか…」
「パンプキン!」
かぼちゃ魔女は志穂に飛びかかったが次々と志穂に切り捨てられていく。
みかん魔女は怒鳴った。
「ミー!ナニをしている、セントウノウリョクがヒクいのだから聖女にチカづいてジバクせんか!!」
かぼちゃ魔女を全て切り捨ててから志穂は言った。
「無理よ。私は雷と草の戦士。電気の力で近づいてきたかぼちゃ魔女の自爆の制御装置を狂わせているんだから。」
志穂は剣をみかん魔女に向けて構えた。
みかん魔女は叫んだ。
「ミー!こうなればオクのテだ…みかん魔法!メツブし!!」
みかん魔女の頭が割れ、中から飛沫が飛び出し志穂と香矢の目にかかった。
「ぐっ!」
「わー!前が見えないっスよ!」
みかん魔女は勝ち誇って言った。
「ミー!これでワタシのスガタはミえまい…おまけにワタシのケハイをサグることもフカノウ!シねい、聖女!!」
みかん魔女は志穂に向かって殴りかかった。
志穂の体に触れる直前にピタリと止まった。
志穂の袖から草が伸び、みかん魔女の体を縛ったのであった。
みかん魔女は驚いて言う。
「ミー!ワタシのバショはワからないのにナゼだ!!」
志穂は目を閉じたまま言った。
「確かに目は見えなくなった…魔女の気配を探る事もできない…でも、音は聞こえるのよ!あんたのうるさい足音が!!」
みかん魔女を縛っていた草が緑色から黄色に変化する。
そしてみかん魔女の体がバリバリと音を立てて光り出す。
電流を流されているのだ。
「ミー!女帝様―!」
みかん魔女は黒焦げになった。
「結局、何がしたかったんスかね、あの魔女は?」
鳥羽兎に戻って目薬をさしながら香矢が言った。
志穂は首を横に振りながら言う。
「さぁ?魔女の考え…女帝の考えは分かりません…」
ミカが横から口を挟む。
「みかんを奪って人々の心を荒廃させたかったのでは?」
香矢が頬を膨らませて言った。
「その話は忘れて欲しいスよ…その場のノリで言った言葉をほじくり返される程、恥ずかしい事はないっスよ…」
その時、コーチが買い物から帰ってきた。
「おーい、みかんジュースが再販されてたよ!思わず、買占めしちゃったねっ!」
その手には大量のみかんジュースが入った紙袋があった。
香矢はげんなりとして言った。
「もう、みかんはこりごりスよ…」
第三十二話
次なる聖女
ある日の女帝のオフィスにて。
そこには女帝の姿はなかった。
代わりにフード付きのコートを着た怪しい集団がいた。
その一人のフードが落ちて中からかぼちゃ魔女の顔が出てきた。
慌ててフードを被りなおす。
他のフードの人物が声をかけた。
「パンプキン!キをツけろよ!どこでダレがミているのかワからんのだから…」
フードを被りなおしたかぼちゃ魔女は言った。
「パンプキン!す、すまん…」
フードの集団…かぼちゃ魔女達は井戸端会議のように口々に喋り出す。
「パンプキン!しかし、女帝サマはどこに行ってしまわれたのだ?サイキン、スガタをミないが…」
「パンプキン!おマエ、シらないのか?ウィッチをシヨウにツカおうとタクラんでいたのがばれ、ショケイされるのがキまったコトを。」
「パンプキン!ホントウか!?」
「パンプキン!ドラゴンサマのためにツクられたウィッチをジブンのシヨクのためにツカおうとはオロかな…」
「パンプキン!ドラゴンサマのゲキリンにフれてトウゼンだな。」
「パンプキン!どこでいつ、オコナわれるんだ?」
「パンプキン!クワしくはこのカミにカいてある。おマエ、イくのか?」
「パンプキン!トウゼンだ!女帝サマのソウシキみたいなもんじゃないか!!」
紙を受け取った一人が女帝のオフィスを後にした。
外に出てフードをとる。
その中から出てきたのはかぼちゃ魔女ではなくエミであった。
「パンプ…はもういいんだっけ。女帝が処刑…?まさか…!?」
貰った紙を見ながら呟いた。
「…どう思いますか、志穂殿?」
エミからの報告を受けたミカが志穂に聞いた。
志穂は少し考えてから言った。
「ありうる話だと思います。女帝はおかあ…他の幹部とは目的が違うように思えました。女医や女教授は単純に人間の粛清を目的としていました。でも、女帝はどうもお金の方に執着した作戦が多かったです…それは他の魔女、トップのドラゴンという魔女から見たら裏切りととられるのかも。」
香矢は言った。
「でも、これで強敵が戦わずに減ってくれるって事スよね?」
志穂はまた少し考えてから言った。
「…エミさん、処刑される場所と時間、分かりますか?」
エミが驚いて言う。
「紙を見れば分かりますけど…志穂さん、どうするつもりですか?まさか、助けるつもりですか!?」
志穂は言った。
「女帝は敵だけど…もしかしたら助ければ改心してくれるかもしれません。」
ミカは呆れて言った。
「志穂殿は優しいですな…しかし、その考えは甘いのでは?」
志穂が喋る前に香矢が口を挟んだ。
「それが志穂さんの良いところスよね!まぁ、見殺しにするのも後味が悪いスよ!」
コーチが言った。
「おいおい、さっきと言ってる事が違うねっ…」
「ヒーヒン!それではショケイをハジめるぞ!!」
馬の姿をした魔女がはりつけにされた女帝に向かって言った。
女帝はボロボロの姿をしていた。
必死に叫んだ。
「た、助けてくれ!私はまだ死にたくない…死にたくないんだ!!ドラゴン様、お慈悲を!!お慈悲をー!!」
馬魔女は叫んだ。
「ヒヒーン!ミグルしいぞ!せめてサイゴはイサギヨくドラゴンサマのバツをウけよ!!」
「待ちなさい!」
その時、叫び声が響いた。
志穂であった。
志穂は続けて言った。
「その人の命、私が預かります!!」
そして胸の十字架を握りしめて叫んだ。
「ドラゴンヴァルキリー!ドレスアップ!!」
赤と青の戦う姿に変身し、再び叫んだ。
「聖女!ドラゴンヴァルキリー!!ダブルドレス!!」
馬魔女は困惑しながら叫んだ。
「ヒヒーン!まさか聖女がジャマしにアラワれるとは…モノどもかかれ!!」
近くに待機していたかぼちゃ魔女の集団が志穂に飛びかかる。
「パンプキン!」
しかし、志穂の敵ではなかった。
自爆は水のバリアで防がれ、全て志穂の剣と炎で倒された。
「ヒヒーン!オボえておれ、聖女よ!」
そう言って馬魔女は逃げて行った。
志穂は女帝をはりつけから下ろし言った。
「大丈夫ですか?」
女帝は信じられないという顔で志穂に言った。
「何故、私を助ける…?私はお前の敵だぞ?」
志穂は首を振って言った。
「私は弱い人の味方です。貴女はもうウィッチに追われる私が守るべき人…」
女帝はその言葉に涙を流した。
鳥羽兎に女帝を連れて志穂は帰ってきた。
席の一つに座らせたところ、香矢が近づいてきて言った。
「やいやいやい、今までよくもやってくれたスね!」
女帝は力なく答えた。
「すまなかった…」
香矢は目を丸くして言った。
「おろ、意外な反応…」
ミカも近づいてきて言った。
「ウィッチの事で知っている事を全て話してもらおうか?」
女帝は溜息をついて言った。
「分かったよ…しかし、少し休ませてはもらえないか?」
エミも近づいてきて叫ぶ。
「何を甘えた事を!」
「みんな、止めてください!」
志穂が叫ぶ。
「…この人はさっきまで捕まっていたのですよ?それにさっきの涙…時間ならあるのですから私達が知りたい事はきっと教えてもらえますよ。だから少し…」
志穂がそこまで言った時に外から叫び声が響いた。
「ヒヒーン!」
全員がビクっとする。
女帝はガタガタと震える。
「ちょっと見てきます…その人をよろしくお願いします!」
そう言って志穂は飛び出して行った。
志穂がいなくなった瞬間、それまで女帝に詰め寄っていた3人はコーチの後ろに隠れた。
コーチは呆れて言う。
「おいおい、お前ら…」
エミはコーチの後ろから女帝を見ながら言った。
「だってねぇ…」
香矢も合わせて言う。
「こいつもやっぱり魔女なんしょ?」
「くくく…」
突然、女帝が笑いだす。
「女医の正体はイカ魔女、女教授の正体はバラ魔女であった…では、この女帝の正体は?」
そう言うと懐からハマキを出し火をつけた。
すると、姿が鹿の姿に変わっていった。
鹿魔女は言った。
「シーカ!ウマくいったな!聖女をおびきダすサクセン…馬魔女とはさみうちにするマエにまずはキサマらをチマツりにしてやる!!」
ミカは溜息をついて言った。
「だから甘いと…」
じりじりと近づいてくる鹿魔女。
その時、フルートの音色が鳴り響いた。
鹿魔女は足を止めて言った。
「シーカ!ナンだこのネイロは…」
香矢が嬉しそうに言った。
「フルートの音色…帰ってきたんスね!」
トイレのドアがバタンと開いて中から出てきたのは…
友知であった。
友知は叫んだ。
「お待たせしました!みんなのピンチに颯爽と参上!」
コーチは言った。
「そんなとこから出てきて何を言ってるね…」
エミも言った。
「それよりもずっとトイレに潜んでいたんでしょうか?」
友知が顔を膨らませて言う。
「ぶー!久しぶりの再登場なんだからもっと歓迎してよ!」
鹿魔女は言った。
「シーカ!もうヒトリの聖女か!しかし、イマのおマエにナニがデキる!?ヘンシンもできないおマエに!!」
友知は胸を張って言った。
「甘い甘いスイーツかっこ笑い!アタシにはこういう時のために奥の手があるのよ!!すなわち…コマンド、逃げる!」
その言葉と同時にエミが煙幕を鹿魔女に向けて投げつけていた。
鹿魔女が煙幕を払う頃には全員、鳥羽兎の外に出ていた。
「シーカ…まぁ、いい。ソトで聖女とイッショにシマツするだけだ。」
外では赤と黄の姿に変身した志穂が馬魔女と戦っていた。
その時、鳥羽兎からコーチ達が飛び出してくる。
志穂が叫ぶ。
「みんな!それに友知まで!!何があったの!?」
「シーカ!こういうコトだよ!」
遅れて鹿魔女が鳥羽兎から出てきた。
「シーカ!馬魔女よ、あれをやるぞ!!」
「ヒヒーン!はっ、女帝サマ!」
馬魔女が志穂の体を蹴りあげた。
志穂は鹿魔女の方に吹き飛ばされて行き、鹿魔女の角に突き刺さる。
「がっ、ぐわぁ…!」
志穂は刺さった体を無理やり引き剥がす。
剥がれた瞬間に今度は鹿魔女が蹴りあげる。
そして勝ち誇ったように言った。
「シーカ!みたか!これぞ合体魔法、ウマシカ!」
香矢がキョトンとする。
「どこが魔法スか…」
友知が言った。
「だから馬鹿ってことなんじゃないの?」
エミが叫んだ。
「言ってる場合ですか!そうだ、友知さん!貴女も変身して一緒に戦えば…」
コーチが慌てて言った。
「それは駄目だ!今、夜葉寺院の十字架は田合剣が持っている。十字架なしで変身したらこいつの命が…」
香矢も続けて言う。
「かと言って十字架を返してもらえば、二人ともダブルドレスにはなれないスからねぇ…」
ミカが叫んだ。
「何と不便な…それでは志穂殿一人であの強敵二人を相手にしなければならないと申すか!」
「手ならあるよ。」
友知の言葉に全員が注目した。
友知は続けて言った。
「でも、そのためにはこの場を何とか逃げ延びないと…」
その時、志穂がみんなのところに飛んできた。
「…逃げるくらいなら今の私でも。」
そう言うと全員を持ち上げて空高く志穂は飛んで行った。
「ヒヒーン!マて!」
馬魔女の言葉にいつのまにか元の姿に戻った女帝が言った。
「まぁ、待て…潰す楽しみが先に伸びただけだ。今の戦いで我らに負ける要素がない事がよーく分かったからな。」
志穂達は廃病院にきていた。
かつて、志穂と友知が改造された場所に。
「…何を二人で話しているんスかね?」
香矢が誰ともなく言った。
コーチも首をかしげて言う。
「さぁあな…しかし、二人にさせてくれとのことだったからね…」
二人っきりになった志穂は友知の提案に叫んだ。
「!そんなの駄目よ!!」
友知は首を横に振って言った。
「でも、敵はどんどん強くなっているわ。それは今、戦っている志穂が一番分かってるでしょう?」
「…」
「アタシはやるわ。守りたいものがあるから。」
志穂はそんな友知に言った。
「分かったわ。でも、先にやるのは私。」
友知は溜息をついて言った。
「はぁ…まだあんた、アタシの事を巻き込んだとか思ってるの…」
志穂は首を横に振ってから言った。
「違うわ。Ⅰから順番に…って事よ。私にも守りたいものがあるしね。それじゃあ、時間稼ぎは任せたわよ?」
そして銀の十字架のネックレスを友知に渡すのであった。
「ヒヒーン!ここにマチガいないか!」
「パンプキン!チジョウからヒッシにオいかけたのでマチガいありません!」
馬魔女とかぼちゃ魔女が騒いでいる。
彼らは志穂達が逃げ延びた病院までたどり着いたのであった。
女帝は言った。
「もう少しだ…女医も女教授も成し遂げれなかった聖女の粛清を今こそ私が…!そうすればドラゴン様も私を…」
馬魔女は言った。
「ヒヒーン!しかし、女帝サマミズカらおデになられなくてもよろしかったのでは?」
女帝は溜息をついて言った。
「聖女のせいで私のドラゴン様の評価は下がる一方なのだよ…このままでは本当に処刑されてしまいかねない。そのためには確実に聖女を粛清せねばならないのだよ。」
その時、フルートの音色が鳴り響いた。
友知が病院の中から出てきて言った。
「中間管理職は辛いね~。上司の顔色ばかり伺って。」
女帝は言った。
「今度はお前が相手か!?しかし、胸の十字架は一つのようだが…」
友知は胸の十字架を握って言った。
「魔女退治に十字架は一つで十分!」
そして叫んだ。
「ドレスアップ!ドラゴンヴァルキリャー!!」
胸の十字架を引き千切り、紫色の姿に変身して叫んだ。
「聖女!ドラゴンヴァルキリー!パープルドレス!!!」
女帝は笑いながら言った。
「哀れよのう…そんな旧い姿になって…」
そしてハマキを取り出し火をつけると鹿魔女の姿になった。
(志穂、急いで!)
友知は剣を構えながら強く思った。
「志穂殿は何をしているのだ!?」
ミカが病院の中から外の様子を見ながら言った。
エミは言った。
「分からない…てっきり二人で出てくるもんだと…」
コーチはそんな心配そうにしている二人に言った。
「大丈夫ねっ…きっと、大丈夫ねっ!」
「ぐわぁ!」
友知は合体魔法ウマシカをまともに喰らった。
かぼちゃ魔女の群れは何とか倒したものの、馬魔女と鹿魔女の連携に手も足も出なかった。
友知は呟く。
「志穂…まだなの!?」
鹿魔女が笑う。
「シーカ!ナニをマっているのかしらんが、そのマエにキサマにインドウをワタしてくれるわ!」
その時、病院から人影が駆け寄ってきた。
志穂であった。
鹿魔女は言った。
「シーカ!アラワれたか。さぁ、フタリそろってチマツリりにあげてやる!!」
志穂は不敵に笑い言った。
「いいえ。ここから戦うのは私一人。一人で十分!!」
志穂は胸の十字架を握って叫んだ。
「ドラゴンヴァルキリー!ドレスアップ!!」
胸の十字架を引き千切り、
十字架は柄が白い宝石が入った剣になり
服は白のミディスカートになり
胸は貧乳になり
そんな姿に
なった。
「聖女!ドラゴンヴァルキリー!!ネクストドレス!!!」
鹿魔女は驚いて叫んだ。
「シーカ!まさかキサマ…」
志穂は言った。
「そう…再改造したの自らの手でね。」
馬魔女は叫んだ。
「ヒヒーン!こけおどしだ!女帝サマ、合体魔法です!」
馬魔女が志穂の体を蹴りあげようとしたが志穂の体はビクともしなかった。
「ヒヒーン!?」
「このネクストドレスは今までの姿と次元が違う。そして、」
志穂は剣を構えて言った。
「この姿は今までの5つのドレスの力全てを使う事が出来る上に、6つ目の…風を操る力も備わっているの!」
志穂の剣から竜巻が放出され、馬魔女と鹿魔女の体を打ち上げる。
さらに炎、水、雷、草、毒、5つの色が竜巻の中に入っていく。
「ヒヒーン!」
「シーカ!」
二人の魔女の体がボロボロになっていく。
「とどめよ!」
志穂がそう叫ぶと竜巻は止み、地上に二人は落ちてくる。
「はぁぁぁぁ!」
気合を込めて志穂は二人の魔女を横一文字に切り裂いた。
「…見事だ。グフッ」
体が二つになった女帝が人間の姿になって言った。
「しかし、哀れだのう…我らに勝つために貴様はまた人間から離れていったのだぞ!」
志穂は無表情であった。
女帝は続けて言う。
「人でもなく、魔女も拒みお前はどこに行くというのだ?お前が進む道は…地獄…」
そして女帝は息絶えた。
志穂は女帝の目を閉じながら言った。
「分かっている…それでも進むしかない。」
「二人でね…でしょ?」
友知が笑いかけて言った。
そんな友知に志穂は笑顔を向けた。
それは哀しげな笑顔であった。
第Ⅳ部完
復活ドラゴンヴァルキリーⅠ