MERROW MILK

MILK

こんな女死んでしまえばいい。
心の底から思う。
本当に。
売れてるからってなに?
笑顔が素敵ってなに?
脚がちょっとだけ細くて体も細くて、
性格がよくてお金持ち。
うちらの雑誌を辞めて次の雑誌でいきなり表紙とか。
まじありえねえ。
あんな誠実な彼氏がいて、性格もよくて、
もうすぐ結婚式で、トップモデルで。
こんな女、本当に死んでしまえばいい。
私は本心からそう思っている。
今日の飲み会は「これ」をするために
みんなで仕組んだ。

目の前にはあまいあまいみんなもよく知ってる、
あのブランドのあのあまい水。
製品名がそのまま会社名の、そう、あれ。
目隠しにされている百合はさっきからずっと
不安がっている。
「言っておくけど牛乳はほんとにだめだからね?
失神しちゃうから。
赤い飲み物もだめ。
吐いちゃう。
ほんとにほんとにそれだけはやめてね?」
うそつき。
白い飲み物全般だめなくせに。
豆乳もヨーグルトドリンクもこれもあれもそれもどれも、
白い色の液体すべてがダメなくせに。
手帳にそう書いてあったじゃん。
なんで隠すかなあ?
王様ゲームの王様は私。
ついてる。
天狗になっていないようにみえて実はなっている、
このバカで能天気なお姫様に一泡ふかせてやるのは今だ。
「じゃ、飲むよ?」
飲め、飲め、飲め。
一気に流しこんで
そのまま流れるように死んでしまえ。
「あまいねえ!なにこれなにこれ!超おいしんですけど!」
「目隠しとっていいよ」
「・・・・・・・・・・・・・」
目の前の百合が失神した。
ざまあ。
お前みたいな世間体気にしたお嬢モデルなんか、
まじいらねえし。
性格もよくて売れてて彼氏もあんな素敵な人で、
家柄もよくて育ちもよくておじいさんが政治家なんて、
歌もうまくて今度}CDデビューの話が出ているお前なんて、
そのまま死ね。
百合はぴくりとも動かない。
みるみる内に百合の身体が真っ赤に染めあがっていく。
「ちょ、これやばいよ」
「百合?ちょ、百合?百合?」
「まじやばいって」
「いいじゃん。そのままで」
「・・・・・・お店の人呼ぶわ」
「百合?ねえ・・・・百合?」
「救急車!救急車!」
いいぞ。
いいぞいいぞ私。
これからは私の時代。
こんな雑誌早く辞めて、私もあそこで輝きたい。
ていうか輝きだす。
「百合・・・・ねぇ・・・百合!!」
はっ。腰抜けが。
泣いてんじゃねえよ。
お前らもか関わったからには同罪なんだよ。
「もうすぐ救急車くるからね!?ねえ・・・返事して百合!」
そんなに揺さぶったらお姫様起きちゃうじゃん?
赤い発疹が百合の首にまで到達する。
もっとだ。もうちょっとだ。
そのまま、そのまま首を絞めるようにゆっくりと。
「百合!救急車きたよ!」
「いいから君たちはどきなさい!」
「意識なし・・・脈はあり!」
はい救急隊員到着ー。
ばーいばーい赤いぶつぶつお姫様。
「どきなさい!いいからどきなさいって!」
「あれモデルのYURIじゃん!」
「うっわひっど。なにあれ」
「百合!百合!」
赤い発疹が百合の顔のすぐ側までやってきた。
いいぞ。
そのままもっとだ。
もっと、もっと醜く。
醜くなって世間から笑いものにされろ。
馬鹿にされろ。
大卒だからってえらいの?
なんだよそれ。
中卒の私バカにしてるよね?
絶対バカにしてるよね。
「事務所連絡入れるわ」
「家族にも!」
「それは社長がなんとかするでしょ」
くそ。
最高のフィナーレを見逃してしまった。
けどまあいい。
あのまま赤い発疹は百合の顔をおおいつくすだろう。
醜くなって、今度は私たちの前にひざまずけ。
「もしもし?百合が意識不明なんです!」
「は?なに、言ってることがよくわかんない」
「カルピス飲んで倒れて意識不明なんです!」
「・・・・・・。ちょっと社長に変わるから状況できるだけ詳しく話して」
「ごめんなさい・・・・・」
「いいから話して!」
一句。
古池や
飛んで飲み込む
カルピスを

あー私って・・・風流ー。



「・・・・・・・・・」
「「「「百合!!!!」」」」
「よかった・・・・よかった・・・本当に」
目の前には見知った顔。
パパとママと弟の旬。
社長と海洋。
「あなたなんでカルピスなんて飲んだの!」
「・・・・・・・?」
ああ、あの甘くて美味しいお水。
カルピスなんだ。
美味しかったなぁ・・・
「百合、大丈夫?」
「看護師さん呼んでくる俺」
「海くん・・・・なんで泣いてるの?変なの」
恋人である坂本海洋に右腕をのば・・・
「げ」
右腕全体に赤いぶつぶつが散らばっている。
「げ」
左腕にも!!
「げ」
胸まで!!
「な、な、なんなのさこれー!!!!」
「落ち着いて、百合」
そう言って海洋は百合のベッドサイドにある
丸椅子に腰かける。
百合の右手は海洋の両手にしっかりと捕えられる。
「な、もしかして脚も・・・・きゃー!!!!」
「手、放して?お、。、お腹はどうだろう・・・きゃー!!!」
「あはは」
耐えきれずになって海洋は笑いだす。
だから好きなのだ。彼女が。
「ちょっと社長さんとお話してくるから
2人でそうしてなさいね」
「べむ子だべむ子!妖怪人間べむ子だ!!!!」
「はしゃぐなって」
「もしかして顔も・・・・?」
「そこは大丈夫」
「えーべむ子は顔が真っ赤じゃないと決まらないのに」
「お前・・・・この状況で楽しんでるな?」
「だって楽しまないと泣いちゃうか・・・」
海洋は百合がそう言い終える前に百合の唇を自分の唇で塞ぐ。
「・・・・・・っ。長いよ!」
「泣き止めのお薬」
「うるさいなぁ。海ちゃんはいっつもそ・・・・」
百合がそう言い終えるのを前に海洋はもう1度百合の唇を塞ぐ。
「・・・・・・・んー!・・・・・・・・んー!!!」
「はい、終わり」
そう言って海洋は百合の頭を手のひらでやさしくぽんぽんと2度叩く。
「今のは?」
「おまじない・・・・と、俺がしたかったから」
「照れるー」
「百合、社長がお話があるって」
百合の母親である長谷部恵子がカーテン越しに声を掛ける。
「わかってるよーどうせお休みでしょ?いいよーだ。
ペルソナ5やりまくれるし」
「お前ちょっとは反省しなさいって」
海洋が百合をたしなめる。
「今度みたいなことを二度と起こさないために、
百合ができることってなに?」
「白い液体を飲まない!」
「真面目に答えて」
「もう「見えない」状況で物を飲んだり食べたりするのはやめます。
ちゃんと自分の目で確認して、それから飲んだり食べたりします」
「よくできました」
また海洋は百合の頭を手のひらでぽんぽんとやさしく2回たたく。
「でっへー!」
「すぐ調子に乗る」
「だってべむ子だよ?これでコミケいったら百合、超もてると思う!!」
ここなんだよなぁ。
俺が彼女に惚れてる理由。

一句。
目の前の
女に全部
持ってかれ

・・・・・俺って風流ー。




MERROW MILK

プロローグ阿呆っぽく書くように心がけました。
物語は続きます。

MERROW MILK

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-10-02

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