紡ぎ

恐ろしき仁王様
格子に囚われたまま、
打ち捨てられた恐怖を踏み潰す。

汗が滴り落ちる真上を、
モンシロチョウが風に舞う。

その上にある記憶の抜け殻を呪い続けた。
そうして、港町の砂利船が、遠い過去を運び去って行く。

何処にもない。
足下までひび割れたまま、
深き悔悛の和音が、港の方で鳴り響く。

さては、
舞い戻ってきたのか。
赤錆びた巨大な貨物船に積まれたまま。

もはや、構うな。
あの石段を登れば、
焼き付いた黒瓦の上に、
留まる何者かを掴み取ることが叶う。

誰か、僕を呼ぶ声が、
聞き覚えのある。
放っておけ。
あの時間を呼び戻すなど、諦めるがよい。

見よ。
渦巻いている。
その上に、
先ほどの蝶が。

紡ぎ

紡ぎ

  • 自由詩
  • 掌編
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-07-01

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