短歌集/草雲雀の歌
ー 鳴き渡る雁にもまして身にしむは
月夜の影の草雲雀の歌
霞み分け春を歌うは揚げ雲雀
見上げる雉の遥か頭上に ―
百年の時を経てまたもや繰り返す
愚かな人の業こそ哀しき
戦いのもたらすものは死と破壊
生涯消えぬ深き苦しみ
無慈悲なる所業に及ぶその心
愛に渇きし独裁者の胸
しかしまあ明日は知れぬとはよくいうものよ
社会の危うさ命のはかなさ
未来の希望は幸せは幼き瞳の輝きにあり
それを涙で曇らせるものは決して許さぬ
兄弟よ一歩その一言が未来を拓く
澄んだ心でともに明日を
自由と平和のために闘うすべての人々に栄光あれ
命を懸けて戦うウクライナの兄弟たちに栄光あれ
〈2020/03/12)
灼熱の夏越し野分も免れど
見えぬコロナの世ぞ恨めしき
信義をば尽くせど君のあの言葉
砂の山をば崩すひと波
懐かしき歌にあふれるこの涙
何が故かと心に問えど
コロナ禍に生きる望みをつながんと
する身を無残に打つ世の冷たさ
(2020/11・13)
久々に熱き歌人の乱れ髪
目にして歌の心再び
世を覆う雲もいつしか消え去りて
希望の光を見出すや人
草ぐさも野に生かざるを得ぬものも
人の行くすえ息をのみ見る
我はまだ露を凌げる屋を持てり
路頭に迷う人に比べて
人に付き誠をささげて尽くせども
世の理不尽さ我を見捨てり
(2020/11/06)
早や揚げ雲雀 初音越されて鶯は
舌を打ちつつ谷を彷徨う
(2020/03・02)
若人を羨む心も今はなし
やがて彼らも老い逝く身なれば
畑に掛け紙コップのコーヒーを
飲んで語る友人楽しや
干し物も見えぬ隣人具合やいかに
運ばれしのち音沙汰もなく
老体に鞭打ち働く仲間達
金持つものは贅沢三昧
殺し合い金儲けするほか能が無い
毛の無いサルよとカラスが笑う
浮世などただの夢よというけれど
楽しい夢のうちに消えたや
あどけなき子供を見るたび
可愛さを想いて願うよその幸せを
何かにつけ歌は心の慰みよ
俗歌のよさも分かりしこの頃
我が母に歌えば頷き涙する
今出来る唯一の親孝行か
共に生きる喜び忘るな我が連れ合いよ
そっけない君に我の心は
(2020/01/06)
長寿なりと祝われること無く疲れ果て
君よ許せや我も後逝く
片隅に忘れられしは何ゆえか
世に尽くしても報われぬ今
君今は 我を誰かも忘れ果て
ただ中を見てもの言わぬとは
老いたるも鬼となる身の恐ろしき
君果てし後に泣き叫ぶ我
若き我 若き君をば偲びつつ
手を握り頬寄え合いて来世へと行く
願わくば次の世でもめぐり合い
また共に暮らそう愛しき妻よ
(2019/12/29)
あな嬉し妻歩き出し足速し
介護疲れも超えて一年
真ともなる道歩めじと八十路なる
君よ嘆くな独り身もまた良し
人の世に返り咲く花は嬉しくも
野の返り咲きは怪しくもあり
彼逝きて君残れるも寂しやな
連れ合いも先に逝きし独り身
(2019/12/21)
我が孫の身の上案じてメール送れば
返信嬉しや気を持ち直し
隣人を慰めんとすれば逆にまた
己の心も和み秋風
この歳で病をば押して生業の
有り難くもあり苦しくもあり
(2019/11/08)
誠を尽くし 身を振り絞って働くも
報いられぬなら 他の生業をせん
やはり我 人の下で働くに向かず
自由に生きてこそ 真の我ならめ
自らを頼りて 生きん残り世を
金の奴隷になるなど愚か
(2014/10/08)
夢の中寄り添う恋のときめきも
覚めて悲しや朝顔の露
芸の道 己のためより 浮世をば
生きる人の苦をやわらげるため
我を離れ人のために生きてこそ
自他共に幸を得る術なり
人の世とは救い難しと諦めて
離れて暮らす はて何処でや
(2019/10/03)
老いの路を共に歩む君なれど
我に囚われて救うは難し
日々の糧 得るも難し人多き世に
きみ贅沢に慣れて計れず
(2019/09/18)
古来より伝うる歌舞や音曲も
消えるは悲し洋の乱舞に
(2019/07/30)
道端に一人腰掛け涙する
老婆の肩に初夏の陽の影
老いの坂 共に下りし夫なれど
我失いて 途方にくれしと
愚痴を聞き 心安めて離れしが
家に帰れば元の木阿弥
(2019/06/26)
寂しきに 心の窓を開けぬれば
きみ微笑むや 時を超え来て
この線を越えてはだめよと君の目が
われを見据えてそう訴えり
身と心 離れし恋いの刹那さを
まだ明けやらぬ五月雨の夜に
(2019/06/23)
聴き慣れぬ その囀りの心地よき
海ヒヨドリよと人は言うなり
故郷の潮の松ヶ枝はなれ来て
恋しく無きやあの波の音
朝夕のさえずる声の麗々と
恋しき海を思う唄かな
(2019/06/22)
仰ぎ見る天人楽の華々し
われは草葉の虫の声かな
梅の花 年を重ねて銘木と
なれども若芽を 影に守りぬ
願わくば戯れごとと誹らずに
羽削ぐわれの音 天の実りへ
(2019/05/06)
今宵また切なき思いをゆきづりの
君と契りて枕寝の夢に
昨日は一人今日は二人と緑風の
草葉の陰に帰り来ぬひと
何よりもそのうら若き妻ゆえに
君の若さは保たれてるのさ
呼び鈴に出れば可愛い二人の少女
緑風になびく髪 手には土産の蕗の束
色欲の思いを断てば味気なし
一人暮らしの老いの身の上
世の中に理想の人など居るものか
いずれも同じ生身の人よ
うら若き15の娘を羨む老婆
8人もの子育てに費やした人生
まだ青き夢見る孫に希望をと
思えど世はその逆を行く様
生きるすべ心得たはずのこの年に
青き迷いを情けなき我
生業も暮らしも嫌になりし夜
何を告げるや春雨の音
惣菜が気に入らぬという君よ
餓えて死ぬ人いるを知らずや
(2019/04/24)
春うらら桜の花は見ごろにて
言うことなしが何故か空しき
其れに付け羨ましやな彼の禅師
老いの最後に若き恋人
真実の愛に生きたや古希なれど
心の渇きはまだ青きまま
この年に働かざるをを得ぬ身の上に
重き心を抱く秋の夜
明け行く空に虹立ち昇りて七色の橋
しばしたたずみ世の暗さを嘆く
陽は眩しき真向かいに 野に煙たなびきて
ひと穏やかに秋を語る朝よ麗し
荒れ狂う嵐にその身を顧みず
世のために尽くす人の尊さ
嵐過ぎ去りて雨戸開ければ
ツクボウシ初なき空に雲は残りて
天も地も怒りに震えて風起こり
水逆巻きて山を火が這う
夏祭り都の君は浴衣きて
ビール片手にはしゃいでいるかも
身を襲う病魔と闘う君を見て
なすすべもなきこの不甲斐無さよ
わが孫よ はじける思いに惑わされ
道はずるるを案ずるがゆえに
君恋えど悲しや我の髪の色
変わらぬはただ胸のせつなさ
故郷の祖国を追われて彷徨う人々
安住の地は果たして何処に
天変地異の続く世界の人心も
乱れに乱れて行く末見えず
害獣の捕獲に人は安らげど
その処分には心痛めり
風うなる梅雨の晴れ間に出てみれば
畑の青きトマト膨らみ
植え並ぶ早乙女笠に恋う人の
顔見えずともうなじ見つれば
早乙女の振袖ふらぬ笠の内
晴れねば見えぬ夏の空かな
蛍火をはるか昔に追いし頃
あの若き父にも一度逢いたや
沈む陽を追いて暮れゆく初夏の日の
その一日を静かに思う
思いのすれ違ったチグハグナ日
君も僕も心の重さだけが残った
朝から散々な一日 月だけが
いいじゃないかと輝いていた
ふと寂し送りしメール返事なく
春の嵐の静まりし夜は
世の憂さを花でも咲かせてはらさんと
種撒く鉢に陽は燦々と照り
我が想い込めて送りし歌読みて
君返しなば嬉しきものを
戯れに過ぎゆく春風囁きぬ
身は縛られても心は自由よ
撥相いて響き合えども三味の糸
幅を隔てて付かず離れず
彼の人の文の心を測り兼ね
我も行間に想い潜めて
雪忍び連理の枝に咲く花の
開きて共に春をば迎えん
有明の月の裏戸の萩の露
濡れ行く人を知るは我のみ
一夜とぞと思いてのちも笹の露
分けては通う月の柴の戸
仮初めの契りはそれぞ笹の露
覚めては知らぬと君は袖振り
春風の誘いも甘き春の宵
気づけば笹の露の夢あと
寒戻り朝日遮る曇り空
小鳥の春の歌も途切れて
邯鄲の夢の如くと浮世をば
恨まず生きんその日を暮らして
聞き慣れぬ声の主は磯に住む
海ヒヨドリと か此の街中に
尾は振れど操は固しと鶺鴒の
聴くも麗し春の恋歌
花散りて 緑深まる山の端の
辺りに響く雉の雄叫び
振り向きつ 雉の行く手を横ぎりぬ
暫し見惚れて我を失う
心なしか痩せ身に見ゆる雉出でて
振り返りつつ薮に消え入り
初夏の陽に 芽吹きし木々は輝けど
聴こえし雉の声や何処に
我もまた 土筆の身かな春くれど
花も咲かせず杉高くも為せず
(2018/04/04)
愛込めて握れば返す柔らかき
君の手のひら二度と離さじ
我が胸の想いを知らずに行く君の
後姿にサヨナラを言う
【月様、雨が・・。】
幕末の都大路に降る春雨に
相愛人は静かに濡れつつ
これがその 花の簪濡れ染めし
春の雨かやいと柔らかき
【 早春に想う 】
遠き事と昔は知らずに過ごせしを
今は即座に知れる世となり
貧しさや戦火を逃れて行き着きし
希望の都に待ちしものとは
銃口の先に消えにし命をば
ものともせずに武器を売る者
如何にせん戦火の中を逃げ惑う
幼き命の叫びを知りつつ
同じ世の人と生まれし者が何故
幾多の人の運命を握るや
雪氷の凍てつく石路の片隅で
絶望の果ての骸は動かじ
人の世など知らじと春は訪れㇼ
変わらず花は今年も開いて
紅白の梅咲き揃いてもなお寒し
夢は弥生の花の色かな
【 立春の夜に 】
ありがたや那智の菩薩のお姿を
画面に拝みて夜を過ごしけり
彼の人の心の程を計りかね
冬の夜風の床の寒さよ
何げなき君の仕草に哀しくも
他の人への思い籠りて
身も財も叶わぬ故の仕業なり
ただの我には今はそれしか
沈みゆくこの身を繋ぐは先見えぬ
三味の生糸の不確かなる撚り
節分の今は寒さの極みなり
明日より春よと心震わせ
こころよき水の瀬音の そのように
こころに響く音色よ三味の音
行く川の流れの中に堂々と
古き巌の立ちて動かじ
琴初め 曲はといえば笹の露
弾き手も目出度き老壽の名手
【 初春に 】
年明けて 早もう三日となりにけり
隣りの家の賑やかなこと
何もせずただ一日を過ごしたり
静か時の流れのままに
休まずに疲れて帰りし介護の人に
わずかな糧を渡す夕暮れ
咲しかや 戸の隙間より山茶花の
目白の声を聴く初春の朝
(2018/01/03)
幼きに飢えを感じた人ゆえと
知ればなるほど君の食欲
今宵また窓うち叩く寒風に
目覚めし夢も悪き年の瀬
他所の孫へ聖夜にお菓子のプレゼント
訝る妻よあの喜びを見よ
スターウォーズ観たいと我を誘う孫
今や十五の春を迎えし乙女なり
(2017/12/26)
私も早や介護の母を持つ身にと
届くメールに寄る歳の影
想い人に心知られずに寄り添いて
その幸せを願う日々かな
降りしきる雪の白さをその儘に
人の心よ何故生きられぬ
穢れ無き幼子の瞳に頬寄せて
抱く喜びを知る歳となり
願わくば諸神仏よ手を取りて
互いの信徒に和をもたらせ給え
運命をひとりの者に 握られし
世の不条理をいかにして解く
我が孫よ言葉も人を傷つける
凶器なのだと知りなさい
人は皆からだと心で出来ている
それを大事に自他ともに
(2017/12/24)
人の世とはそういうものよと
仏もうさく なれど我は
人は皆少なからずも苦を背負い
生きている身と思い知らさる
ああ花鳥風月を愛で季の移ろいに
浸りたくとも世がそうさせじ
酷寒の朝も厚き衣服をば
纏いてただ耐え忍ぶ惨めさ
子路の故事 時をはるかに消え失せて
身を失いし親 後を絶たず
人を人と あり占める言われ何処にや
ただ金銭を追い求める世の
金欲の果てに起こりし戦いが
世を破滅させるを歴史は示す
他を思いやり平和を愛する心のみ
すべての人に幸をもたらす
武器を売り 使う者こそ世の平和
乱し壊すと肝に銘ずべし
(2017/12/17)
きみすでに幸多き身にある故か
薄き人への想いに至らず
素晴らしきかな君の笑顔
心輝きて周り照らすその笑顔
人の世の陰に生き抜くカゲロウの
如き命を救う道とは
微笑さえも忘れて流す涙さえ
乾きて見つめる瞳の哀れさ
白雪の溶けてながれの澄みし水
濁らぬ儘に至れよ大海
救われぬ心のままに閉じし命
慈悲の菩薩よ我如何にせん
【 混乱の世に 】
時流れても哀し浅まし人の様
愚かなことの繰り返す様
数億の人の心を縛るのは
ただ一人の浅ましき心なりしや
花鳥風月何れや何処に
唄う小鳥もやがては消え失せ
火や水や嵐の襲う今の世に
希望の道を見い出せぬ苛立ち
人殺め人を苦しめ続けては
何時まで経とうと光は見えぬ
物事は人の心の為すがまま
よきも悪きも心がけ次第
良き世をば幸求るならばその心
澄し知恵者を立て進むべし
(2017/12/13)
【老いらくの恋】
君が胸 孫の笑顔に満たされて
幸せなれど我は寂しき
彼の禅師 真如の眼 開くなら
老いの苦を持て幸に変わるや
我が心 如何に澄めねど変わらねど
老いの坂をば転ぶ悲しさ
君の眼に映るは真の我ならず
思うも道の端の枯葉は散りて
愛らしき初見の花はよその手に
庭の花萎みてただ夢に見る花
その夢も叶わず儘に消えるなら
せめて送れやその微笑で
(2017/12/07)
遥々と 雪に追われし北の使者
羽根を休めて浮かぶ沼影
太古より命を繋ぎ大空を
渡りて暮らす翼よ尊き
歩を緩め静かに過ぎる朝もやの
水面に浮かぶ愛らしき影
(2017/12/01)
春の陽と輝く明日はあるのかと
迷いながらも他に道なし
細き道も辿ればいつか開かんと
信ずる心も重き灯の影
ただ虚し過ぎゆく日々を重ねては
まだ生きる意味を見出せぬ我
冬鳥の鳴き声響く畑に出て
古老とともに無言で陽を浴び
(2017/11/24)
子供たち流行のダンスもいいけれど
日本の踊りも習って欲しいな
なあ孫よ君も何時かは母になる身
しっかり食べて良い子を授かろうね
孫を抱く笑顔羨まし我もまた
昔はああして喜びしものを
世の様を憂う夜の窓長き雨
明日は上がるらし気は晴れるかも
(2017/11/22)
柿の葉に夕陽の赤き照り映えて
逝きにし人の ありし日を偲ぶ
悲報をば書きしたためたる人の文字
癒えぬ今はと受話器を戻しぬ
歳を経れば周りの人が次々と
身罷るを見て寂しさ募りぬ
大国の利害に挟まれ祖国をば
踏みにじられる民の苦悩よ
【星の彼方】
故郷の星を離れて彷徨えば
新たなる地に着くのは夢か
今の世の椅子の賢者は指し示す
我等の活路はあの星の彼方にと
何ゆえに我らに与えられし知能をよと
活かせざるはただ為さぬためなり
あの空へ 生まれし葉をば食い尽くし
羽根を得た後飛ぶ蝶の如くに
果たして地上の毛のないサルの
知恵は苦難を乗り切れるのか
欲望に果てしが無いなら果てしなき
宇宙に向けよとは理に叶うことか
もしかして心の憂さは手狭なる
星の地上が映りしものかや
魅せられし星の銀河の瞬きは
我等を招くサインなのかも
【 何処へ 】
人の手で壊れてゆくをただ眺め
同じ暮らしを此の星の上
苦しき世逃れて来たりし人々を
救う人あり憎む人あり
科学者の警告虚し今もなお
欲追い求める愚かなる日々
笑顔なき小さな身体に苦を背負い
見つめる瞳に我如何にせん
我等も人 あなたと同じ安楽な
暮らしを願いはるばる来たり
故郷を離れて苦難の逃避行
行き着く先に待つははたして
【 逝きし人に 】
如何ばかりかと心優しき伴侶をば
残して逝きぬ君の心は
君逝けど我らが心に忘れ得ぬ
明るき笑顔と気風は今も
新しき命を得たる来世でも
また巡り合い君と語らん
(笠井真由美さんに捧ぐ
2017年11月3日)
【 地唄『楫枕』に寄せて 】
我が身をば過ぎゆく風の冷たさを
知るもなお待つ春の恋風
憂き世をば浮きに浮かれて浮草の
根もなき水の船に揺られて
何もかも船べり流るる病葉の
ゆくに任せて世を漕ぎ渡り
見上げれば小判跳ね散る座敷間に
艪を漕ぐ我が手に冷たき村雨
吉野山花は散りゆく淵の水
汚れ沈むも無常のなす業
落ちに落ちさらに落ちよかお千代船
艪を漕ぐ先のさらなる深みに
苦海をば漕ぎて渡れば弥陀の国
蓮の浄土に仏拝みて
此の世には岸手の差すを諦めて
弥陀の仏の手にぞ縋らん
船暮らし身の哀れさを三味に乗せ
唄う今宵の空は時雨れて
若き故か 声の色艶とおれども
苦海に生きる心感ぜず
竹琴の間に在りて七小町
糸の響きはなお冴え渡り
数多なる支えのありし君と知り
我が身の愚かさを知る夕べかな
何事も無いかの如く虫の声
人の世の闇に響く声とは裏腹
皆ともに同じ命を生きるこの地上
人に与えられし知恵は何故
我も人ただ秋虫の如く愛の歌
唄いて暮らす日々なれば良きに
貧しくも虫の調べを聴く余裕
あるは有り難し無き人もある世に
百余年生きながらえて得るものは
ひととせに届かぬ虫の心知りたや
飢えと苦しみに苛まれる幼き命
有り余る財力で贅沢三昧の日々を送る者たち
ああ人とは
君知るや寝苦しき夜の枕辺に
はや涼やかな虫の音響くを
夢覚めて声も侘しきコオロギの
想いの果てを身に染みて知る
虫の音とともに深まる秋の夜に
如何なる夢の中に彼の人
取り止めのない母の言葉を一匙の
無花果の実を掬いて遮る
はや盆の仏迎える時期となり
故郷の寺より懐かしき声
一瞬の光とともに召されたる
魂の叫びかあの蝉しぐれ
庭の木にとまりし蝉の騒がしき
追い払いても暑さなお増し
猛暑にて身体の調子を気遣えば
あなたこそねとメールの返事
我が心渇きて切なき夏の夜に
見る遊び女の笑顔空しき
暁の日の出の前に畑仕事
夕陽沈みては水やりの音
罪もなき多くの人の運命を
危うき人が握る不条理
聖者は曰く人の世はそのようなものと
言われても愛する人々捨て置きも出来ず
老いぼれの果てに狂いし汝はや
何を為してかこの様な目に
餓えと病に囚われの人見ぬ振りして
贅沢三昧この世の不条理身に染みて知る
武器を棄て幸も苦しみも分け合いて
共に生きる世は何時の日か来る
平和への理想に向かって力を合わせ
努力してこそ未来は開ける
ペルシャ人今も女の苦しみは
変わらじと涙の黒き瞳は
自らの意志で未来を切り開く
目覚めた女性の未来に幸あれ
八重山の島の渚の月影に
波音かすかに三線の響き
皺深く生きる島人傍らに
共に暮らした古き三線
島風に三線爪弾く夕間暮れ
哀歌流れて時は過ぎゆき
苦しさを支えし歌を唄い継ぐ
お婆の生きざま島の魂
化粧箱明ければ香る薄赤き
桃の美しさに暫し見惚れる
蝉しぐれの中を手を振り溌剌と
青い春はまだ我が心の中に
梅雨明けを告げるや朝の蝉しぐれ
長き暑さをいかに凌がん
旧知の人の病をば
救えぬ己の不甲斐なさかな
我が楽は他人の苦しき上にありとて
知れば自ずと人を敬う
深草の繁る道をばかき分けて
目指せど町の灯り遥に
(地唄、七小町を聞いて)
世も変わり気候も変わる昨今に
変わらぬ人の心の愚かさ
雨に煙る電車の窓の夕景色
胸には苦しき人の面影
君の幸を願うは我が喜びと
思えど虚し五月雨の夕
天変地異に見舞われし人の想いをば
白き家に住むもの分からず
夢が浮世か浮世が夢か
今の憂き世が夢でありせば
人を想わぬ専制君主
昔と思わばなんとまあ
自らの愚かな妄想に執り付かれ
世の人々を惑わす者たち
不作だとカボチャの葉をば刈る夫婦
来年は肥料控えて作ろうね
ねえトマトさん 何が不足で実を付けないの
心を込めて 育てているのに
夏服の君細く見え幼き日
貧しき日々を送りし故かと
茶話に興ずる午後の女たち
話題はいつも孫の可愛さ
父の日の包を開くればシャツの柄
好みを今も覚えし娘よ
君知らで 我汲む清水の水面さえ
移る面影我にあらずを
我を疎み 妹と暮らせし母なれど
見放されては 捨て置きも出来ず
逃れ得ぬ 運命とはいえど 年寄りて
息つく先を 憂えぬ者なく
近隣の 心寄せあい 苦楽も分けて
せめて仲良く日々を暮らさん
【里の水辺に】
梅雨空にすっくと立ちて咲き匂う
菖蒲の花の色は紫
渡りくる風に揺れては水玉の
涙を払いて咲く花菖蒲
薗を抜け君の庭へと思えども
水を離れて咲けぬ身を知る
華やかに名花揃いし菖蒲園
何れ劣らぬ姿競いて
その中に一際優れて匂い立つ
われ恋う花のその美しさよ
囲われし名花の池を巡れども
咲く心根を人は思わじ
(注)里とは昔の俗語で花街のこと
罪なき人を傷つけなぎ倒す
悍ましき技を為すも人なりや
初夏の陽に新妻の笑顔初々し
持ちし魚も初鰹なり
限りある命の哀しきかな
思い出だけを残して去りゆく人よ
新たなる道を求めて彼女は去りぬ
過去を断ち切り愛さえも棄て
焦らず奢らず諦めず古人の戒めも
投げ出したくなる芸の厳しさ
【 五月の空に 】
エンドウの飯に添えたる手料理に
君の亭主の羨ましきかな
彼の君の匂いはこれよ高貴なる
気品にも甘き薫る橘
木を被う緑の狭間に散りばめし
橘白き花の宝石
橘を高潔の士の胸にをば
飾るは誠に相応しきかな
男子は橘 女子は桜とは
古人の心ゆかしき
翁と媼何れが先か
橘桜の散るを思えば
柔らかき緑の狭間に純白の
甘き香りを放つ橘
緑増す 庭の片隅照らすが如く
ジャーマンアイリスのオレンジの花
葉桜の下に茂るはツツジ花
眩しき初夏の陽に輝きぬ
咲き初めし白きツツジの一枝を
微笑む君の緑の髪に
昇り立て 男在りやと豪快に
舞し五月の鯉や何処に
揚げ雲雀 鳴くは霞の空遠く
黄砂渡りて声途切れずや
浄土とは 爽やかな 風と光に満ちしこの
五月の永遠に続く世なのかも
此の時期の 寒暖の差は身に堪えりと
老婆は足停め 緑風の中
昇りくる 眩しき朝日を身に浴びて
葡萄の若葉はすくと伸びゆく
五月の風に緑の髪の乙女子は
甘き香りを残して去りゆく
初夏の陽を浴びて輝くたおやかな
緑の髪の乙女麗し
青春の真っただ中をペダル踏む
乙女の髪は風にそよぎて
爽やかな初夏の風受けひた走る
人も車も眩しき陽を浴び
今はまだ優しき陽射しは強さ増し
やがては夏へと我等を誘う
新緑の息吹込めたる爽やかな
林を抜けて 風渡り来ぬ
様々な緑に芽吹く山際に
薄きピンクの山桜の花
緑燃ゆる 山辺に薄き山桜
残して春は遠ざかりにけり
【 勇気ある我が同胞に 】
行く末を案ずるよりも君いまこの瞬間を
懸命に生きてこそ未来は開ける
何時までも武器に頼れば此の惑星で
何れは滅びるただの生き物
人類の未来を拓く道知りたくば
我が平和憲法を心して読むべし
真の勇者は武器を持たず
堅く心に築きたる
平和の砦を守る者なり
君よ怯むな我等の周りには
戦火に消えた数百万の亡き魂が
平和を叫びつ共に歩めㇼ
何時の世にも支配欲に憑りつかれ
人々を戦争へと駆りたてる者あり
人々の争いに乗じ武器を売り
笑いが止まらぬ死の商人達
罪なき人や子供らの未来と希望を奪い去り
死と破壊をもたらす戦争を決して許すまじ
平和とは武器を捨ててこそ訪れるもの
武器を片手に平和を語るなかれ
我の届けし食材を調理したのと
一皿の写真をくれる君の優しさ
夜勤明けの主迎えしシーズーは
ひと声も鳴かぬおとなしき友なり
朝夕の温度の違いに気を配り
育てる夏の野菜苗楽し
佃煮にして美味なりとツツジ咲く
陽射しの土手に嫁菜摘む人
我が手にて剪定なしたる柑橘の
芽生え嬉しや雨上がりの朝
久々に苗造りをば始めたり年金の
立ち行かぬ暮らしを何とかしようと
矍鑠と生きし隣人また一人
散りゆく桜の彼方に逝きぬ
あの声はイソヒヨドリの囀りよ
かつては海の岩場で暮らせり
品薄のポテトチップス買いあさる
我が孫の為にと眼を皿にして
まだ四月半ばというにこの暑さ
盛夏を過ごせぬ人も出るかも
老い先を案ずるなかれ我が友よ
その時来るまで 今この時を
ただ懸命に生きればいいのさ
きな臭き世など知らぬとアイリスは
花を開いて空に伸びゆく
隣人の重なる不幸の追い打ちに
為す術もなく慰める言葉もなし
【花見とミサイル】
空を見上げてふと妻は こんな時に
いつもと変わらぬお花見を
続けてていいのと不安げに言い
数人の限られた人の手に握られた
世界の運命のその危うきことよ
かつてキッシンジャーは憂いたり
優れた指導者の見あたらぬ未来と
その世界のゆく末を
武器で平和は守れない もたらすものは死と破壊
互いの家族や愛する人を 傷つけ殺す道具だよ
平和を望むなら まず武器を捨て
話し合うことから 始めなきゃあ
武器で平和を守るとな 小さな島国
何処に逃げるや 一発落とされたらお終いだあな
平和など ただ一発の銃声で
消え去るものぞ 今この時も
花の下 浮かれて踊る春の空を
何時劈くやミサイルの影
あな恐ろしや家族連れ 何楽しむかと思いきや
銃と戦車の人殺し訓練
身を犯す敵と戦う隣人の
蒼き顔にも生きる輝き
君何ゆえに贈りしや
忘れな草など縁起でもなし
限りある 命と知らされ 懸命の
意味を悟りて暮らす毎日
隣人よ病を克服した後は
共に野菜や花を作らん
満開の桜も墓石ももの言わず
時の流れをじっと見つめて
兜脱ぎ桜の墓地に眠る魂よ
平和の砦を守らせ給え
友言いぬ紅の枝垂れの桜好むは
心の色香のまだ褪せぬ故なりと
染井より京の桜は紅枝垂れ
舞妓の帯の揺れて可愛や
妻旅へ雨降る夜の桜時
一人寂しき台所に発つ
生きる者いつかは帰らぬ旅に発つ
身と知らでやわ 老い来ればなお
届いたる春まく種の袋をば
繰る手を覗く笑顔の隣人
顔見ずと気に掛けていた友来たり
プーちゃん供に元気で何より
(2017.4.10)
門を出で桜の下を帰りゆく
親子の春の心晴れやか
そは昔われも為したることなれど
父すでに亡く母も老いたり
雪解けの川の如くに時流れ
水浮く花の想い遥に
儚きと君嘆くなかれその胸に
しかと刻まれし想い永遠なり
後をば振り返らずに凛として
前を見据えて共に歩まん
(2017.4.9)
惜しやなあ警笛を後に逝きし影
浪速の芸を心に残して
何故にまた 桜の通りも待たずして
急ぎ逝きしや花の盛りに
〔京唄子師匠に捧ぐ〕
(2017.4.8)
道端の花に焦がれて筆走らせる
老い人の心に今も若き日の夢
新しき水 鉢に満ちて泳ぎしメダカ
ホテイアオイを仰ぎてすいすい
嬰児の無邪気に遊びて我が夫の
落ち沈む心にふと灯り差し
病押し畑を眺める隣人の影
うららに霞む春の陽の午後
君呼べばすぐ枝先に飛び来たり
春なのに渡らずや北の空へと
風に舞い花はらはらと落ちゆきて
我が心に未だ遠き春よ
(2017.4.3)
重き土をば押し開き
春の陽浴びる小さな緑芽
我もまた暗き世界を捨て去りて
この芽の如く光目指さん
春咲きてたとえ枯れてもその身をば
種子と変わりて大空に舞う
故郷の家失いし我が身には
身狭な暮らし 外春雨の降る
外のカラスは墓地の花をも啄ばみて
餓えを凌ぐに君えり好むとは
大空に霞みを分けて舞い上がる
聞きませ雲雀の春の賛歌を
麗らかな陽光浴びて目覚めし薄緑の君よ
黒き土の重みを押し分け 春や春よと
園芸は種より目覚める緑芽の
花咲き実るを見守る喜び
(2017.3.29)
麗しの君哀れなり眼を腫らし
涙に暮れるは花粉舞う春
今の世の若紫か乙女子よ
美しく育て来世に逢い見ん
可愛らし幼き恋人来たれども
生憎きらせし甘き菓子類
我が身をば包む小春の陽気より
常に暖かきは隣人の情
老い人よこの世の歩みは止まれども
霞の向こうに来世への道
鴨去りて広き水面にすいすいと
波紋を広げて泳ぐ夏鳥
(2017.3.26)
花を恋い花に憧れ花を追い
花散りし後も夢に花見て
春風に枝垂れて揺れし紅の花
散りにし後も夢に咲く見ん
夢桜その裳裾をば抱きしめて
ともに霞の彼方に去りなん
桜木と呼びし我が妻何故に我
一人残して散りて消えなん
川向こう来世の岸に咲く君の
渡りて会うまで花散るなかれ
うら若き染い桜の蕾をば
揺する春風花よ開けと
つがい鳥互いに呼びかう花のなか
見え隠れして春を歌いぬ
早や燕 弥生の空に舞い降りぬ
まさか桜を見逃さじとや
降りしきる蕾に優しき春雨の
止みて後にぞ花開くかも
待ち侘し草木潤す慈雨の降る
自然の神の遍き御こころ
花開く春来たれども我が心
病の重みに閉ざされしまま
衰えの身をば奮いて土起し
願いを込めて播くひと粒の種
帰りゆく孫の車の見えぬまで
手を振る姿を後に残して
今週も来るよと嬉しき言葉なれど
電話の後で財布を覗く
眠り込むと起こせど目覚めぬ孫気がかり
災害時に逃げおおせるかと
畑仕事終えて一息 春の夕
親しきものとのコーヒー旨し
縁ありて畑に集いし人々の
話は尽きぬチャイム鳴る暮れ
穏やかな春の一日暮れ惜しみ
何時しか朧の月出でにけり
明日はまた寒の戻りて真冬日と
言い残しつつ夕闇に消ゆ
花の香のほのかに匂う春の道
過ぎゆく瞳に希望の光
自らの花の香で包みてのちに
春の女神はベールを掛ける
嘆くなかれ悩むなかれ老し人よ
心の自由なるを知れば身は軽し
老いし身も重き心もこの世に残し
来世にやがては生まれるを信じて
我にとり二人の孫こそ宝なり
例え貧しくも名も無き身でも
願わくばこのうら若き乙女たちに
神仏の恵みと加護のあらんことを
君さらば悲しみあれど我ゆかん
この道こそが我生かす道ゆえ
真実の愛を求めて彷徨いぬ
手を差し伸べる君は誠か
文交わす平安の御代に戻りなば
君の心を知るよしもがな
我が夫の傍に仕えしこの身なれば
我が心をば如何に伝えん
心をば何故に見せずやこの我に
裏も表もそのありのままをば
行く先の見えぬはともに我も同じ
心の先をば誰知るものぞ
色恋の超えし絆と信じつつ
同じ道をばともに歩まん
老いたりと悲しむなかれ我が胸に
緑の髪の君は微笑む
縁ありて結ばれし君この先も
仲良く生きたや残されし日々
願わくばこの手離さずあの花の
霞の彼方にともに行きたや
ほのかに紅き岸の小梅よ
なはあの春風にこころ奪われしや
土に埋もれひそかに花咲く春を待つ
名もなき草の実の意地らしさよ
今宵もか花待ち顔の朧月
未だ咲かずと暁に消ゆ
春の暮れ宵の明星西にあり
東の空より月登るを待つ
朧月 東の方に昇りたり
西の空には宵の明星
伝えよや 渡る春風戯れに
触れしの桜の蕾ひらくを
人知れず蕾開くや乙女花
危うき宵の風の誘いに
今宵また通う祇園の恋月夜
紅の枝垂れの舞うを夢見て
君が弾くほろ酔い気分の三味の音に
浮かれて今宵花開くかも
(2017.3.12)
行くあてもなき夢の道をば彷徨いぬ
未だ見出せぬ何かを求めて
いつどこで迷いし道か気が付けば
希望のはずの春のむなしさ
生きる身の心満たすものなくば
まるで枯葉に残る蝉殻
分かるまい真の愛を知らぬ身が
その溢れる者を見る眼差しが
彼の人もただの人なり菩薩にあらず
人の枠をば超えられぬのさ
ある人曰く至福はすぐ傍にある
常に君のすぐ傍にある
かすかな希望いまにも消えそうなそれを
ただ信じて生きるしかなし
(2017.3.9)
師の技に届かぬ我の不甲斐なき
春引き戻す雪の冷たさ
穢れ無き幼き魂如何にして
かの浅ましき業と変わるや
人もまた生きる生身を引き連れて
この世に蠢くただの動物
知の光 射すや彼方の未来へと
それとも消すやすべてのものを
意識とはすべてを越えて続くもの
そのすべての中に永遠にあるもの
生も死も恐るに足らず真の身は
骨肉にあらず己にあらず
色恋は春に目覚めて夏に燃え
秋には枯れて雪に埋もれㇼ
(2017.3.7)
此の春の桜までもつかこの命
道ゆく若人の羨ましきかな
昨日見し隣人の影尋ぬるれば
今日は病の深き床とか
春来たれども人の世の
心の暗雲晴れぬ時勢よ
草木野生は待ち侘し春に蠢き
人は未だ心の春に通し
若人は希望の春に輝き
老し者はただそれを懐かしむ
幾千本の梅ヶ香に人は酔いしれ
それを背にただシャッターを押す
平和なりや
老いて初めて若さに気づき
若きうちは老いに気づかず
生業を我が子に譲りて振り返る
一服の苦き茶を甘き菓子にて
見渡せば我が身の周りの人々に
己の姿を見るこの頃かな
報われぬ幸薄き人々の
想いを今に伝える地の唄
我もまた師の志をば受け継ぎて
次の世代にその技伝えん
(2017.3.5)
寂しやなあ宣伝のメールばかりか
あの人のは来ぬ
知らぬ間に花の三月なりにけり
桜の歌でも詠おうか
彼方から春風に乗り渡り来る
梅の香とともに鶯の声
鶯の初音誘わんと鳴きまねに
耳すませどもただ風の音
水ぬるむ春陽は射せど深薮に
動く影なし樹上にもなし
桃色の春の女神の吹きかける
甘き吐息に触れ開く花
春の嵐生きるものすべて待ちわびた
喜びの季節を告げる使者なり
(2017.3.1)
【ある花に】
花は香りて我が頬を
くすぐらんとす顔を埋めと
我は花をばただ渡る羽根
香りに飽きてゆく身と知りてや
知ればこそこの身委ねん短き浮世
しおれる前に我を手折れや
春の世にせつなき想いを抱くより
いっそ落ちよかその夢枕
そちの想いはあの高値の花か
冷たき香りに何故に気付かぬ
我が袖にその身預けや幾千代までも
情け注いで飽かせぬものを
(2017.2.18)
【霧の朝に】
深き霧の朝 鵜の群れは
一矢の如く飛び去りぬ
迷うことなく海を目指して
霧深き朝墨絵の如く家々も
野山も海も霞の彼方に
朝霧のただ沈黙の重き灰色
世の人々の心深くにも
雲も晴れて遍く照らす太陽の
光よ憂き世の霧も消し去れ
人もまた宇宙の塵のそのまた塵の
星の地上の霧の一粒
(2017.1.30)
自由の女神の掲げし赤々と燃える焔よ
今こそ人々の心の闇を照らし真実へと導け
(2017.1.21)
豆腐屋の内儀の白き指凍え
労いたればふと微笑みぬ
跳ねまわる小エビを届けし隣人は
優しさ故にか調理に戸惑い
(2017.1.12)
正月も過ぎて十日の恵比寿宮
鳥居に寄せるは笹の人波
世話人か恵比寿の宮の片隅に
焚火を囲む翁の面々
福飴を片手に村の恵比寿宮
店を巡りてはしゃぎしあの頃
人の世とはそういうものと諦めて
世を厭えども他に住むところなく
意のままに心のままに生きようと
すれば妬みや恨みを受くる世
君がためと我が身を顧みず愚かなる
夢を抱きて暮らす日々かな
(2017.1.10)
我が孫のその輝く命をば
抱く喜びぞこの上もなく
初春に輝く孫の命をば
抱きて嬉しやこの上もなく
初春の朝日は昇りぬ天高く
晴れ渡る空に雲ひとつなく
緒を引きて取い出したる三弦の
音も清けき初春の縁
居を正し気を引き締めて
つま弾くはその音もゆかし六段の調べ
身を沈め一息つきし年の暮れ
湯殿に響くは除夜の鐘音
歳ともに足早にすぐ月日をば
顧みるのも暮れの湯の中
(2017.1.1)
我が娘に手を差し伸べるは易けれど
父の望みは生き抜く強さ
歳ともに精進重ねし踊り手の
身振り手振りの見事なること
一休もチャップリンもよ羨まし
明妃を添い寝の極楽往生
佃煮を手に訪れど留守居宅
帰りの空に冬雲暗し
木枯らしの畑に青々冬野菜
有り難きかな自然の恵み
厳しさを可愛さ故にと受け止めて
気をとりなおし稽古に励まん
(2016.12.16)
虚し代に空しき心を抱きながら
ただ金のみの愚かしき世を生き
真実の愛など消えて無きものを
求めて生きる人の世は悲し
諦めて神に頼るは易けれど
まだ信じたや人の善意を
君もまた苦をば抱きて生きる身か
幸輝きて見えし君さえ
暗き世は暗き心の故なりと
人の心に愛の灯ともさん
(2016.12.13)
君何故に澄し心を持ちながら
苦を抱きつつ生きねばならぬ
若さゆえ愚かなことをとこの歳に
悔やんでみてもただ受け入れるしかなし
人目より我が心をば覗くべし
芸磨くとは心磨くなり
唯一人舞台に立てば今更に
己の未熟さをば身に思い知る
(2016.12.8)
寒風に雲低くして枯葉舞い
鵯鳴く道を君のもとへと
美しき優しき心を持つ君に
何度救われし愚かなる我
火の国の復興支援の旅の空
夫婦は今ごろ阿蘇の千里か
茜射す極楽浄土や光明寺
映ゆる紅葉の見事なること
(2016.12.6)
人類の理想や何処へ富む者が
世界を牛耳る浅ましき世となり
目まぐるし早や売り場には鏡餅
何為すこともなく過ぎし一年
若者に負けじと女将は店に立ち
昔ながらに魚を商う
花々に飾られ開けし店なれど
閉めて寂しや暗きその窓
我が孫も人の狭間に生きる身の
苦しさ辛さを知る時期となり
はらはらと散る色の葉を潜り抜け
向うに見ゆる行く歳の坂
(2016.11.30)
冷え込みて水槽の魚を覗きなば
餌を食わずにただ沈みおり
のんびりと陽射しを受けてうたた寝を
11月の午後ヒヨドリ騒がし
(2016.11.25)
心根をおくびにも出さぬ彼の人の
唯信じるしかなしその想いをば
冬雲の渡る空より吹き降りて
木の葉を散らす風の冷たさ
冬雲の彼方に夕 陽は沈みゆく
畑に立つ人の顔を照らして
夕飯の支度に急ぐ自転車の
後に揺れる白き大根
懐かしや金柑色付く初午に
貰いし稲荷のあの握り飯
(2016.11.24)
遥々と北より恋しと渡りきて
探せど何処へ我が故郷の池
羽根休め子を育てんと渡りなば
何処に消えし揺り籠の水辺
*私の近所に大きなため池が二つあり、冬は北から
鴨たちが渡って来て夏まで子育てをして帰り
夏にはカイツブリが子育てをしていましたが、
上の池は埋め立てられてリトルリーグの練習
グランドになり、下の池の水は抜かれて乾いた
ままです。知らずにわたって来た鴨たちは閉鎖
され廃墟と化した老人ホーム横の狭いあまり清潔
とは言えない小さな池に降りたち暮らして居ますが、
狭いため外敵に襲われやすく心配です。彼らも同じ
惑星に生きる私たちの仲間です。動物愛護の精神
の徹底が求められます。(筆者)
(2016.11.16)
夕暮れに燃ゆる紅葉は恋の色
色褪せぬ間に契れ待つきみ
東山あかき紅葉の光浴び
片寄せ歩く君の可愛さ
紅葉狩り最後のバスも走り去り
風に撒い散る二枚の切符
夕暮れて人待ち顔の片袖に
はらり色葉の舞て散り落ち
紅に燃ゆる色葉の想いをば
松は知らじと袖振り払い
柔らかき君の手をば握りしめ
石段昇れば紅葉燃えたち
(2016.11.13)
店の隅アクアの光に舞う魚
しばし常夏の夢に酔いしれ
キビタキの舌打ち鳴らし年の瀬の
近きを知らせる声ぞ忙しき
路上に転がるマルハナ蜂の息ありて
花に乗せればしかと掴みぬ
(2016.11.11)
杭打つ音あたりに響きて
土と取り組む秋晴れの朝
澄し秋空の下さくさくと草を刈りとる夫婦あり
雑念を払うが如く地上も清まりぬ
物干しに追われるの彼方の秋空に
機影去りゆき出るは溜息
(2016.11.9)
秋雨のそぼ降る路を帰り行く
待つ人在りてこそ続く道なり
人ありて優しき心に満ち溢れ
周り和やかにして暮らし潤い
古の人の心の響きをば
今に伝える地唄ゆかしき
今様の唄に惑わされず唯一途
道を追う人細き腕にて
我もまたその道をば引き継がん
いつかこの身の果てゆくその日まで
(2016.11.8)
虫の声消えて久しき秋の夜に
ハイビスカスの鉢を入れ込む
早生ミカン色付きすでに木を離れ
奥手の蒼き実のみ残れり
少女は何時しか大人になりゆく
歳ゆく者の腕を離れて
(2016.11.7)
やつれ果て疲れし君をただ見つめ
伴侶の車に送りて手を振る
実れども蒼き色ゆえ契らじと
立ち残る木の姿寂しき
白肌を錦で隠して里人を
誘うや妖しき雪女のたくらみ
紅に錦重ねる峰々の
奥に潜むは山姥の小屋
山を渓渡りて暮らす山姥の
気配かすかにあの紅葉影
山の実を啄ばむ者は許さじと
渓に木霊す山姥の声
君ゆえに紅い燃えしもみじ葉を
契らで去りゆく秋風憎らし
(2016.11.2)
まあ何とあの唐紅に染まりし色葉よ
あれぞ天女の裳裾の錦
岳神はもしや女神にぞおわしまするや
見ませ錦繡の衣の下の白き雪肌
錦織る山の裾野の気を吸いて
湯船で味わう酒の美味さよ
地獄より湧き出す湯こそ極楽と
燃ゆる色葉の景色眺めて
沈みゆく夕陽に溶けいるもみじ葉の
紅き色にぞ染まりゆく君
(2016.10.30)
幻の麗し人の夢覚めて
梢に哀し百舌鳥の呼び声
ともに燃え重ねて落ちしもみじ葉も
浮き世の流れに離れ沈みぬ
移りゆく四季に例えていうならば
冬待つ秋の色模様かな
山に河 天には地
春には秋とあるように
この浮世には男と女
我包む朝の光の眩さよ
生命を育むすべての源
雨上がり林の道に光射し
アスファルトに散る色葉彩けき
(2016.10.29)
暗闇の舞台のそでに消えし影
一夜限りの芸の夢ごと
磨けども磨けど至らぬ芸の道
あの北斎さえ届かぬその先
おそらくは永遠に終わらぬ道なりや
飽くなき人の心が生み出す
(2016.10.28)
天高く昇りて鳴くは上げ雲雀
秋桜揺れる畑の真上に
コスモスの花のハラリと舞落ちぬ
我が頬を伝う涙か秋吹く風よ
ゆく秋に三味の音も早や雪の色
聞く月の夜の胡弓哀しや
都よりさらに雪は深まりぬ
重ねる日々の積もりし逢坂
*雪『ゆき』は地唄の曲名
(2016.10.27)
山崎の露と消えにし強者の夢
分けて遥かに霞む山々
青き空はるか彼方の鳴門の海に
白き橋脚かすみて遠し
百々船の姿も変わりて茅渟の海
今や仰ぐは白き大橋
*茅渟の海とは大阪湾の古い呼び名
『茅渟の海通う百々船明け暮れに
仰ぐや麻耶の法の灯』と詠われた。
愚かなる人の業など知るものかと
秋桜は風に揺れ木の葉はその色を深む
残されし日々を惜しむか畑人は
今日も冬菜の作業に精出す
(2016.10.24)
君よ焦りてそんなに蒼き実を採らずとも
黄色に熟すまで待てばよいものを
ホールに響く美しき音色とともに
指揮者の髪は色褪せ皺深まりて
音の流れにのり彼はその手のひらを
春の花にかざしてはそっと春風を送り
色好きし秋の葉にかざしては
その嘆きに耳を傾けるが如くに振りて
(2016.10.23)
密教の秘儀を尽して護摩壇に
座りし聖は仏を迎えり
打ち鳴らす読経の太鼓は明王の
鼓動が如くに轟き魔を伏す
仏との炎の宴の頃合いに
行者は衆生の願いを乞うなり
身を伏して煙の彼方に仏をば
送りて聖の行は終わりぬ
静寂の戻りし壇の正面の
主尊の扉は堅く閉ざされ
滝谷の不動の仏の大慈悲に
縋る衆生の願い果てなし
(2016.10.20
大阪府富田林市滝谷不動尊明王寺にて)
咲き誇る菊は香りて風に揺れ
アザミの綿毛は高き空へと
もしあの人が今眼の前に一人でいれば
老いていようと昔と変わらぬ君への想いを
今のわれ秋来たりても思うことなし
ただ空虚な心を持て余す日々
もみじ葉もともに色をば深めぬと
色濃き方が先に落ちなん
今もただ真実の愛を求めてる
見つかるかどうかわからないし
あるかどうかもわからないのに
(2016.10.19)
もうそれ以上は近づかないで
二人では支えきれない薄氷
君はただありきたりのこと述べるだけ
他と我とを区別するなく
遥かなる山河を越えて渡りゆく
翼の鳥の無事を祈らん
ヒマラヤの舞う風に乗り空高く
昇りて超えゆく鶴の気高さ
若き日は見ゆる瞳を想わずに
歳得て気づくその有り難さ
ゆく年を蒼き春にぞ巻き戻し
君に逢いたや緑の髪にて
咲く花に通う蝶々の羨ましさよ
触れねど見えぬ風は哀しき
(2016.10.18)
加太の海 淡路の島に日は落ちて
輝く海をよぎる舟影
湯船より漁火眺むる天空に
動く灯連なり光の競演
加太の瀬戸 まだ明けぬ間に漁灯の
寄るを見下ろし温泉三昧
明けの海 朝日まぶしき船上に
未だ冷めぬは釣り人の夢
天空に舞うあの鳶の眼を得た如く
見ゆるは数多の白き釣舟
(2016.10.15加太温泉山上の宿にて)
隣人が如何に過ごせしや君が顔
見ぬのは床に伏せしかと案じて
いや別に病なけれど三味の音に
惚れて習えば籠りて弾く故
町内の人次々と病を得たり
歳ともに我等夫婦もやがてその身か
コスモスの影の向こうで我が友は
ただ黙々と花の手入れを
道通う児童の声の元気さよ
君らの未来にどうか幸あれ
(2016.10.14)
気まぐれな風とはいと罪深きもの
あの花ややれこの花と触れながら
枯れ落ちるのを捨てて去りゆく
そは聴き難し触れて巡るは我が役目
花の願いの籠りし種を
約束の地に運ぶが為なり
才ありて美も兼ね備えしきみなれど
手折るもゆかじ庭の白百合
手折らんと風にそよ揺る白百合に
指を触れなば花粉に染まりて
君が袖擦り合うほどに寄り添えど
心は松ヶ枝とあの空の月
(2016/10/13)
世の人の為すこと変わらじ太古より
それもそのはずただの生き物
心のみで生きれるならば苦労はなしよ
欲に生きざる身を引きずるが故に
草木が陽と雨浴びて花咲かすよに
われ世の有り様を受けて詩詠み
天上の月に恋して待つ草よ
知るや涙の露に果てる身
その花は通う蝶の数かぎりなし
風の想いを如何に気づくや
傍らで髪かきあげる仕草見せ
ふと我を見る君のその心とは
(2016/10/11)
真夜中の路上に男女の話し声
秋風に吹かれし故か低く冷たき
天気に恵まれし今年の祭りなれど
怪我人や命を落とす人あり涙雨
穂の恵み刈り入れ時の田畑にも
機械の音して人は少なく
もみ殻を焼く火の中にサツマイモ
入れて遊びし短き日の暮れ
足ふみの脱穀機の音懐かしや
麦わら帽子の父のあの顔
だんじりの赤き提灯後を追いて
父に抱かれて練り歩きし夜よ
秀才ながら不遇の内に世を去りし父よ
期待はずれの愚かな息子で申し訳なし
(2016/10/09)
【江戸の女の心意気】
心底に我を思いて通うなら 涙はいらぬ
苦海を逃るる船漕ぎ寄せよ
深川の芸の入り江に立ちし我
伊達に羽織は着ぬぞ野暮天
憚りながら新橋の鶴と呼ばれて生きる身よ
情に靡けど金には靡かぬ
(2016/10/06)
スマホの写真みたいに心に残る
あの娘の思い出消す方法誰か教えて
何時までもうだうだしないで新しい娘みつけ
更新しちゃえばでないと無理無理
今は人生おしまいなんて思うけど
明日の扉を開けてごらん新しい君がそこに立ってる
人生は別れと出逢いの繰り返し
振り返らずに前を見なよきっと誰かが君を待ってる
(2016/10/05)
【 宵待ち草/恋の通い路 】
秋の夜の月に焦がれて待つ宵の
花は染まりぬ何時しか黄色に
我が袖をぬらす時雨の涙色
晴れて今宵の十五夜の月
月昇りあの松ヶ枝に掛かりなば
君渡り来よ草の露分け
暮れ落ちて月も掛かりぬ十六夜の
柴の戸開けて待つ君が屋へ
長き夜の明けし霞の彼方にぞ
消えゆく影に朝顔の露
月満ちてまたの逢瀬を松影に
宵待ち草の花は開かん
(2016/10/04)
本当の僕はあのとき死んだんだ
君の眼の前にいるのは欺瞞に満ちた
救いようもない魂の抜けがらさ
じっと僕を見上げる瞳の奥で何思う
他に嫁ぎ幸せを掴みしはずの君よ
本当に愛したのはあの人ではなく
心の中のこの私よと君言いぬ
黄昏の淡き光のその中でそっと俯きし
君の美しさよあの秋の遠い日
(2016/10/03)
流れ葉の上を彷徨う蟻の身か
焦り動けど如何様もなく
やるせなき思いに三味を取りいだし
弾かんとすればその糸さえも切れ
奥ゆかしさ慎ましさは何処へやら
褪せゆく心は髪の色にも
身は互い世のしがらみに縛られど
密かに想いを繋ぐ琴糸
わが小さきアイドルは捻り鉢巻きに紅をさし
チョコを片手に可愛いポーズ
(2016/10/02)
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短歌集/草雲雀の歌