穴から出たもぐら
まるで迷い込んだ洞窟から脱出したかのようだった。気分的にはそうだった。だって、中はせかせか歩く人で埋め尽くされているし、ただでさえどっちへ行ったらいいか分からないのに、止まると跳ね飛ばされそうになるし。怖い。
だから階段の先、暖かい光の向こうへ顔を出したとき、ああ、助かったと思わず漏らしていた。長く、苦しい旅は終わった。もう路線図を凝視しなくてもいいし、ちゃんと乗り換えをすることに神経を集中させなくていい。
ところが、終わらなかった。そこには路線図も駅のホームもなかったけれど、やっぱり大勢の人がいた。大きく広がる横断歩道を、向こうから来る人とこちら側から渡る人が行き交っていた。不思議と、彼らはほとんどぶつからないで、上手いことすれ違っていく。
そして、ファッションショーでもしているかのように美しく着飾っている。
あたしは足元を見つめた。上京祝いにお姉ちゃんからもらったヒールの高い靴を、せっかく引っ張り出してきたのに。まったく、さまになっている気がしない。ただ、歩きづらいだけ。
ああ、とりあえず待ち合わせ場所に行かなければ。駅から見えるわりと大きな書店で、と大学に入ってからできた友達に言われたけれど、はっきり言って、今のあたしの目に書店は映らない。ほんとうは近くにあるのかもしれないが、溢れかえる人の群れと、林立するビルが冷静さを損なわせる。
故郷では、お祭りの日でもこんなに人が集まることはなかった。山とか木々ばかりで、ここまで人工物に包囲されることはなかった。
無防備だ、と思う。今のあたしは丸腰だ。ハイヒールだけではなく、服装も今日のために精いっぱい気を遣ったけど、着ているというより着られている感が抜けない。初めてファッション雑誌を買ってみたのに。出かける前に、鏡で何度も確認したのに。かわいいかな、とは呟かない。口から出てくる言葉は、「変じゃないかな?」
横断歩道の向こう側に聳えるビルのお腹に、大画面のスクリーンが映し出されていた。流行りのアイドルが笑顔を浮かべて歌っている、踊っている。どうせだったら、と思う。あたしも、あんな風にかわいい女の子になりたい。これからなれるのだろうか。
そうだ、コンビニだ。コンビニを探そう。なぜか東京には、いたるところにコンビニがある。さすがのあたしでもコンビには見つけられる。店員さんに、道を尋ねよう。それくらいできるはずだ。というか、これ以上新しくできた友達を待たせるわけにはいかない。
よし、いざコンビニ、と足を踏み出しかけたとき、後ろから肩を叩かれた。心臓が飛び跳ねんばかりに驚いて、大げさに振り向いた。あ、あたしはしがない女子大生で、山形から出てきた一介の田舎者に過ぎませぬ――そんな言葉が出かかった瞬間、その顔が見覚えのあるものだということに気づいた。
「よかった、まだ待ち合わせ場所着いてなかったんだね。待たせてるかと思ってた」
友達だった。抱きついて、胸に顔を押し当てて泣きたいのを必死に堪えて、笑顔で言葉を返した。
穴から出たもぐら