うんこ大王とおしっこ王子(大王街に行く編)(9)

九 大王と王子へ

 あれ以来、大王にも王子にも会っていない。毎日のようにトイレに行くけれど、たまり水からは何も登場しない。私は小学生を卒業し、大人になり、おじいさんになった。大王たちが食べ物を消化し、栄養素を吸収してくれているおかげだ。私と同じように、大王たちも同じように齢をとったのだろうか。おじいさんになった大王や王子に会ってみたい。年齢を重ねても大王や王子と呼ばれているのだろうか。おじいさん大王やおじいさん王子と呼ばれているのか。何だか可笑しい。そう言えば、父や母は、私が大人になっても、「食べすぎには気をつけなさいよ」「好き嫌いはダメですよ」「野菜をもっと食べなさいよ」「食べ物はもっと大事にしなさいよ」、と私の顔を見る度に言ったものだ。その同じ言葉を、私も子どもたちや孫たちに会うたびに言い続けている。その父も母も今はいない。
「おじいちゃん。ただいま」
 孫の大介が保育所から帰って来た。
「おやつ、ない?」
「ああ、あるぞ。大介の好きなドーナツだ。オレンジジュースもあるぞ」
「やったあ」いきなりドーナツをほうばる大介。
「こらこら。ちゃんと、手を洗わないと。それに、そんなに慌てないで、ゆっくり食べなさい。お腹がびっくりするぞ」
「びっくりするって、お腹の中に誰か住んでいるの?」
「どうしてそんなこと言うんだい?」
「だって、ドーナツに会って、びっくりするんでしょう?」
「ああ、そうだな。大介のお腹の中にはうんこ大王とおしっこ王子が住んでいるぞ」
「誰、それ?」
「大介の一生の友だちだ」
「ふーん。それなら、その友だちの分もドーナツを食べないと」
 大介はもう一個、ドーナツを掴んだ。私は、大介のお腹の中の、まだ、保育園児のうんこ大王と保育園児のおしっこ王子に向かって、これからも大介をよろしく、と心の中でお願いした。その間、大介はドーナツを食べ終えると、オレンジジュースを一気に飲みほした。

うんこ大王とおしっこ王子(大王街に行く編)(9)

うんこ大王とおしっこ王子(大王街に行く編)(9)

九 大王と王子へ

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-10-01

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