人類終了ボタン後編

前編を見ていない人は、前編から見ることをお勧めします!

・・・この世界には嘘つきがいる。詐欺師がいる。冗談もある。

俺はそんな世界が嫌いだった。だから騙されないように、嘘の言葉が耳に入らないようにするため、ヘッドフォンを付けた。

そしてぶらぶら近所を歩いていて、偶然この場所を見つけた。

「ここならだれにも邪魔されない」と考えた俺は、なかへと進んでいった。

そこで初めてこのはに出会った。

初めこのはを見たときはそれはそれはひどい体だった。

痣だらけの体に捻挫している足。血が出ているところも何か所かあり、服はところどころ生地が薄くなっていた。

「・・・だれ?」

振り向いて、話しかけてくる。ミディアムの髪がふわっと揺れる。

「君こそ誰なの?体中傷だらけじゃん。どこから来たの?」

このははしゃべりにくそうに下を向き、小さくこういった。

「私は・・・このは。親に暴力を振るわれていて・・・体中痛くて、偶然ここに、来て…」

「ふーん・・・」

俺はこのはに近づき言った。

「つまりお前も嘘つきの、憎みあいの世界が嫌でここに逃げ込んできたんだろ?じゃあ、俺と一緒じゃん?」

手をこのはにさしだす。

「似てるな、俺たち。俺はハル。よろしくな!」

このはは少しびっくりした表情を見せた後、俺の手を握ってくれた。それはとても優しく、包み込むような手だった・・・

それから俺とこのはは毎日ここで会うようになった。このはの傷は増えていったが、俺と話をしているときは笑顔を見せてくれた。

そして何週間かたったころ、「世界平和義務」が定められた。

平和な世界にするための法律。

殺人、嘘、冗談でさえもしてしまったら即刻死刑。

そのニュースはこのはの暴力がなくなることを意味していた。

「このは!聞いた?世界平和義務だよ!これでこのはは幸せになれるよ!」

このははいつも通り、湖のそばにいた。けど、

様子がおかしかった。

「・・・このは?」

倒れていた。動かない。そっと触れてみると、冷たくなっていた。

「このは!!!」

目から涙があふれ出す。なんどもこのはの名前を呼ぶ。

「そうだ・・・病院、病院につれていなかきゃ・・・!」

こんな田舎に病院なんてそうそうない。僕が知っている病院は一キロ先・・・

歩かなくては。

すぐにこのはをおんぶし走り出す。疲れているなんて考えられない。ただただとにかく走るだけ。

泣いて視界もくらむ中、大きな病院に着いた。

診察したところ、栄養失調や内出血が原因だったらしい。

このはの親が暴力で娘を殺したのだ。食べ物すらろくに与えなかった。

「・・・・・・」

このはを守れなかった。あの笑顔が、頭から焼き付いていて離れない。

「うわあああああぁぁぁ!!!!!!」

俺は号泣した。人にこんなに泣くなんて、初めてのことだった。

次の日、父親は病院側が処理してくれた遺骨を引き取りに来た。

このはがどうなってしまうのか気になって父親についていった。しかしそこで見たのは悲惨な光景。

なんと父親は家の近くの森にばらばらとこのはの遺骨を捨てたのだ。

絶望的だった。

俺は父親が去ってから遺骨を一つ一つ拾い集め、家の裏にもっていき、木で両手に抱えるほどの箱を作った。このはの遺骨を入れる箱。

そしてあの場所に行き、切り株の上に箱を置いた。最後に、父親が一緒に捨てたこのはの服も箱に入れて。


今は、その翌日。今日から世界のなににも興味がわかなくなった。このはの大切さに気付いた。

俺は、このはがいなかったら何もない。生きている意味もない。

このはに会いたい。

そう思った時、箱の裏側に一つのボタンが落ちていた。

(それは、人類終了ボタンだよ。ニュースでやったやつ。私にはわかるんだ)

レイが話しかけてくる。

(だから警官が外にいたんだよ。人類、終わらせたい?このはちゃんのいない世界で生きたくない?なーんてーー・・・)

「そうだな」

(・・・え?)

俺は人類終了ボタンに手を伸ばす。

「もう、いいんだ。普通に生きて、普通に死んで、そんなこと、俺にはできないんだよ。このはがいない世界じゃ、なにも意味がないんだ。俺にとってのこのははーー・・・」

「このはは、俺の家族以上の存在だったんだ。」

俺は人類終了ボタンを押した。

(ハルッ・・・!)

これでいいんだ。嘘つきの世界は嫌いだ。平和だけの世界も嫌いだ。平和な世界だってどうせへらへら笑っているだけなんだ。

そんな世界は、もう終わりにしたかった。

「さよなら、レイ。このは、この世界は楽しかった?俺はこのはのいた世界が楽しかったよ。・・・ありがとう」

その言葉とともに、平和の世界は消えた。人も、物も、星も、すべて・・・

「・・・ねえレイ、今日から新しい学校だね」

「そうだよこのは~。この学校には私の昔からの知り合いがいるんだ。ほら、あそこにいるよ、ハルーッ!」

道の向こうにいる男の子は、こちらを見てにっこりと笑ってくれた。

人類終了ボタン後編

今回は前編後編で送らせていただきました!レイは主人公の心情を伝えやすくするためだけの存在なので、存在感薄いです。(しかも過去の話に一度も出てこないという結果に・・・)そして、最後まで読んでくださった方、ありがとうございました!

人類終了ボタン後編

  • 小説
  • 掌編
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-09-30

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