【仮想日常】VR出勤

仮想日常。「世の中のどこかで、過去や未来やパラレルで、こんな日を過ごした人がいるかもなー」って想像で、日常の1コマを描いてみたシリーズの1つです。
空き時間や寝る前のちょっとした数十分で書くので、数分で読み終わる短さです。文章の筋トレのつもりです。

二日酔いで痛む頭に耐えながら、重い体に鞭を打って起き上がる。
台所で水を飲み、簡単に洗顔と歯磨きを済ます。
寝間着のまま椅子に腰かけ、VRを頭に装着した。

「おはようございます。社員IDとお名前をお願いします」

女性の人工音声がヘッドセットから聞こえる。
最初こそ感激したが、もうこの声には何の感情も抱かなくなった。

「社員ID B623867。藤山五郎」

「認証しました。システムを開始します」

目の前に、見飽きた会社のオフィスが広がる。
みんなが背筋を伸ばして、デスクで仕事に勤しんでいる姿を見る度に思う。
実際は、リクライニングを限界まで倒したダラしない姿で仕事してるんじゃないのか?
夏なら、下着だけで仕事してるやつもきっといる。
ビール片手のやつもいるかもしれない。
実際、呂律が回らないくらい飲んだせいで、減給を食らったアホもいたっけな。

「藤山さん、あと5分で会議が始まります。会議室へ移動をしますか?」

空中に会議の内容とアジェンダが浮かんで見える。
あぁ、そうだ、今日は朝一でこの会議だったんだ。

「あぁ、移動してくれ」

「了解しました」

目の前がゆっくりとホワイトアウトする。
真っ白な視界に、輪郭を示す線だけが浮かび始めた。
出来上がると、今度は白黒で陰影が浮かび上がる。
次に、色がつき、目の前に会議室が出来上がった。
いつも思うが、まるでデッサンの手順のようだ。
俺以外はまだ誰も来てないようだった。
読みかけだった社内メールに目を通しているうちに、他のメンバーがログインしてきた。
部屋より人を描画する方がよっぽど処理が楽なのか、先ほどの手順を一瞬で踏襲し、人が出来上がる。
それが5回起こり、メンバーが全員揃った。
自分が出る必要性の見出せない会議ほど、苦痛なものは無い。
脳波を検知して通知を周りに出すから、居眠りすらも碌にできない。
辛い2時間になりそうだ。

【仮想日常】VR出勤

【仮想日常】VR出勤

  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-09-30

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