なにもない

だからギターが必要なんだってば

君はそんなことを言った


僕はちょっと笑った



海が見える喫茶店に
僕らは二人でいて

僕はアイスコーヒー
君はアイスココアとホットケーキを頼んでた。


笑って誤魔化さないでよ


君はいつになく真剣だ


僕はギターが下手だし
ギターで心の叫びを歌うなんて柄じゃないんだよ


ちょっと僕は困りながら
君に話した


僕が
この気持ちを歌にのせて訴えたとこで
一体何人の人に届くんだい?

被災地にも政治家にも紛争地帯にだって届かないじゃないか

そんな無駄なことしなくたって
僕が僕であるという証明はとっくにできてるさ。



ぽつり ぽつり

外は雨が降り出した。



君は
黙って
ココアを飲んだ。

ホットケーキは
まだあと半分残ってる。


僕らは
ただ静かに
時が過ぎるのを待った


僕がコーヒーを飲み終えた頃



それでも…
やってみるべきだよ



君は
静かに言った


雨の音が目立ちだした。


僕は
困りながら
ちょっと笑った。


コーヒーのおかわりはしない。

ホットケーキはまだ半分残ってる。


海が見える喫茶店

なにもない

なにもない

ギターを弾くべきと。彼女は言う。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-06-30

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted