人類終了ボタン前編
この世界は恐ろしいほど平和な世界だ。地球とは違う、平和の世界。
もちろん刑務所なんてない。なにせ殺人も強盗も、ケンカすらもめったにおこらないのだから。(でも警察だけは交通管理があるので存在している)
しかしそんな世界に最近あるニュースが流れてきた。
ビルの大型スクリーンに「大ニュース!!!」と大きく表示されている。
内容は人類が一瞬で消滅するボタンが見つかった、ということらしい。
原理はよくわからない。しかしこのとても平和な世界の人は嘘をつかないので、書いてあることはすぐ信じてしまう。「冗談」はいわないのだ。
もしもだれかがボタンを押したとしても、俺は興味をもたない。やり残したこともない。
人類が消えるのは一瞬だし、そういう意味では人が死ぬのだって一瞬。だから別に死んでもいい。
俺、ハルは何も耳に入らないようつけたヘッドフォンで音楽を聴きながらその場を立ち去った。
つまらない、この世の中なんて。
人が生きて死んで、そんな繰り返し。
俺は普通に生きて、普通に死んで、死ぬとき悔いのないように死ぬ。ただ、それだけでいい。
(・・・・・・本当に、君はそれでいいの?)
・・・ああ、俺の中のもう一人の俺が話しかけてくる。
俺の中にはレイという、自分の分身のような女の子がいる。
いつもヘッドフォンを通して話しかけてくる。
(別に・・・今すぐ死んだとしても、悔いはない)
(両親とかに感謝の気持ち、伝えたりしないの?)
(いつもちゃんと感謝してるよ)
俺は無表情のまま淡々と喋る。
(むう・・・つまんない。何かに関心くらい持てばいいのに。)
そういい残し、声は聞こえなくなった。
「・・・俺が生きている意味なんてないし・・・・」
ぼそっとつぶやいたその言葉は周りの人混みに掻き消された。
「--・・・」
空を見たとき、何かを思い出した。美しい景色。昔よく出向いた幻想的な場所。そこにふと行きたくなった。
足の赴くままに俺は前へ歩き始めた。
・・・電車に乗って家の近くまで来た。ここらは田舎で田んぼと畑がやたらとある。
田んぼに沿って歩き続けると、森への入り口のようなところを進んでいくと、その場所につく。
しかしその森の入り口に着くと、入り口前に警官が二人いる。しかし一人は立ちながら寝ていて、もう一人は音楽を聴いているようだ。
なぜこんなところに警官が・・・とも思ったが気づかれないようにそっと入口へ入る。
進んでいくとだんだん地面に草の生えている部分が増えてくる。
そして、その場所につく。美しく透き通るような光が真ん中の切り株に乗った箱を照らしている。
円状のこの場所は真ん中がぽっかりと湖になっており、その湖の真ん中に切られてしまった木の切り株が立っていた。そしてそこの上には木でできた箱が乗せられていた。箱は俺が作ったものだ。
ここは俺とこのはの秘密の隠れ家だった。それは何年か前の話・・・
<つづく>
人類終了ボタン前編
話が思ったより長くなり、最終的に前編と後編に分かれる形になりました。よかったら後編も見てください!