ゴーストスクール
これはゆかりが興味本位で立ち入ってしまった夜の学校の物語・・・
私、立花 ゆかりは毎日フツーの日常を過ごしていた。
なのにどうしてか、最近学校で奇妙な噂が立ち始めていた。
毎日少しずつ、生徒の人数が減っているらしい。学年など関係なく。
そして、学校にこなくなった生徒は家にも帰っていないらしい。そんなことから「神隠し」だとか「幽霊になった」とかの噂が主なものとなった。
ゆかりのクラスの人数も日に日に減っていく。そして一人ずつ減っていくたびにこう思う。
「理由が知りたい。どうして生徒が減っていくのか。」
昔から気になることは理由を知らないとどうしても気になってしまうたちで、七不思議があると聞けば、平気で夜の学校に乗り込むほどだった。
そんな中、クラスで「夜の学校に幽霊がいる」ということを細々と言っている声が耳に入った。もちろんゆかりとしては行くしかない。夜が楽しみだった・・・
・・・夜の校門。ゆかりの部屋は一階にあるため、誰にも気づかれず抜け出すのは簡単だった。
そのうえ夜の警備は甘いため、門を乗り越えればすぐ学校の敷地内に入れた。
そして、帰る前一つだけ開けておいた、カーテンに隠れて気づかなような窓から中に入る。
夜の学校は暗く、昼間とはちがい廊下の先が真っ暗。いかにもお化けのいそうなところ。
・・・キーンコーンカーンコーン
びくっと体が跳ねる。静かな学校にチャイムが響いた。誰もいないこの時間に、チャイムなど鳴るものなのだろうか・・・?
と、その時!近くの自分のクラスから青白い光が漏れ出していることに気が付いた。
よくよく見れば、他の教室からもその光は出ている。
ゆかりは気づかれないよう息をひそめ、そっと後ろのドアから中をのぞいた。
すると、ゆかりは固まった。
そこにいたのはいなくなったクラスメイト達だった。体は透け、青白いなにかがクラスメイトの体を取り巻いている。
(なに、これ・・・)
教卓には先生らしき幽体(?)が立っており、カツカツと黒板に字を書いている。あれは、いなくなった牧原先生だ。
(どうして・・・いなくなった人はみんな幽霊になっていたの・・・?)
もう一度黒板を見ると、そこには「今日の授業は鬼ごっこ」と書かれていて、書き終えると先生が口を開いた。
「今日は黒板の通り、鬼ごっこをします。追いかける人はクラスのみんな。逃げる人は先生が指名します」
前に少しだけ聞いた、先生の声。見分けはつきづらいが、声で誰かすぐわかる。
「先生、クラス全員ってどういうことですか?」
一人の男子生徒が手を挙げて質問した。
「鬼はこのクラスの人じゃないんだ。そこにいるーー・・・・」
牧原先生はじろりとこちらを見る。
「そこでさっきから盗み聞きをしている、立花さんにお願いしようと思うんだ」
クラスの人の視線が一気にこちらへ向く。教室内で、「あのこ生きてるの?」「僕たちの姿を見られた・・・?」などの会話がざわざわと起こっている。
「静かに。彼女はスペシャルゲストです。捕まえたらこのクラスの一員になります。範囲はこの学校全体なので、こころして追いかけてください。彼女が初め逃げる時間は一分。それからスタートです。夜の十二時で鬼ごっこは終了。では、位置についてください!」
パンッと先生が手をたたくと同時にハッと目が覚める。逃げなくては。そうしないと、今度は私が消えることになってしまう。
私は一目散に走り出した。髪を振り乱し、全速力で。
走り出すと同時にカウントダウンの大声が後ろから聞こえる。だが無我夢中で走っているうちにその声もあっという間に聞こえなくなった。
三階と四階の間の階段にある空きロッカー、そこにひとまず身を隠す。
バタバタと下からクラスメイトだった人たちが駆け上がってくる。幸い誰も自分がいることは気づいていないようだった。
息をひそめ、じっと静かな空間にいる。ひとりで、真っ暗で、何も見えないロッカーの中。
こっそりスマホの画面を見ると、今は十一時四十分。あと二十分、気づかれずにここにいなくては・・・
そんなことを考えながら一息ついた時・・・
「みーつっけた」
「ひゃっ!?!?」
ロッカー越しに声が聞こえた。
「私、音には敏感なの。でも安心して。すぐにみんなに伝える気はないから」
見つかってしまった。私も、幽霊に・・・?
ロッカーの扉をおそるおそる開ける。すると、肩ぐらいまでのミディアムヘアの女の子がにこっと笑っていた。
「・・・まいな・・・?」
「覚えててくれたんだ!うれしい」
覚えてるも何も、私が一番仲の良かった女の子だ。一か月前から急にいなくなってしまって、とても心配していた。
「幽霊・・・なの?」
「そう。急にいなくなってごめんね。でもゆかりに全部説明しないとこの状況は分かりにくいと思う。ゆかりにはちゃんと噂を知ってほしいから説明するね」
私はこくりとうなずいた。
「まず、ここはゴーストスクールなんだ。自殺したり、悩み事がある人が学校に引き込まれて幽霊になって、学校で暮らすことになるの。でも幽霊になると元の体はそのまま幽体化されちゃうから神隠しみたいになっちゃうんだよね」
「じゃあ・・・ここにいる人たちは、みんな学校に住み着いているの・・・?」
「まあそういうこと。結構小さな悩みでも幽霊になっちゃうみたいで、最近一気にゴーストスクールに集まる人が増えているみたい。もうすぐ昼のこの学校は廃校になって、ゴーストスクールの人がメインになっちゃうと思う」
「じゃあもう・・・まいなは元の人間には戻れないの?」
「うん・・・学校から出られないからもう家族には会えないけど・・・これはこれで、毎日お泊り会みたいで楽しいよ。ゆかりもゴーストになっちゃえば?」
「さすがにそれは・・・」
私は軽く視線を逸らした。
「あはは・・・ほかの人が見つけたらそっこーで教室に連れて行かれてただろうね。でも大丈夫。たぶんみんなそんな真剣にゆかりのこと、探してないと思うよ」
「どういうこと・・・?」
「探しても探さなくても結末は同じってこと」
「それってどういうーー・・・」
「それはいったん置いといてさ、七不思議とか、知ってるよね?ゆかりが大好きな、七不思議」
「う、うん・・・」
さっきから話がぽんぽん変わっていく。いったいまいなは何を伝えたいのか・・・?
「そのなかのひとつにさ、夜の十二時、学校の階段の鏡を見ると本来の姿が見えるってやつあるじゃん?あれやれば、答えなんてすぐわかるよ」
「え・・・?」
「ほら、鏡の前に立って。もうすぐ十二時なんだよ。カウントダウンするから、鏡の自分をじっと見つめていて」
「・・・」
言われるがまま鏡の前に立ち、鏡の中の自分と後ろの幽霊のまいなを見る。
「三・・・二・・・一・・・」
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴る。そしてそれと同時に鏡の中の姿も変わる。
自分が透き通って、青白くなっている。後ろのまいなと同じような・・・
「だからいったでしょ?探しても探さなくても同じだって。」
「うそ・・・うそ・・・」
「だってゆかりは・・・この学校に入った時から、幽霊だったんだから」
鏡の中の自分に触れる。透き通っていた。
「いつのまにーー・・・」
・・・数年後、全校生徒が消えたこの学校はなくなり、保育園になった。にぎわっていて、笑顔があふれている。
そんな保育園のお泊り会、「奇妙な声が聞こえる」と、変な噂が立ち始めた・・・
ここは、まだ「ゴーストスクール」なのだから。
ゴーストスクール
大体の展開はきまっていたものの、ゴーストスクールについての説明があやふやになってしまい申し訳ありません・・・最後わかりにくかったと思いますが、奇妙な声はゆかりたちが楽しんでいる声です。ゆかりもそれなりに幽霊ライフを楽しんでいるようで・・・いちおう作品としては悲しいhappy ENDとなっております。(悲しんでいる母親などの顔を考えるとこの終わりはどうかとも思いましたが・・・)こんな話でも最後まで読んでくれた方、ありがとうございました!