もっと笑え
「新しい転校生を紹介します」
担任の教師と一緒に教室に入って来た新しい転校生を見て、ある小学校の三年四組の生徒達は皆ギョッとした。その姿はガリガリで、まるでガイコツの様だったからだ。ひそひそ、くすくす、教室に静かな笑いが込み上げる。名前は、と担任の教師が言いかけると、三年四組のリーダー格の男子生徒がガイコツみたいにガリガリだから名前はガイコツで良いじゃん、と言い放ち教室中に大きな笑いが起きるが、担任の教師は生徒達に注意をしない。授業が始まってもひそひそ、くすくすの悪意のある笑いは収まらなかったけれど、担任の教師はやはり生徒達に注意をしなかった。
授業が終わり休憩時間になり担任の教師が居なくなると、三年四組の生徒達は転校生のガイコツの周りを取り囲んだ。
「この間の転校生はデブでブタだったから、今度はガリガリのガイコツか。わかりやす」
リーダー格の男子生徒の発言にクラス中の生徒達がまた笑った。ブタは三カ月で転校して行ったけど、ガイコツはどれくらいもつかな?誰かが言った。
「見てろ、一カ月で追い出してやる」
リーダー格の男子生徒の目が輝いた。そうして転校初日から転校生のガイコツへのイジメは始まった。精神的な暴力、身体的な暴力、ありとあらゆるイジメが行われたけれど、担任の教師はやはり生徒達に注意をしなかった。誰かを虐めるって楽しいな、愉快だな、だって誰かを虐めていれば自分が虐められる心配は無いのだから。誰かが虐められていれば自分が虐められる心配は無いのだからー
近年の小中学校の義務教育に於けるイジメ被害を政府は危惧し、対策を模索したがイジメは良くない事だと唱えれば唱える程にイジメは加速していき、被害を受けるイジメの被害者が増大していた。何故なら人は誰か一人にターゲットを絞り、そのターゲットを虐める事によって安心感や一体感を感じるのだから…
正攻法で通じないと悟った政府は、変化球を投じた。イジメ要員として、虐められやすい容姿のロボットを一人、小中学校の義務教育の格クラスに配置する事を決定したのだ。デブやチビやハゲは子供達のイジメ心を擽る。さあ、皆、虐めなさい!このロボットはどれだけ虐めても大丈夫!傷付かないし、死んだりもしない!三年四組に転校して来たガイコツも勿論、ロボットだ。だからどれだけ虐めても大丈夫ー
三年四組の転校生のガイコツは転校して来てから一カ月、どんなイジメを受けてもヘラヘラ笑っていた。皆が楽しかったら、僕も楽しいんだ。そんなガイコツにリーダー格の男子生徒は苛立った。ガイコツなんだろ?ロボットなんだろ?死なないんだろ?リーダー格の男子は遂にガイコツを階段から突き飛ばした。階段から転げ落ちたガイコツはグシャリと潰れ、それを見ていた三年四組の生徒達は悲鳴を上げた。さすがにヤバイんじゃない?死んだんじゃない?人間だったらきっと死んでる…
けれどロボットのガイコツなら大丈夫。グシャリと潰れたその身体を器用にユラユラと立て直してリーダー格の男子生徒に近付いて行く。その不気味な姿を見て怖くなったリーダー格の男子生徒は固まっていた。
「誰かを虐めるって楽しいよね、面白いよね。笑えよ、もっと笑えよ」
そう言いながらガイコツは笑った。リーダー格の男子生徒は恐怖に脅え、一目散に家に帰って行った。ガイコツを虐めていた事を両親に話せずに、家に帰ってからもただ布団を被ってガタガタと震えるしかなかった。心配してくれる三年四組の生徒からリーダー格の少年の携帯電話にメールが届いた。
”ガイコツなら大丈夫だよ。死んでないから。てかロボットだから死なないし。でも知ってた?ロボットをイジメると大人になってから自分がイジメられるんだって。ロボットは自分をイジメた人間を覚えていて、後で仕返ししてくるんだって”
リーダー格の少年はそのメールの内容のショックも重なり、数日間寝込んだ。自分は今まで何人の人間、ロボットを虐めてきたんだろう?今度は自分が虐められる番、笑われる番…虐め返されるという噂に脅え、学校に行きたくなかったけれど両親に事実を話せないリーダー格の少年は、数日してから嫌々小学校に登校した。恐れていたガイコツは、相変わらずヘラヘラ笑っている。三年四組の生徒達は虐め返されるという噂を信じてもうガイコツを虐める事をしなくなっていた。
ヘラヘラ笑いながらガイコツが久しぶりに小学校に登校したリーダー格の少年に近付く。仕返ししに来たのかとゴクリと唾を飲んでリーダー格の少年は身構えた。
「ぼく特技があるんだ。ガイコツ体操って言うんだけど、知ってる?」
ガイコツは虐められていた事など何も無かった様にリーダー格の少年に話しかけた。
「ガイコツ体操?何それ、わかりやす…見せてくれる?」
拍子抜けしたリーダー格の少年はそう言ってふっと笑った。
もっと笑え