馬鹿にするな
動物たちがひれ伏す中央を、こちらに向かってくるのはマザーだった。
彼女はきっと眉尻の下がった表情でこっちを見ている。
私がここにいると必ずこうして現れ、加えて第一声も決まっていた。
「またここにいたのか」
「……いいでしょ、好きなんだから」
呆れたような吐息が頭越しに聞こえてくる。
面と向かって話すことでもない。
マザーの小言は酷く長いから、目の前の世界を眺めている方が
私にはよっぽど有意義なことのように思えた。
青と緑でできた小さな球体の世界が、目の前に置いてある。
彼らはその中で忙しなく生きていた。
それはとても眩しいものだった。
なぜだろうか。
彼らを見ていると、可笑しな思いが込み上げてくるんだ。
「羨ましい……」
マザーは驚いていた。
でも、それは私も同じだった。
もっとずっと前から気づいていたこと。
彼らに羨望する思いと、自分自身に対する渇望。
観葉植物のように飾られる小さな世界を眺めていると、
どうしようもなく自分が汚いものに思えた。
食べることも、寝ることも必要ない。
でも、食べることも、寝ることもできる。
死があることも、生があることもない。
小さな球体に生きる彼らよりも、私はきっと窮屈だったんだ。
「……なにが羨ましい? 弱く、脆く、激しすぎる彼らの、何が羨ましいというのだ? 」
マザーは腑に落ちない眼差しで私を見る。
それでも私は球体から目を逸らさず言葉を零す。
「儚いことが」
馬鹿にするな