はんぶんこ

「今日の客まじ最悪やねんけど!」
玄関の扉開けるなりゆきな、斉藤優樹菜はそう叫ぶ。
ワンルームマンションは綺麗に片付いており部屋に人の気配はない。
「なんなん?もう飲まれへん言うてんのに、ほんまなんなん?」
バスルームに入り優樹菜は乱暴に化粧を落とす。
「ほんま・・・なんなん?」
悔しくて悔しくて悔しくて涙が出そうになる。
「泣かないで」
ふいに懐かしい香りに包みこまれる。
この声とこの腕の感覚、、、
「なんでおるん!!!」
「サプライズー」
さっきまで決壊寸前だった涙はどこかへ逝ってしまった。
「ちょ。ちょー!いきなりそんなんやめてよ!」
「だめー」
「顔洗ってる!まじ無理!」
「だめー」
「ちょー!そんなん今されても気分じゃないし!!しばくぞはげ」
「・・・・」
あ、怒った?やばい。
「なんかお前痩せてない?」
長い沈黙の後、ともや、関口智也はそう口を開いた。
「別に痩せてないよ」
1日の自分へのご褒美パックのシートを破りながら優樹菜は答える。
「なんか感覚が違う。もっといいお肉やった!」
「ふっはいは!」
「え?なんて?」
「ほめん。はっくしてふからうまく・・・もー!
パックしてるからうまくしゃべれへん言うとんのじゃ!」
あーあ。これ1度付けたら20分ははがしちゃいけないやつなのに。
「だって、ほらここ!肩!骨ばってる!
ほらここも!お肉!なんかへこんでる!」
「・・・・別にええやん」
「いややー俺は抱いた時ほわほわになれる体が好きなんやー」
「黙れえせ関西人」
「実家はうどん県ですけどなにか?」
「おやつまでうどんてほんまですかー?」
「お前しばくぞ」
そう言って智也は優樹菜をもう一度後ろからきつく抱きしめる。
KENICHI MORIIのNo2の香りに力が抜けそうになる。
「もっと・・・」
力はさらに強くなる。
頭がくらくらしそうだ。
本気になったらもっと強く抱いて私の腕なんか
折れてしまうくらいの力を持ってるくせに。
絶妙なさじ加減を男はわかってやっている。
ずるい。
鏡の中に写るのは私と智也の頭頂部。
ああ、私、愛されてるねんなぁ・・・
「ごめん。なんか会いたくなって会いに来てしまった」
「私も会いたか・・・・う、う、うわーーん!」
驚いて智也の手が少しだけ緩む。
「え、なに?会いたくなかった?」
「会いたかったわぼけー!もう・・・うわーーん!」
「え、ごめんゆき落ち着いて」
そう言って智也は優樹菜を自分側に向かせて顔を上から覗き込む。
号泣する優樹菜の片目が軽く腫れている。
「え、なに、え。ちょ意味わからん。ゆき誰かに殴られた?」
「散々飲ませて吐いてまで付き合って愚痴にも耐えたのに・・・・うわーーん!」
「え、客に殴られたん?」
「最後にぐーぱんすんねんもん。なんなん?あいつ・・・うわーーん!」
「わかった。わかったからちょっと落ち着こうゆき」
「いやや!好きなこと言わせて!!なんなんあの女!
あんなんレンタルのくせにエルメスなんてブランドの価値わかってない証拠やーー!」
「?う、うん。そうだね」
「レンタルの家に住んでなにが楽しいの?そんなん自分がない空っぽ人間がやること
なんやー!」
「???ゆき?泣くか叫ぶかどっちかにしようか」
「いやや!やめん!気取ってるOLとかめっちゃ腹立つー!」
「いや、俺はああいう類の女より君にぞっこんだよ?」
「・・・ありがとう」
「そこは素直にとるのな。なぁ、落ち着いた?」
「午後ティー飲みたい」
「買ってくるわ」
「冷蔵庫入ってる」
「あるんかーい!」
「黙れえせ関西人」
「それ言うな言うとるやないかーい!」
「そんなしゃべりするのしげじいとあんたくらいや」
ふっと優樹菜が笑顔を見せる。
ああ。俺この顔大好き。
「もしもしー?」
「あれな」
「それな」
「あはは!」
「ははっ!」
そう言って2人は笑いあう。
「今日は思いきりやろな」
「・・・・ごめん今日生理や」
「においきついやつな!」
「ってぇ!!!!」
「発言には気を付けて」
「・・・はい。ごめんなさい。反省」
ああ。智也のこういうところ、私大好きかも。
しょげている智也に近づき優樹菜は智也の胸に思いきり
飛び込む。
「会いたかったー!」
「会いたかったー!」
「「あ、はもった」」
はっと目を合わせて1秒後、2人は大声をたてて笑い転げる。


はんぶんこ

キャス主ゆきなちゃんの話が書きたくなって、
御本人了承のもとで書かせていただきました。
短編にするつもりが着地点が見えず続きものにすることにしました。
登場人物に愛おしさを感じたことも続きものにした一因ではあります。
ゆきなちゃんありがとう。
これからもよろしくしてください。

はんぶんこ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-09-26

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