煙草

渋谷駅ハチ公前の横にある喫煙スペース。
仕切りがあるにも関わらず、喫煙者の数が多すぎて仕切りの外で煙草を吸っている人のほうが多い。そんなとこで吸っちゃいけないよ?と思う。かくいう俺も仕切りの外で煙草を吸っているのだが。
 今日は大学の講義が休講になったので、暇を弄んでいた。他の友達のようにナンパをしに行くのも気が進まず、かと言って女子のようにファストフード店で長時間雑談をしているのもあまり好きじゃない。とりあえず煙草でも吸おうと思ったのだが喫煙所がなかなか見つからず、ハチ公前までたどり着いてしまったわけだ。
 
 2本目の煙草をふかす。肺に煙が入ってゆく。あまり気持ちの良いものではない。どちらかというと煙草は嫌いだ。
 
 俺が煙草を吸いだしたのは去年。大学に入ったばかりの俺は3年間付き合った彼女にふられた。どうしても彼女を忘れられなかった俺は、彼女の大嫌いだった煙草を吸うことにした。それがどう関係するのかはわからなかったが、彼女に嫌われてしまったほうがいっそ楽だと思ったに違いない。もし彼女が俺の元に戻ってきたら禁煙しよう。と勝手な約束をしてからもう1年以上経ってるなんて、時が経つのは早すぎる。
 
 
 そんなことを思いながら3本目の煙草に手を伸ばす。吸いすぎはよくない。相変わらず喫煙スペースには溢れんばかりの人がいる。身体に悪いとわかっておきながらも吸ってしまうなんて、もう麻薬じゃないか。と俺は思う。喫煙者をよく見ると男性より女性のほう多い気がして、なんとなく煙草を吸う女性に偏見を持ってしまう。幼いころから、煙草を吸う=大人の男。というイメージがあるからだろうか。なんて自分勝手な偏見なのだろうと思う。まぁ人間なんて偏見の塊なのだが。
 
 
 4本目の煙草は吸わないことにした。コーヒーが飲みたい、仕方ないのでスクランブル交差点を渡りきったところにあるスターバックスに行くことにした。
店内に入るとスーツ姿のサラリーマンやノートになにかを書いている大学生、友達とおしゃべりしている女子高生などでいっぱいだった。どうやら俺の座る席はないらしい。仕方ないのでテイクアウトすることにした。買ったばかりのそれを飲みながら、渋谷の街をうろつく。急にガタイの良い外国人に声をかけられてとても怖くなった。そんな怖い人のいるお店には行きたくない。これもまた偏見。よろしくない。
 
 
 
 たまたま昔、彼女とよく行ったラーメン屋の前を通った。看板の名前が変わっていて、外に張り出されているメニューを見ると、どうやらあの頃のあのラーメンはもうやってないらしい。時代の流れを感じる。あの頃にはもう戻れないのかと思うと、なんだか切ない。
 
 ハチ公前に戻ってくる。相変わらず喫煙所には、溢れんばかりの人。煙の中に人。
俺は煙草をとりだす。中にはまだ数本残ってたが、そのまま灰皿にねじ込んだ。
その横で煙草を吸っていたスーツ姿の男は怪訝な顔で俺を見ていたけど、そんなこと気にすることもない。
 
 煙草なんて吸っているから、君のことを思い出してしまうんだ。



誰かが吹かした煙草の、煙はゆらゆらと揺れて消えた。

煙草

煙草

僕と君と煙草の関係

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-06-29

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