オレンジ
君に貰ったイヤホンから聴こえるこの曲は、いつか君と歌った曲だった。
僕は歩きながら君との3年を思い出していた。遠くに観覧車が見えた。あの観覧車には、結局乗らなかったなぁ。
君と二人でよく歩いた遊歩道は、相変わらず人が多くて、なんだか少し寂しくなった。今僕が見ている風景は何一つ昔と変わってなくて、自分が変わったことに気づかない。
君とよく食べたたこやき屋の前に着いた。チェーン店だから、どこも味は一緒なはずなのに、なぜかここで食べるたこやきは1番おいしく感じられた。
「雰囲気がさ、いいんだよ」
そういってたこやきを食べる君の姿は簡単に思い出すことができたけど、たこやきの味は思い出せないなぁ。
僕は君が好きだったオレンジジュースを飲む。食事をするとき、いつも僕はコーラで君はオレンジジュースだった。たまに行くマンガ喫茶に置いてあるオニオンスープは二人の好物だったことを、なぜか思い出してしまう。
オレンジジュースは、甘すぎるような、酸っぱすぎるような、よくわからない味だったから、一口だけ飲んで、あとは全然口をつけなかった。
君とボートに乗った公園に着いた。犬の散歩をしている人や、ジョギングをしている人がいる。ベンチに座りながら、ボートが浮かぶ池をぼんやり眺めている。気が付くと、ボートに乗ったカップルと目があっていたので、僕は慌てて目をそらす。思い出したようにオレンジジュースを飲むと、とっくに温くなっていた。カップルの様子を伺うと、もう僕のことなんか気にしていないようだった。そりゃそうか、僕は単に景色の一部だもんなぁ。
僕は駅のホームのベンチに腰掛ける。隣に君が座った気がして横を見てみるが、全く知らない男の人だった。
君に貰ったイヤホンから聴こえるこの曲は、いつか君と歌った曲だった。
電車の到着を知らせるアナウンスが鳴り響く。
僕はベンチから腰を上げると、ふらふらと線路のほうへ歩いた。
僕は思い切って線路に向かってダイヴした。
視界の隅に電車が映った。
あとはなにもわからなく。なりました。
オレンジ