新聞配達でまさかの恐怖体験! 

 どんな仕事でも意外と楽しい事が転がっているもの。まぁ、当時はこの世の終わり、と感じたけどね。

 午後2時頃に起きてオペラ音楽を流し顔を洗う。それから朝食を摂る。トースト一枚。ピザソースととろけるチーズをのせ、オーブンに入れる。
ちょっと前までの自分だったらここで350mlのビールを空ける。今は長年の不摂生の為、胃が受け付けない。
その代り、レギュラーコーヒーを嗜む。だが咽(むせ)る。
 食事が終わるまでの間、
 ”人生とは?”
との壮大なテーマに挑む。結局”まぁ、いっか”となる。
 朝食を摂った後、すぐに犬の散歩をする。白くバカデカい柴犬と、柴犬とゴールデンレトリバーとのミックス犬と、トイプードルの3匹で1時間~1時間半位かけてご近所様に糞尿をたれ流す。途中にある猫屋敷で異種格闘技戦が始まったりする。
 帰宅と同時によだれをたれまくっているお犬様達にミネラルウオーターを与え、私も加わりシャワーを浴びる。
その後私はマッサージチェアで15分間横になり、今夜のテレビ番組を予約し、お手伝いさんに犬の面倒を任せたつもりになって釣りに出かける。
 どこにでもある一般家庭の午後である。
 だが、今でこそこのように普通の生活だが、数年前はまるで違った生活をしていた。
ある時期などは1日の中で4個の仕事を掛け持っていた。
そのひとつが新聞配達である。
 
 人々が目を覚ますまでの静かなひと時。町は新聞配達員の為にあるようなもの。ひと気が無い。
目につく事と言えば、
・昼夜を問わず真面目に働く信号機。
・その信号機に従わない暴走車。
・早起きの肌着姿の動きの少ないお年寄り。
・カラスの喧嘩。
などが挙げられる。
 ”あ~、なんか遠い昔の様な気がする・・・”
なんて懐かしさが込み上げてきたのは他でもない。
実は現在新聞配達員をしている友達から面白い話を聞かせてもらったのだ。
 私も楽しい体験を思い出した。

 木造平屋建ての長屋に住んでいる女性がいた。年の頃は70歳位。
毎朝私が配達に現れると、
 「おはよう~、そこに置いといて~」
と、どこからともなく元気な声が聞こえてくるのだった。
そこ、と言うのは
”玄関を開けていいよ”
と言う意味でもあるのだ。
 ガラガラと音のする引き戸を開けると小さな土間があり、そこにはツッカケ、サンダルが並べられている。
小さな上がり框(かまち)のすぐそこに曇りガラスをはめ込んだ引き戸がある。
いつもその向こう側から声が聞こえてくるのだ。
 その日は朝から蒸し暑かった。
私はいつもの様に新聞を配達にその長屋の前に行った。
するとそこに声の主が居た。
玄関先で何かを洗っている様だったが何を洗っているのかは判然としなかった。
 ”あっ、おはようございます”
と、私はスーパーカブにまたがりながら新聞を手渡した。
 「おはよう~」
と挨拶を返してきたその女性はピンクのネグリジェ姿であった。
 次の日から私は極力手渡しを避けるよう心掛けた。
1日の始まりである”朝”は大事なのだ。
 自分の努力の甲斐あってそれ以降は、その女性の姿を見る事はなかった。
胃腸の弱い私にとって自己防衛本能が働いたのかも知れないと思った。
 しかし、更なる恐怖が私を待っていた。
 「おはよう~、そこ、置いといて~」
とのいつもの声。その日はいつになく薄暗い朝だった。
私はいつもの様に玄関を開けた。ガラガラ・・・。
するといつもは閉ざされている中の戸が全開になっていたのだ。
 お世辞にも広いとは言えない居間を、蛍光灯の灯りが隅々まで照らしていた。
 ”ウワーーーッ!!”
私は上がり框に膝を強打した。その灯りの中にあったものらのせいで尻もちをついた。
そこにあったものとは?
 ”おびただしい目、目、目”
 ”目”
があったのだ。放射線状の雛段に目がぎゅうぎゅう詰めだ。その全ての目が私を見ていたのだ。
 心肺停止中の私に更に追い打ちを掛ける恐怖が襲い掛かった。
それは確かに女性の、
 オハヨ・・・・・・・・・・・
と、言う声だった。しかもそれは、
 ”目”のあたりから聞こえたのだ。
絶対に私の目の前から発せられている声だった。
 ”目?・・・か・・・目が喋ったのか?どの目が喋ったのだ?いったいどの目が・・・”気が狂いそうになった。
 
 気が付くと私は長屋を飛び出していた。
外は少し明るくなっていた。
 遠目からしばらく長屋を眺めた。
 ”ホラー映画じゃないんだぞ・・・勘弁してくれよ、おいおい・・・”
 
 ランランとした目が私ににじり寄ってくる。
 
 「へえ~、で、何なん?目って・・・」
目をランランとさせながら、その状況をもっと詳しく教えて欲しいと言う。
 「ハイハイ、分かった今言うから待って!」
と私は、にじり寄る友達を制止した。
 「それがさ・・・」
と、当時を思い出した。
 「会社に帰ってから先輩に聞いたんだよ、あの家の事。そしたらさ、そこのおばちゃん、どうやら昔は古物商のお店を営んでいたらしいんだ。で・・・」
 「で?」
 「で!お店をたたんだ際、捨てるに捨てられない”あるもの”が大量に手元に残ってしまったんだそう・・・で、結局それらを今だ大事にしているんだって。」
 「ふ~ん・・で?その捨てられないあるものって何?」
 「・・・・・人形、だってさ」

 私は当時を振り返って、思う事がある。
あれは悪趣味だ。悪趣味の域を遥かに超えている。いや、勘違いしないでほしい。
世界各国の人形を玄関に向かって並べる事を指してはいない。いや、それも十分に悪趣味である、が、そうじゃない。
 その状況を最大限に活かして行っている事の方が問題だ。
あれは人を驚かすために行っているとしか思えないのだ。

 何百という数の人形が雛段にすし詰め状態。 
その中の一体の目が、あろうことかパチクリとまばたきをしていたのだ。怖くない訳がない。
実はそれ、
 ”おばちゃん本人” 
だったのである。

 新聞配達でまさかの恐怖体験! 

 嫌な事ばかりの世の中だけど、意外と多い愉快ネタ。
もっと目を凝らして足元を見るのだ。
そこには目を見張る何かがあるかも知れない。

 新聞配達でまさかの恐怖体験! 

過去に新聞配達をしていた事がある筆者が、当時を懐かしむ。そこにはけっして忘れてはならない恐怖体験があった。

  • 随筆・エッセイ
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  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-09-25

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