泡沫 ~夕空のキセキ~ #4

放課後の探し物 ③

 一年一組の教室を出て、近くの出入り口から一旦外に出れば、管理棟はすぐそこにある。だから職員室の前まで来るのに、そう時間はかからなかったのだけど。
「……駄目、か」
 職員室手前の長机の上。全学年の学級日誌の横に、底の浅い段ボール箱が用意されている。中には消しゴム、シャーペンなどの小さな物から、筆箱や水筒などの比較的大きな物まで色々と入っていた。言うまでもなく、これが落とし物入れである。
 一通り探ってみたのだけど、残念ながらその中に彼女のハンカチらしきものを見つけることは出来なかった。
「うぅ……」
 隣で日和さんが分かりやすく肩を落としていた。ともかくこれで振り出しに戻ってしまったのは確かだから、おそらく時間との勝負になるのだろうけど、彼女が今日行ったという場所をもう一回りするしかなさそうだ。ちなみに残り時間はおおよそ五十分。
 ――満足のいく結果になるか、早速怪しくなってきた感じだな。
「失礼しました」
 扉の向こうからそう声がしたので、とりあえず僕たちは数歩下がって通路を空ける。
 少ししてその扉が開き、出てきた女の子に反応を見せたのは日和さんだった。
「あっ、花塚さん!」
「え……ひ、日和さん!?」
 知り合いだろうか。……というか、花塚さんと呼ばれた女の子の今の反応は、随分と大袈裟なもののように感じたのだけど。
 不思議に思っていると、不意に日和さんがこちらを向いて言った。
「紹介するね。こちら私のクラスの委員長で、花塚 蕾(はなづか つぼみ)さんだよ」
「よ、よろしくお願いします」
「あ、うん、こちらこそっ」
 少々緊張気味に会釈をされて、慌ててこちらも同じように動作を返す。挨拶からすでに丁寧な花塚さんは二つに結んで下ろした黒髪と四角いメガネが特徴で、温和で真面目そうな空気が見て取れた。
「それで、こちらは一年五組の空汰くんだよ」
 ――日和さん、その紹介はちょっと……。
「え、えっと……」
「み、水上空汰です。その、よろしく」
「は、はいっ。よろしくお願いします、水上くん」
 と言いながらまた会釈をされ、同じくこちらも――。
 ――ほんとに丁寧な人だな……。
「……ところで、お二人ともどうされたんですか? こんな時間まで」
 ここで至極当然の質問を向けられる。互いに同じ状況にあるように見えても、職員室から出てきたばかりの花塚さんに何か用事があったことはすぐに想像できるのだけど、一方で僕らの事情は、多分見ただけでは分からないだろうから。
「私がハンカチを落としちゃってね。それで空汰くんに手伝ってもらって、探してる最中なんだけど……」
「ハンカチ……ですか」
 花塚さんは協力的で、話を聞くやすぐに考え込む姿勢に入ってくれる。どこかで見かけなかったか記憶を探ってくれているのだろう。
「すみません。日和さんのハンカチは、多分見ていないと思います」
「そっか……」
「す、すみませんっ。お力になれなくて……っ!」
 日和さんはそんなつもりではなかったのだろうけど、自然に零れたその一言を落胆のそれと思ったのか、花塚さんは血相を変えて何度も頭を下げた。
「そ、そんなことないよっ! むしろ協力してくれて大感謝だよッ!?」
 日和さんが慌ててそれを制する。何とか頭を上げてもらった後も、花塚さんの表情はどこか曇ったままだった。
「出来れば、私もお手伝いしたいんですが――」
 委員長の仕事が予定より長引いてしまったため、花塚さんはこれから急いで家に帰らなければいけないらしい。結果的にそうなってしまったとはいえ、これ以上足を止めさせるわけにはいかないだろう。
 小走りで去って行く背中を見送りながら、ふと僕は呟くように言った。
「いい友達だね」
「……うん!」
 去り際も、申し訳なさそうな顔の花塚さんは何度もこちらを振り返ってくれていた。迷惑をかけたのは僕たちの方だったのに。今度会うことがあったら、また改めてお礼を言おう。
 ――さて、
「もう一踏ん張り、だね」
「うん……ほんと、付き合わせてごめんね」

 ――時間はギリギリ……ほんとに、何とかなればいいけど。

泡沫 ~夕空のキセキ~ #4

こんばんは、天色です。
長かった夏休みも終わり、明日からまた学校が始まるわけで、何とかそれまでに投稿できましたが……いかがでしたか?(汗)
学校が始まってからも、出来ればこのペースを保っていきたいと思っておりますので、どうかこれからもよろしくお願いします。
それでは、また次回に。

泡沫 ~夕空のキセキ~ #4

放課後の探し物 ③

  • 小説
  • 掌編
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  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-09-25

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