うんこ大王とおしっこ王子(大王街に行く編)(8)
八 キングうどん竜との戦い
昼食を食べた僕たちは、近くの公園に行く。公園ではテントで、コーヒーやジュースを販売していた。
「コーヒー二つと、ハヤテは何にする?」パパが振り返った。
「オレンジジュース」
僕たちはベンチに座った。風が気持ちいい。
「ふぁああ。昼御飯を食べると眠たくなるなあ」パパがあくびをする。ママも目をつぶっている。大王も胸のポケットの中で丸くなっている。僕もうとうとしだした。その時だ。
「何かおかしいぞ」大王が起き上がった。僕も目を覚ます。パパやママは昼寝中だ。寝息を立てている。
「あっちへ行ってくれ」大王が指を差した方向は、さっきのうどん店だ。僕はうどん屋の方に走る。ビルの谷間に、巨大なうどんが一本立っていた。
「うどん竜だ」大王が叫んだ。
「あれがうどん竜なの。どうしてお腹の中じゃなく、街の中にいるの?」
「わからん。ただ、さっき見た食べ残しのうどんが合体して大きくなったのだろう」
「残飯からうどん竜になるの?」僕は驚いた。うかうか食べ残しもできない。
うどん竜は十階建てのビルに届くくらい巨大化していた。
「ははははは。人間どもめ。これまでよくも、俺たちをゴミとして捨てていたな」
うどん竜の口からは、白い粉が吹き出した。それを被った人々や車はその場で固まって動けなくなる。白い人間の彫刻だ。。
「あれは、何?」
「たぶん、小麦粉だろう。人間への復讐だ」
「どうしたらいいの?」。
「あんなにでかくなったんじゃ、わし一人ではたちうちできん」
「じゃあ、この街は白い粉に覆われてしまうの。街が、人が死んでしまうよ」僕は大王に質問ばかりするけれど、自分では何もできない。
「いい考えがある」
大王は僕に胸ポケットから飛び出ると、僕の頭の上に乗った。
「仲間たちよ、集まれ」こんな小さな体から出るとは思われないような大きな声が出た。白い粉を被って動けなくなった人々の口から、茶色い個体が飛び出すと、僕の周りに集まった。その数は、十、百、千、もう数えきれない。
「同じ大王立ちよ。一致団結して、うどん竜を倒すぞ」
「オー」歓声が上がった。茶色い個体たちは大王に次々と合体し、みるみるうちにうどん竜と同じ大きさになった。僕は目の前のことが信じられずに、ただ茫然と立ち尽くす。一体化した大王は、うどん竜に飛び掛かる。
「お前たちも、いつも人間に利用されているのに、何で、人間を助けるんだ」
「わしたちは人間と一心同体だ。それに、人間たちにはいつも注意している」大王はうどん竜の首を絞める。
「く、くるしい」うどん竜の首から二つの首が生えてきた。全部で三本の首となった。
「しまった。キングうどん竜に変身したか」それでも、大王は引き続き、一本の首を絞め続ける。
「離せ、離せ」残りのうどん竜の口から白い粉が吹き出され、大王の体をおおった。
「しまった。体が動かん」大王の動きが止まった。声も出なくなった。
「人間の味方をするから」
「こうなるんだ」
「俺の攻撃を受けてみろ」
キングうどん竜の尻尾が大王の体に当たる。その度ごとに、大王の体から、ひとつ、ふたつと、小さな大王たちが離れていく。このままでは、大王の体がバラバラになってしまう。
その時。僕の口から何かが飛び出た。
「大王。大丈夫ですか。僕が助けに行きます」
おしっこ王子だった。王子は大王と同じように、僕の頭の上で、「同じ王子たちよ。みんな、集まってくれ」と大声で叫んだ。人々の口から、黄色い液体の人形が僕の周りに集まった。
「よし。大王を助けるぞ」王子たちは合体して、巨大化した。そして、キングうどん竜に向かっていった。
「こんどはおしっこか。誰が来ても一緒だ。俺にはかなわないぞ」
キングうどん竜の口から白い粉が吐き出される。だが、液体の王子にはきかない。王子はそのままうどん竜の体に飛び掛かった。
「やめろ
「やめろ」
「やめろ」
王子はキングうどん竜の体に抱きつくと、キングうどん竜の体を自分の体の中に吸い込んだ。キングうどん竜は暴れるものの、
「息が」
「息が」
「息ができない」と、三つの首はぐったりと折れた。
「よしいまだ」王子は大王の体に液体をかける。粉が流され、大王は動きを取り戻した。
「助かった。ありがとう、王子。今度はわしの番だ」
大王は王子の体からキングうどん竜を掴みだすと、柔らかくなった体を粉々にした。
「だが、問題はこの後だな」
大王は粉々になったキングうどん竜を港まで運ぶと、海に流した。海では、魚たちが粉々になったキングうどん竜をエサとして食べた。
「その魚を、また、僕たちが食べるんですね」
「そうだ。食物連鎖だ」
王子の言葉に大王が頷いた。
キングうどん竜が倒れたので、大王や王子は、再び、バラバラになって、元の人間に戻っていく。すると、白い粉が溶け、街の人たちは、何事もなかったかのように、再び、動き出した。僕の目の前には、僕の大王と僕の王子がいた。
「大王。まだ、社会見学しますか」
「いや。今日は疲れた。元に戻る。じゃあ。またな。わしが言ったことは守るんだぞ」
「も、もちろんだよ」僕が頷くと、その開いた口から、大王と王子が飛び込んだ。
「うんぐ」僕は、再び、うんことおしっこ、いや大王と王子を飲み込んだ。
僕が公園に戻ると。パパとママは何事もなかったかのように目覚めていた。
「どうしたんだ」
「どこへ行っていたの」
「いやあ、ちょっとトイレ」
「そうか。ふぁああ。さあ、帰るか」
「帰りましょう」
「でも、二人とも、まだ、カップにコーヒーが残っているよ。そのまま捨てると、キングコーヒー竜が現れるよ」僕が指摘する。
「なんだ。それ」
「テレビの見すぎじゃない」
「それでも、もったいないのは事実だな」
「そうね。もったいないね」 二人はコーヒーを飲み干した。
僕たちは家に戻った。帰る途中、街は、以前の通り、人々でにぎわっていた。でも、飲食店からは、うどんなど、残飯の量が少しは減るだろう。それぞれの人のうんこ大王とおしっこ王子が主に「もったいない」と注意してくれているはずだ。
うんこ大王とおしっこ王子(大王街に行く編)(8)