受賞作

 選考委員の作家は言った。「これほど楽な選考会はかつてなかった。受賞作はこれ以外にありえない、と開会前から委員たちの間ではすでに合意のようなものが出来上がっていたのである。果たして特に何の異論もなく本作の受賞はすんなりと決定し、商売敵になるからやはり落としてしまおうか、などという冗談も交わされた。また、作者が十五歳とあまりに若いため、話題作りのための主催者側の戦略と思われるのではないかという懸念の声もあったが、それは杞憂と言うほかなかろう。本作は十五歳にしてはよく書けているといった水準の作品ではなく、文学史上稀に見る傑作である。一読すれば誰にでもそれは理解できることだろうと我々は信じている」
 ある書評家は言った。「巻を措く能わずとはこのことだ。壮大でありながら一分の隙もなく緻密に練り上げられた物語、繊細かつユーモラスな文体、まばゆいばかりの生命力に満ちたキャラクターの数々…本作の魅力を挙げればきりがないが、言うなれば小説を読む喜びのすべてがここに詰まっているのである。もうエンタメとか純文学とかいう下らないくくりで語るのはやめにしよう。ただただこの才能に脱帽してくれ」
 ある画家は言った。「私は憂鬱である。この作品が世に出た後でお前は一体どんな絵を描くというのか、と喉元にナイフを突き立てられているように私は感じている。いや、なにものかを創り出そうとするすべての者はそう感じなければならないのである。この作品はいずれ古典になる。一読者として、私は作者と同時代に生きていることをこの上ない喜びと考えるが、一人の芸術家としては、それは最大の不運であると考えざるをえないのである」
 私の頭を撫でながら祖母は言った。「あらまあ!上手に書けたわねぇ!」私はありがとう!と叫んで祖母に抱きついた。

受賞作

受賞作

新進気鋭の作家が巻き起こした反響について。758字。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-09-24

CC BY
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