飛べない鳥と飛びかたを忘れた鳥
はじめまして。処女作と言って良いほどのものではありませんが、どうぞよろしくお願いします。
第一話
“飛べない鳥”僕らはそう呼ばれている。生まれは南、とても寒い過酷な場所。そこで僕らは生きていた。必死になって氷の崖を下ってサカナを狩って、死に物狂いで仲間の元へ帰って、時には仲間を失って、体を寄せ合い、助け合って、必死になって生きてきた。天敵から逃げ惑い、毎日を必死に生き延びていた。
そして、僕は今、東京の水槽の中で生きている。決まった時間にニンゲンからサカナを与えられる。ここに天敵はいない。ただ、好きに泳いで遊んで、好きな時に寝ればいい。安泰の園。ニンゲンに閉じ込められたこの檻は僕らにとって願ってもみない楽園だった。
それから僕は、本能を失った。もう前のように敵の気配を感じることはなくなった。身体も重たくなった。サカナを追いかけるための速い無駄のない泳ぎを失った。身の丈ほどの氷の崖も登れなくなった。でも、それらはみんな必要ない。だって僕らはただただ檻の向こうのニンゲンに可愛がられるだけで十分に生きてゆけるのだから。きっと僕は幸せな生涯を遂げられる。ニンゲン達に命を惜しまれ、仲間たちに見守られて天へと登る。かつての仲間の様に、1人悲しく、暗い海の底へ沈んでゆくことも、天敵に襲われて食べられ糖になることもないのだから。野生を失った僕らは、安全を手に入れた。必死に生きていたあの頃、あんなにも渇望していたものだった。
ーなのに、なぜ、こんなにもつまらない?願った全てを手に入れたのに、ここにいない仲間が聞いたらなんて贅沢だと言われるだろう。
だけど、僕は、今、あの頃みたいに生きることに必死になれない。ただ漠然と生きている。あの頃の様に生に縋り付いても、夢を見てもいない。なんでつまらない生き方なのだろう。僕は遠い故郷を想い、空を見上げた。はるか南のあの地では陽が沈めば月が星を連れて登ってきた。あの頃の空はどこまでも繋がっていて広かった。だから僕は空に憧れた。あの空に近づきたい、夜空に輝く星を眺めながら幼心に願った夢を思い出した。
ーそうだ、僕は、“空を飛びたい”
飛べない鳥と飛びかたを忘れた鳥
続きます
ペンギンの生態についてはある程度は調べたのですが、おかしな点ありましたら誠に申し訳ございません。