初めましてエイリアン
侵略者も時にシンリャクされちゃうものです
黒板に教員の藤原が立つ。何時もと変わらないチャイムの音色が教室の吸音板が吸収して徐々に静かになっていく中で僕は鼻を擦った後に拳に頬を置いた。教員の藤原がハンカチで汗を拭う姿を見た。するとだ藤原は二重に垂れた分厚い顎を動かしてフゥーフゥーと息を吐いてこう言った。
「きょ、今日は転入生がやってきます。仲良くして下さいよね」
教室はざわついてる。それもそうだ転入生の噂なんて聞いたことがなかった。本当にいきなりのことであった。
ガラララ。
古い溝に砂と誇りが詰まった引違のドアがスライドして黒い頭髪の少年が入って来た。なるほど、この普通の風貌をした奴が転入生か?僕は余り関心がなくあくびをして藤原の隣に並ぶこの少年を見た。
「じ、自己紹介をして下さい」
藤原は少年に白いチョークを渡す。普通の指を伸ばし少年はチョークを受け取り黒板に綺麗でもない下手でもない文字を書いていく。
「佐藤です。よろしくお願いします」
これまたありきたりの挨拶であった。
僕は再びあくびをした。早く家に帰ってゲームがしたいなぁ…と思った時である。佐藤はスタスタと歩き出して前から二番目に座っている女子生徒に向かって声を出して質問した。
「君、青虫に似てるなぁ……ぐにゅ、ぐにゅ、ぐにゅ」
教室は沈黙になった。
とまぁ、これが佐藤との出会いであった。彼の登場で僕はそれからと言うものあくびは二度と出なかった。何故なら彼は僕から見える近くの椅子に座り僕の視覚を釘づけにするからだ。例えば数学の時間に黙々と数式をノートに写していると両手を挙げて「先生! 水琴窟がちぃーん、ちぃーんと鳴るのです! その白墨で黒板なぞった時、ちぃーん、ちぃーんと聞こえます」
佐藤は椅子から立って両手を耳に当てスタスタと歩き数学の先生の前で立ち止まる。その佐藤の様子を見て先生は怒鳴って叱責をするのは当然なのだが佐藤はキョトンとして、まるで怒りに燃せている教師が場違いであるのではないかと思ってしまう。
他にもある。廊下を移動中に僕が友人と歩いていると佐藤は鉄骨コンクリートの柱を鉛筆の端で叩いている。同じ場所をコツン、コツン、コツン、コツン、コツン、コツンと丁寧にゆっくりと繰り返して行う。僕はスッカリ困惑してそれを見てしまう。しかし隣にいた友人は何処か愉快な生き物を見る目であった。それで友人は「おい、佐藤、一体何をしているんだ?」と頬の筋肉を薄っすらと上げて質問をした。佐藤はその友人の声を耳に入ったらしく身体をピクリと動かした後、視線をコンクリートの柱から留めたまま口だけを開けて言った。
「ここのコンクリートの奥に小人が巣を作っているんだ。悪い小人さ。でも大丈夫、この小人は一定の振動を送ると死んじゃうんだ」
佐藤は言葉を終えた後に僕と友人にパチパチと瞬きをしてこっちを見た。しかし佐藤の手だけはゆっくりとまだ、柱に向かって動いていた。
あと一つ、佐藤について話をしておこうと思う。
酷い台風が去った朝、生徒たちは校舎の周りをホウキとチリ取りを手に取って落ち葉や飛び散った草や枝、落ち葉を拾って透明の袋に一生懸命に放り込んでいた。特に花壇は暴風の影響を強く受けたらしく散り散りに花びらと葉が地面に乱雑に広がっていた。しかしその花壇の中で一の花だけが生き生きとして満開に咲いていた。まるで昨日は無風で快晴の暖かい光を浴びていました。と語っている様であった。
その満開の赤い花を見つけた女生徒と教師は喜びながらこう言う。
「すごいですねぇ。あんな台風の後なのに綺麗に咲いてるよ」
「頑張って踏ん張ったんだよ! きっと!」
僕も近くで軍手をはめ、水分をしっかりとしみ込んだ落ち葉を拾い袋に捨てていた。その声はとても嬉しそうであったので僕は教師と女生徒の会話を聞いていた。
その声にある声が加わった。
「ヒガンバナって言うんですよね。その赤い花」
僕はビクッと手を振動させ握っていたホウキと一緒に『ヒガンバナ』と言った声の主に身体を向けた。黒い頭髪の佐藤が花壇の土に足を置き、教師と女生徒の前に立っていた。僕は次に佐藤の右手を見た。錆びたカマを持っていた。
教師と女生徒は佐藤を見てどことなく嫌そうな表情を抑えている様で口元だけは笑っていた。
「そうなんだ、このお花のお名前はヒガンバナって言うんだね」
女生徒は佐藤から視線を反らし、生えている赤い花を見つめて言った。だが佐藤は指で薄い唇を指でなぞって「見た目はね」とポツリとこぼした。
途端に佐藤は靴で赤い花をドシッ! と踏む付けた。あまりにも急に起きたことに女生徒は口をポカーンと開け、教師も同様に瞳孔を広げてその光景を見た。
だがスグに佐藤の行為に教師は怒りの声で「な! 何をしているんですか!佐藤!自分で何をしているのか……」
教師の言葉が続いてくる前に佐藤は話を遮り答えた。
「こいつは! 地球の生命体に化けている悪い生物です!普通に考えておかしいでしょ?他の草木は散り散りに巻き散ってるんです。この偽物!」
佐藤は言い放つと右手で持っていた錆びたカマで赤い花の頭を刈った。
円弧を描いて空中に浮かびヒガンバナの花は僕が立っていた足元に音もたてずに転がり佐藤の方を見ている様であった。そして教師と女生徒は奇怪な目で佐藤を見ていた。
他にも佐藤は問題を起こして教師からも生徒からもキチガイの存在として扱われていた。しかし僕はある日、佐藤から疑いはじめられている眼で見られている事に気づいた。呼吸も出来ない様な、瞬き一つせず、僕を見惚れられていると思う程の熱い視線であった。僕は非常にそれに困った。今までに起きた佐藤の行動からすると、おそらく僕の事をほとんど知っているかもしれないのだと。
「河崎くん。悪いんだけどさ、今日の夜、校舎の屋上に来てくれないかな」
弁当を食べ終えて友人が席をはずした時であった。佐藤は僕に声をかけた。僕は正直に言って佐藤がこの様なアクションを起こしてくる事を何処かしら考えいたので簡潔に承諾した。
「了解」
教室の蛍光灯がパチパチと変な音を奏でた。
生ぬるい都会の熱が夜の風を混ぜて僕と佐藤の髪の毛を揺らした。荒い仕上げで施された屋上の床はまだ温度を高く保っていた。白く塗装された手すりに僕と佐藤は腰を掛けている。暗黒の空に巨大な満月が光を放ち二人を照らしていた。
横にいる佐藤は薄い唇を上げてなんだか少し楽しそうに微笑んでいる。僕は大きくてまん丸い月を見た後に佐藤に「それで、用は?」と言った。
佐藤は僕の言葉を聞いて少しだけモジモジと両手の指で遊んで返事を返した。
「初めて見た時から、もしかしたら! ってずっと思っていたんです。高度生命体!宇宙の真実!救世主!その全てが当てあはまると思うんです!」
瞳を綺麗に輝かせて佐藤は言った。
「君は不思議だよ。今までずっと観察してきたけども君のような存在は此処にはいなかったのに、突如として現れた」
僕は冷汗を垂らした。一体この佐藤とは何者だろうかと?身体の仕組みからすると百パーセント地球の生命体なのにだ。
「やはり、お認めになるんですね」
佐藤はニッコリと笑って口を動かした。
「初めましてエイリアン」
腕を伸ばして僕に握手を求めた。僕はその手を取るか少しだけ迷ったが彼の手を握った。
「エイリアン……ではない、ただ観察に来ているだけだ。君たちだって動物の生体や虫や草木の図鑑を作るだろう? それと一緒だよ、この青い星の生体、まぁ、僕は学生の生活を記録しているけども」
「それなら、何星人何ですか? あるでしょう?そういう自分たちの呼び方と言うものが」
佐藤は興奮気味に息を荒くして述べてくる。
こいつ怖くないのか?と思いながら僕はその不思議な青い星の人に言う。
「秘密」
「えぇええ! いいじゃないですか!教えてください」
僕は首を横に振った。
「じゃあ、河崎人で良い?」
何だそれ? と思ったけども、めんどくさいのでそれで「いいよ」と言った。
「それで、僕を此処に呼んだ他の理由があるんでしょ?」
僕の言葉に佐藤は頷いて真剣な表情で話し始めた。
「俺を河崎人の星に連れて行ってくれよ」
「どうして?」
「河崎だって分かってるだろう? 俺はこの星じゃ、頭のオカシイ奴にしか思われない。俺には真実の姿が分かるでも、分からないのが普通なんだよね?それってお互いに苦痛しか生まないって俺は思うんだ」
佐藤は腕を手すりに置いて言った。そして夜の空に掲げられた満月の月を見つめて「あの月の後ろに宇宙船があるんだろ? 河崎は満月の時に何時もこの屋上にあがって交信しているじゃないか。今だって僕の会話を向こうに送っているんだろ?」
僕は瞼を閉じた。
頭の奥にあるスイッチを切り替えて電波のスイッチを押す。月の裏で漂っている宇宙船の幹部に通信を行う。
『予想していた一つが起きてしまいました。非常にカンの鋭い者に……えぇ、そうです。その通りです。私たちの目的はただ単に観察を行う事ですが……分かりました……その様に行います』
僕が佐藤の方を見ると佐藤は「なぁ! なんだって!司令官はなんて言っていた?」息を弾ませて聞いてくる。
「佐藤、お前を消せってさ」
僕は学ランのポケットから光線中を出した。銀色に光る光線中だった。佐藤に向けて銃口を向ける。しかし佐藤は落ち着いた声で「観察を行うだけじゃ、なかったのか?」と言う。
「お前はイレギュラーだ。お前の話は誰も信じないだろうが、念の念だお前を消しておく」
だが佐藤は残念そうな声で「そうか」と言うとポケットから僕が持っているの同じ銀色の光線銃を取り出して僕の右手に向かって打ち放った。
ピュン!
僕の右手は消し飛び銀色の光線銃も空中で蒸発した。僕は恐怖と驚きの表情で腰を床に落とした。もう床は冷たく冷え始めていた。
「な、なぜ、お前がこの銃を持っているんだ」
「お前の同僚から奪ったんだ。大丈夫だ殺してはいない。まぁ河崎くんは、死んでもらうけど」
「や!やめろ!」
佐藤は軽く引き金を引いた。黄色い光線が飛び出して僕の核を貫いた。こいつ僕たちの生体を完全に把握していやがる!
「く!くそがぁああ!」
僕の身体はぺキペキと皮膚にヒビが徐々に這いずり回っていく。目の前が揺らいでいく、佐藤の顔が僕の視界に近づいてきて映る。そして薄い唇を動かした。
「今日から俺が河崎として生きていくよ。じゃあな」
夜の風は涼しくなっていた。校舎の屋上では銀色にきらめく砂が静かに舞っていた。その中で静かな声が「任務終了しました。えぇ彼は上手く事故死にした事にしますよ。なんせ不思議な奴です。誰も疑わないでしょう」
ニッコリと微笑む黒い頭髪の生徒は満月に軽くお辞儀した。
「さ、佐藤くんが消失して二日がたちます。な、なにか知っている方は、せ、先生に言ってくださいね」
藤原は二重に垂れた分厚い肉を動かしてフゥーフゥーと苦しく息を吐いた。教壇に立つ藤原はそう言って授業を始めた。僕はあくびをして黒板を見る。そうすると後ろから「河崎、そこの席、佐藤の席だぞ。寝ぼけてるのか?」眼鏡をかけたクラスの男子に注意される。
「そうだな、寝ぼけてた」
俺は自分の席に戻った。
初めましてエイリアン