うんこ大王とおしっこ王子(大王街に行く編)(7)

七 うどん竜との戦い

 僕は眉をしかめた。
「どうしたんだ」うどんを食べ終わったパパが顔を上げた。
「さっきから、お腹の調子がおかしいんだ」
「食べすぎじゃないの」ママはまだうどんをすすっている。
「ちょっと、トイレ」
 僕はお店のトイレに駆け込み、便器に座った。
「大王。たたたた、大変です」
 便器の中から、突然、大きな声がした。僕は慌てて、立ちあがる。便器のたまり水には、大王によく似ているが、少し小さい人形がスコップを持って立っていた。
「どうしたんだ。固体班の隊長」
「お腹の中で、うどん竜が暴れています。私たちではかないません。どうかお腹の中にお戻りください」
「やはりそうか。主がうどんを噛まずに飲み込んでいたので、嫌な予感がしていたんだ。わかったすぐ、行く」
「本当に、僕のお腹の中にうどん竜がいるの?」
「ああ、本当だ。詳しい話は後で。じゃあ、すぐに行く」
「お願いします」小さい人形は便器の中に流れていった。
「口を開けてくれ」
「口を?」僕は大王に言われるままあーんと口を開けた。
「それ」大王は掛け声とともに、胸ポケットから飛び出すと、僕の口の中に飛び込んだ。
 えっ。大王を、いや、うんこを飲み込んだ。しまった。急いで喉を押さえ、吐き出そうとするものの、大王、いや、うんこは出てこない。ばっちいけれど、仕方がない。自分のうんこだものなあ。僕は吐き出すことをあきらめた。

「どうしたんだ。もうかかって来ないのか」
 王子たちは、うどん竜の周りを取り囲んでいるものの、手を出せない状態だ。
「わしがいるぞ」大声が聞こえた。
「大王だ」王子たちは周りを見渡すが、大王の姿は見えない。
「誰だ」うどん竜も首を三百六十度回転させるが、声の主の姿は見えない。
「ここだ、ここだ」声は上からだ。顔を上げる。食道から何かが落ちてきた。そして、うどん竜の頭に直撃し、首をはがい絞めにした。
「痛い。く、くるしい」
 もがくうどん竜。だが、首を絞め続ける大王。白いうどん竜の体がだんだんと赤みを帯びてくる。うどん竜はそのまま倒れてしまった。
「今だ。消化しろ」大王が叫んだ。王子をはじめ、個体班、リキッド班の隊員たちが、スコップやツルハシ、ホースを持って、うどん竜を取り囲んだ。次々と、うどん竜の体を切り刻み、消化し、吸収していった。
「ざ、ざ、んねん。もう少し、暴れたかったのに」最後に残されたうどん竜の頭も消化栓の中に放り込まれた。
「大王。ありがとうございます。やはり、大王がいないと、消化活動は無理です」王子が頭を下げる。
「いや、いや。主がうどんを噛まずに飲み込むのをわしが防いでおれば、こんなことにはならなかった。やはり、疑問に思ったことは後回しにせずに、すぐにやらなければならんなあ」
 大王は腕を組んで頷いている。
「そうじゃ。まだ、外の世界を見ないといけない」
「また、戻るんですか」
「ああ。まだ、このことを主に話をして、注意しておかないといけないからな」
「どうやって戻るんですか。お尻からですか」
「いや。口からだ。主がトイレに行くのを待つよりも、その方が早い」大王はジャンプをした。

「さあ。食べ終わったらいくぞ」パパが席を立った。ママも続く。
 僕は大王を飲み込んだままだ。でも、もうお腹の痛みはない。大王はうどん竜を倒したのだろうか。このうどん店はセルフサービスなので、食べ終わったうどんの器をトレイに載せて運ぶ。
「はっ、はっくしょん」急にくしゃみがでた。と、同時に、コップの水が顔に掛る。コップの中には、大王が、僕のうんこがいた。大王は僕の口の中、喉、胃を往復したことになる。ちょっと気持ち悪いけど、自分のうんこだから仕方がない。
「ああ、気持ちいい。ひと働きした後の、風呂はいいもんだ」大王はご機嫌だ。こんな様子を誰かに見られたら大変だ。僕はコップの中の大王を急いで指で掴むと、何食わぬ顔でティッシュでくるむと胸ポケットの中に入れた。
「お腹の中はどうだったの?」
 僕はおそるおそる大王に尋ねた。ティッシュの白いガウンをまとった大王は
「やはり、うどん竜がいたぞ」と平然と答える。
「うどん竜を倒したの?」
「当たり前だ。そうしないと消化できないからな。食べ物をよく噛まないで飲み込むと、お腹の中で怪獣になるんだ。うどんだけじゃないぞ。バナナだって、りんごだって同じだぞ」僕は、バナナ怪獣やりんご怪獣がお腹の中で暴れるのを想像した。
「それでお腹が痛かったんだ」
「そうだ。だから、食べ物はで飲み込まないで、できるだけ噛んでくれ。そうしないと、また、別の怪獣が現れるぞ」
「わかったよ。お腹が痛いのはもう嫌だから、気をつけるよ」僕はピンと背筋を伸ばした。トレイを片付ける時、残飯入れに食べ残されたうどんがたくさん溜まっていた。
「あれは?」大王が尋ねる。
「食べ残しだよ」
「あんなに多く残るのか」
「そうだね。一人一本食べ残すと、百人で百本になるからね」
「ふーん。そうか」
「それがどうかしたの」
「いや。少し気になるけれど・・・」大王の額に皺がより、眉が上がり、目が細まった。

 

うんこ大王とおしっこ王子(大王街に行く編)(7)

うんこ大王とおしっこ王子(大王街に行く編)(7)

七 うどん竜との戦い

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-09-18

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