いも虫になった夢をみた。


 夢のなかで、手も足もなく
 身動きひとつできないように思われて。


 怖くて、泣いた。

 大きな声で、叫んでもがいた。

  
 もがくうちに、体をくねらせることで
 前にすすめることに気がついた。

 頭をもたげることで、いかようにも
 まわりを見渡せることにも、気づいた。


 天がもたらした、ただ一滴の雨粒の
 なんと甘く、なんと清らかなことか。

 大地の育てた、ただ一枚の葉の
 なんとみずみずしく、なんと美味なることか。

 
 必死に飲んで、食べた。
 

 そうして、幾度目かの朝日が登ったとき。

 その時が近づいていることに、ふと気づいた。


 あぁ、ようやく。


 万感の思いで、心がうち震え
 私はいそいそと糸を吐きだし
 そのあたたかな内にくるまれた。


 一眠りしよう。

 そうしたら、きっと。


 芋虫の私は、そこで眠りにつき

 人の私は、そこで目を覚ました。


 いつもの天井、いつもの布団。

 いつもの部屋。


 見慣れた風景を、ぼんやりと眺めた。

 

 あと少しで

 大空を自由に羽ばたくことができたのに。


 そっと目を閉じると、溢れた涙が耳を濡らした。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-09-18

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