蝶
いも虫になった夢をみた。
夢のなかで、手も足もなく
身動きひとつできないように思われて。
怖くて、泣いた。
大きな声で、叫んでもがいた。
もがくうちに、体をくねらせることで
前にすすめることに気がついた。
頭をもたげることで、いかようにも
まわりを見渡せることにも、気づいた。
天がもたらした、ただ一滴の雨粒の
なんと甘く、なんと清らかなことか。
大地の育てた、ただ一枚の葉の
なんとみずみずしく、なんと美味なることか。
必死に飲んで、食べた。
そうして、幾度目かの朝日が登ったとき。
その時が近づいていることに、ふと気づいた。
あぁ、ようやく。
万感の思いで、心がうち震え
私はいそいそと糸を吐きだし
そのあたたかな内にくるまれた。
一眠りしよう。
そうしたら、きっと。
芋虫の私は、そこで眠りにつき
人の私は、そこで目を覚ました。
いつもの天井、いつもの布団。
いつもの部屋。
見慣れた風景を、ぼんやりと眺めた。
あと少しで
大空を自由に羽ばたくことができたのに。
そっと目を閉じると、溢れた涙が耳を濡らした。
蝶