最後の晩餐

今日が大阪最後の晩餐である。

さて、この星空文庫で描かれる、今までの日々の集大成、これが最後の大阪日誌である。

その日、私達親子は歩いてスシローに向かっていた。
寿司の苦手な兄も家族全員とあっては断れない。喋りながら歩くうち、小学校の体育館が見えてきて、ばんばんとバスケットボールを跳ねさせる音と児童とも大人ともつかぬ鍛錬の声が聞こえてくる。

あの中にも、色んな生活を抱えた人がいるだろう。

私は母の後ろを歩きながら思った。
母は雄々しく手を振り歩いている。「そんなに振るの?」と聞くと、「そうや、こうやって振ったら腕が細なるねん」と元気に答えた。
このような人が母で良かった。

信号で手を叩くので、「そんな目立つことしないで」と言うと、「何抜かす、お前は自意識過剰の癖に」と父と兄に馬鹿にされ、「誰が自意識過剰やねん」とクロックスで足を掻いて見せた。

後ろの夫婦が無邪気に笑った。

着いてから、お、これはオタクっぽいなと思える女の子の集団がいて、その前に私たちは収まった。

「あの部分きゅんきゅんするー!」とオタクトークさく裂していた。
若さってこえ。はははと笑う気持ちでお茶を飲む。苦い。

母がめっちゃ私の嫌いなガリを載せてきて、若干めーわくだったが「ありがとう」と食べる。意外といける。
むしゃむしゃ。
「あ、それ取って」とサケを主に取ってもらう。
トロサーモン、アボガド乗ったやつ、トロサーモン・・・と食べ、その内私は皿が奥に吸い込まれていくようにレーンを曲がるのに注目し始めた。

後ろの親子は見つめられて若干迷惑そうだったが、私は一度興味が湧くと危険だろうがなんだろうが、やってしまう。
じっとレーンの先を見つめ、皿がどんどん吸い込まれていくのを見つめる。
あ、今目の前にあったマグロの旗が、もうあんなところに。

それを破る大音響。

きゃはははー。
うふふふー。

後ろのオタクがうるさい。
こいつら、絶対彼氏いねえ。私は直感した。
この笑い方は、男が引くタイプだ。
しかしオタクの話は面白く、「あの場面でこう、ぐいっと行くねん!」「そうそう!」と昔の文学少女たちがいたなら「ねえ玲子さん、あの御本お読みになって!?らいてう先生の新作ですのよ」「与謝野晶子の濡れ髪、良かったわあ」と言う感じであろうか。

文学とは、廃れないもんなんだな。そう思った。

その内後ろの親子が帰り、バチバチに決めた女子高生たちが来た。
三人。

私はその子たちのバチバチオーラを読み取り、冷静に視線を逸らせながら、すっと隙を見て観察した。

正面の女の子、ストパーに赤い唇、ヒラメ顔。
うん、ヒラメが来た。スシローに。

なるほど、ここは人間寿司店だ。
あたしンちのゆずひこが言っていた、廊下を歩く奴が魚に見えるあれだ。
私はそう解釈した。

帰る際、母に「オタクトークさく裂してたね」と言ったが、「まーた悪口言って」と怒られた。ぽかり。
て、と笑って、外に出て靴の中から小石を出していたら、地味な親子が来て爺さんが財布をちら見せしてきた。
ああ、また男に喧嘩を売られてしまった。

何故こうも女らしく振る舞えないのだろう、と泣くふりを一つ。

ドアを開けたらハートのイヤリングをした優しそうな女の子が待ってくれたので「すみません」と声を掛けた。
帰り際、アイスを買いに行くかで父と兄が揉め、隣のスーパーへ母と兄が買いに行き、私と父は帰ることにした。
帰る際、歩くのが遅い父を待って、欄干に手を掛け片足上げて、ピエロのポーズ。
決まって見えただろう。若干ナルシストになりながら、「もっと大股で歩かなきゃ」と言った。
「早く歩いてるつもりなんだけどな」と言う父に、「もっと慣れなきゃだめだよー」と声をかけ、信号無視。

「信号赤やけどー!」
「別にえんちゃうー!」

そんなんだから、中国人に間違われるんだ、と言う父に「先帰るなー」と言うと、いけいけ、とシッシとされた。
私は一人でずんずん行く。
どこまでも、ずんずん行くのだ。

おばちゃん達が立ち話してたので、「こんばんはー」と言うと若干びっくりしていた。
元気が良すぎたろうか。
まあいいか。

家に帰って、えみちゃんねるを家族で見る。
笑い飯の片っぽがツーブロックになっているのを見て、「一番簡単なかっこいい頭だな」と話した。
髪の毛刈り上げ入れて良い?と聞くと、なんで聞くんだというので、父母が止めるからしないんだと言ったら、「あんたの好きなようにしなはれや!」と言われた。

はーい、と私。

帰るときに、しようかとも思ったが、あまりにイキリにも思え、辞めといた。
金が勿体ないし。

どこまでも節約家な私。
イキるためなんかに、金なんかかけられるか、と思った。
マイペースで進めばいい。

最後の晩餐

最後の晩餐

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-09-16

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