電気のない部屋
僕には物事において完璧な理想がいくつかある。
例えば、死ぬとき。その日はきっと雲ひとつない晴れた平日で、僕は君と朝寝坊をする。こんな時間だからもう大学へ行っても仕方がないね、そう言って僕と君は穏やかな午後を布団に寝転がりながらだらだらと過ごす。午後5時、窓からの光が弱くなり、僕たちの気持ちも何故だか暗くなるんだ。そうしてふと言ってしまう。
「なんだか生きるのが嫌になったな」
すると君はその大きな目で、まるでぱちくりと音を鳴らすように瞬きをしながら、不思議そうに言うんだ。
「じゃあ死ねばいいよ」
僕はそれに同意して、君に殺してくれと頼む。自分で死ぬのは怖いからね。君はこんな弱い僕の言うことを素直に聞いて、僕の首を、両手を使って力いっぱいに締め殺してくれる。
「意気地無し」
そう言って僕を殺してくれるんだ。優しくて馬鹿な君は寂しくなって、僕が死んだあとに僕の死体を使ってセックスをする。とんだ変態だよ。そうして涙を流しながら、胸に包丁でも刺して僕の上で君も死ぬんだ。
僕にとっての完璧な死の理想はそういうもの。
ちょっと待ってよ、それってあたし、すごい馬鹿じゃない?
だってそうじゃないか
あたしはそうくんの首を締めて殺すところまではたぶんやると思うけど、寂しくなってそうくんの死体とセックスなんてしないもん。そんなの気持ち悪い。
そうかな、君って結構馬鹿で寂しがり屋じゃない?
馬鹿はどっちよ、夢見ないで。あたしはそうくんが死んだって追っかけて死んだりしないし死体とセックスもしない。そうくんはあたしにはそうくんしか居ないって思ってるでしょ。それすごい馬鹿だよ。
…そうなの?
そうだよ
ゆめこちゃんは僕以外にも男が居るの?
なんでそうなるの?そういうことじゃないよ、あたしにとっての男の子はそうくんだけだよ!でも、友達とか家族とか、大切なものはいっぱいあるから。だからそうくんが死んでもあたしは死なないの。
…僕、すごい馬鹿だな。君には僕しか居ないと思ってた。そうだったらいいなって思ってた。
…もしかして、そうくんにはあたししか居ないの?
…うん。ゆめこちゃんしか居ないよ。
かわいそう。
……残念だなあ、僕は、馬鹿なきみが好きだったのに。
電気のない部屋