静寂への始まりに
静寂が始まることに恐れをなしているのか。身体は震え、目は宙を舞っている。口は閉じその口からは何も語られることはない。一人の男は告げる。「恐れはいらない最初から静寂なのだ」永遠と思われた人生に終止符を自ら打つようなそんな感覚を感じながら震え続ける。愚かであるとしか言いようのない姿に誰もが笑うのだ。「これは人間か?人形ではないのか?」「これは電池が切れかけている人形だわ!人形よ!」貴族らはそういうのだ。彼らは心から笑っていた。それは紛れもなく愚かだったからだ。震えは止まることはなく目は宙に舞っている。口は閉じその口からは何も語られることはない。逃げられない恐怖を感じ身体は火を噴きながら震え続ける。そっと誰かが告げる「もうすぐよ。もうすぐ」これは合図なのか、準備はできているかと尋ねているのか。身体の震えは大きくなり、目は宙を泳ぎ、口は大きく開き笑っていた。その口から放たれる奇妙な音は誰もを幸福へとは導かなかった。吐き気を催し、のたうち回るのは彼ら人間だった。心は蝕まれ救いようのない苦痛をすべてのものが味わった。その原因を消してしまおうと動いた人々は壊れかけた人形のようなその得体も知れぬものを炎で燃やしたのだ。燃やされた身体は形を変え、目や口はどこにも見当たらない。一人の男は告げる。「これが静寂だ」と、しかしあの音を忘れられる者はこの世界にはだれ一人いないだろう。
部屋の片隅、足を抱え震える者がいた。明るいその部屋からは青い草原、そして青い空が見えていた。ドアをノックする音が聞こえる。白いカーテンを風が揺らす。鳥のさえずりも聞こえる。入ってきた男は静かに言った「夢を見ていたようだね」震える者は答える「静寂の恐怖が支配した恐ろしい世界だった」それを聞いた男は「悪夢を見たのだね」と言ったがそれには答えなかった。「昼食をとろう。」そう言って男は出て行く。震えていた者はその自由の利かない身体をゆっくりと動かし男に続いて出て行った。その身体の震えはとうに治まっていた。
誰もいない部屋に残されたのは静寂ではなく長い時間の始まりであった。
静寂への始まりに