やさしい恋 ☆ 1
あなたとテスト
これは中学一年の思いで
一組、私の担任は英語の先生、沢山の先生達の中恐ろしさは群を抜きナンバー1の人だった。
年配で女性の先生だけど、迫力とパワーと信念が強烈で、誰もが圧倒されるほどのスゴい方だった。
先生が教室に入ってくる時、廊下ですれ違う時も全校生徒にピリリと緊張が走る。
校内の美化、合唱、すべてのコンクール、運動会のクラス対抗リレー、球技大会などとにかく全部一位でなければ駄目だった。
二位は論外で無かったし、あり得なかった。
" 気合いで一つになって取り組め! "とよく言われ戦時中さながらの空気感が漂っていた。
本当に気合いを入れれば不思議とトップになれる、だからクラスは先生のお陰で一致団結していた。
それを証拠に、一年一組の教室のぐるり一周には、貼っても貼りきれないほどの表彰状が飾られていた。
あんな風によくも悪くも、心に残る先生は後にも先にもいないし、今では鬼教師など絶滅危惧種だろう。
★
初めての英語のテスト、まさかの『 40点 』
勉強を全くしてなかったら、こんなもんかと折りたたみノートに挟もうとした時
「 何それ、ダッセー、恥ずかしー 。 」
静かで透明な声が耳に届き、振り返るとあなただった。
蔵木 祐
虹彩に深みがあり黒く魅力ある瞳、どこかツンとした顔が私を小馬鹿にしている。
薄く笑った口元が少年のようで、悪戯な声が私には心地よく奏でる。
蔵木くんってこんな風に話すんだ … 。
今までのあなたは大人しく、無口な印象しかなかった。
「 もう、 後ろから見るのズルいやん 。 」
私が言うと
「 オレ、95点 。 」
余裕だという表情で答案用紙を見せ、俺は出来て当たり前だと軽やかに笑っている。
その笑顔は嫌みのない純粋さを帯び、流石だと思った自分と悔しいと思った自分が、代わる代わるにジキルとハイド化している。
「 今度のテストは70点以上 絶対採るから。」
私が負け惜しみを言う。
「 急に70点も採れるか~?じゃあ、今度のテストで河本80点以上な 。 」
そう言うあなたの透かした雰囲気が気に食わない。
私は相当ムキになって、むやみに強きなお面をすっぽりと被っては、負けない気持ちが生まれていたんだ。
★
次の週、約束した英語のテスト結果。
あの恐ろしい『鬼の宿題10ページ』がお決まりの英語の先生が、テストを返す前明るい口調で言った。
「 確か前のテストより、だいぶ点数が良くなったのがおったぞ 。名前呼んだら前へ取りに来なさい。」
隼る気持ちが心拍数を上げる。ドキドキする音が血液に流れ込み、血管を通して身体中に駆け巡る。
「 次、河本 凪。 」
「河本よう頑張った!50点以上あがっとる、やれば出来るんやから、やらなあかんぞ 。 」
答案用紙を受け取ると、自然と背筋がピンと伸び味わったことのない爽快感に包まれた。
席に戻る途中、蔵木君と何度か目が交差して合う、私はテスト用紙を見せて片手でピースした。
『 92点 』
取り戻した小さな自信、少し驚いたあの人は予想外れだったのか
「 思ったよりやるやん、でも俺には負けてるけどな。 」
幼げな負け惜しみの言葉を投げつけてくる。
そして今度はあなたが『 98点 』のテスト用紙を、勝ち誇った顔でちらつかせていた。
清々しさがくすぐったくなり溶けていく
私の心は軽くなる。
感じたことのないやさしいキモチが騒いでいる。
この頃は少しずつ繋がる想いが光りはじめ
きらきらと眩しかったんだ。
パズルのピースがぴったりと合ったような感覚
あなたが無意識に教えてくれたもの。
そしてこの先も
まだまだあなたは私の多くの感情を
宝探しのように見つけ出していくだろう。
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やさしい恋 ☆ 1