DENNOU/始動編 #2
チェサーリー公爵邸に黒い連合政府公用車1台が止まる。夜が明ける頃だ。
「ネイリ―・チェサーリー公、夜中に失礼。まずは開けてくれないでしょうか」
大声で連合政府関係者がドアをたたく。
「ネイリ―様、来客のお見えです」
「ふぅん。なんだ、この時間に」
使用人に起こされ、チェサーリーは2階の寝室から外を覗く。
連合政府関係者を確認した。
「如何様で?」
「チェサーリー公爵、考えてもいないことが起きてしまい・・・・・・とにかく今すぐに車に乗り込みください」
「訳を聞こうじゃないか、ウチに入りたまえ」
焦る政府関係者はさらに大声を張る。
「そ、そんな時間はないのです!早く、とにかく」
そこまで焦燥感に追いやられているのはおかしい、とチェサーリー公爵は急いで寝間着からスーツに着替え、ハット、ステッキを持ち邸宅を後にした。
車に乗り込み、助手席に座った。はやくも異変を察した。
「おい、君、これは自動運転ではないのか?」
コンピューターによる自動運転が一般化された社会で、運転するのは珍しかった。
「えぇ、コンピューターが"反乱"を起こしまして・・・・・・自動運転では危険が」
ハンドルを握る関係者の男はひどく汗をかいていた。
「反乱?どういうことだ。まさか例の・・・・・・」
「そ、そうです、アメリカ合衆国全土でロボットが叛乱。各地の皇族、王族や貴人は地球を脱したようです」
話が全く読めないチェサーリー公爵はこれ以上、返事をするのはやめた。今、何が起きているかどうなっているかわからなかった。イギリスきっての名家のチェサーリー公爵家。爵位は地名がつくのが一般であるが、この一家は戦で家を興し、英国を数々の危機から救った。チェサーリーは時の王に名を授かり、また爵位を同時に与えられた。そう、現当主のネイリ―は聞いていた。
百代も前だろうか、古の覇王、"ナポレオン"と呼ばれた人物がいたようだが、彼から英国を救ったという話。また、かつての主人が"ヒットラー"と呼ばれる一大怪物の手から救ったとも。とにかくチェサーリー家には歴史、名誉があり、立派な家であると自負していたチェサーリー公は車を止めさせた。
「この道だと行く先は空港だな。空港についたならば君は逃げなさい。その反乱とやらから本土を守り抜く。そもそもの世界連合政府というものは好かん。」
「何をおっしゃる、公爵。もうすでに英国本土は・・・・・・」
ならば、とステッキから刀を引き抜く。仕込み刀。
「斬るぞ。いいのか?」
男には否定するという考えはなかった。汗が増す。男は言葉が出ず、体をガタガタに震わせ、空港についたと同時に車から急いでおりた。
地球脱出ロケットの搭乗に向かったようだった。
ネイリーは運転席に身を移す。ハンドルを握る。幾日ぶりかのハンドルの感触に笑みがこぼれる。
ロールスロイスのハンドルを初めて握ったときのような、どこか懐かしさを感じた。
「さぁ、行くぞ」
気合いを入れて、アクセルを踏む。行く先はロンドンにある陸軍省庁舎。
走り出した瞬間、鮮烈な光が視界を襲う。
瞬時に車を止めた。
"ズガガガーン" "ズギャーン"
上空で爆発音、攻撃音がした。
コンピューター操縦の空軍機3機が人間の操縦する空軍機10機からなる航空隊を襲っている。
人間の空軍機は高貴の身分や重要人物を乗せたロケットの発射までの時間稼ぎとしてコンピューター空軍機の足止めに買って出たようだ。コンピューターにかなうはずもなく、あえなく一機、また一機と追撃された。
「なんてことだ・・・・・・」
車内で茫然とするほかなかった。
"ボワーーン"
爆音を発したロケットは発射に成功したようだ。
しかし、残機4機の空軍機はコンピューター空軍機の発射したミサイルには応対できず、空を舞うロケットにミサイルが接近していた。
ロケット付近を飛んでいた護衛の空軍機が身代わりかのようにミサイルに自ら突っ込み、爆発。
なんとか阻止した。
とにかく離れようと決心したネイリーは急いで車を発進させた。
走行中、上空に轟音を発する戦闘機が何機も何機も"戦場"に向かっていくのを確認した。
隣の車道に軍用車が何台も走り去っていった。夜が明けようとしていた。
ネイリーはこの状況を目にし、確信した。これは"戦争"だと・・・・・・。
DENNOU/始動編 #2