koe

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近所の、よく行くコンビニ




そこで、よく会う男の人がいる



お店の出入り口で会ったとき


店内ですれ違うとき



優しい微笑で、軽く会釈をしてくれる



‘‘ 感じのいい人 ’’



その程度の印象だった




けれど、


今日は寒いから、と思って



レジ横のホットコーヒーを買い



家まで待ちきれず 店の駐車場で開けた




すると、店のドアが開き



彼だ、と気が付くと同時に



その手元の缶コーヒーが目に入った



私が口を開くよりも先に、



「 こんばんは、」



と彼が言った



こんばんは、と返すと


「 そのコーヒー

美味しいですよね 」




「 あなたが手に取ったのを見て

僕も飲みたくなって、」



ゆっくりと


穏やかな声で そう言って



それを持った手を


すこし上げてみせた



私は、ふふ、と笑って


「 そうですね、 」


と微笑んだ



❄️



その日はそれきりだったけれど


その次に顔を合わせてから


駐車場のすみで立ち話をするようになった


当たり障りのない程度の お互いのこと



好きなロックバンドのこと



駅前の 美味しいコーヒー屋さんのこと





「 あ… 雪 」



ある寒い日の夜



好きな季節の話をしていたとき


彼が呟いた




初雪だった


優しく 静かに降っていた




ふいに、彼は


ズボンのポケットから 携帯を取り出し


何かを表示させて 私に見せた


「 あっ… 」


LINEの QRコードだ、


「 もし 嫌じゃなかったら、」


私は、とても 嬉しくて



しばらく ぽかんとしてしまった



それから



この小さな一歩を



待ち望んでいたことを自覚した



歩き始めて間もない仔犬が



降り積もった雪につける 足跡のように


小さくて 大きな一歩だった




それからは



会った日も 会わなかった日も



LINEで通話をする日が続いた



駐車場の隅で話すときの声



電話越しの声




違うようで


一緒で




どちらも


私の鼓動を速くさせた



玄関の前に雪が積もって


外に出られないような日もあった




それでも



「 ここ 」から聞こえる声があった



会っているときは「 そこ 」にいる君



電話越しだと



存在は遠くなるけれど


声は近くなるのかも、しれないね



⛄️



やがて



西暦の 一の位の数が変わり


毎朝、道路は


つるつるのスケートリンクのようになった


〈 足元に気を付けてね 〉


それが、彼からの

その年 初めてのメッセージだった






チョコレートの季節が


やってきたとき



『 次の土曜日の午後 駅前に来られる? 』


と、聞かれた


『 うん 、行く 』




そう答えて


私は


カレンダーの「 14 」の隣に


小さな雪だるまのシールを貼った



☕️



待ち合わせ時間の すこし前に着いて


携帯を片手に待っていると



電話がきた


『 もう着いた? 』


と、彼


『 うん、お店の前にいるよ 』



『 わかった… あ、見つけた 』



えっ、



『 どこどこ 』



『 ここ! 』




それじゃ わかんないよ、


と思って辺りを見回すと


すこし離れたところに




彼が立っていた



携帯を右耳に当てて


優しく微笑んでいる



『 あのさ、』


もう目の前にいるのに


どうして電話を切らないのかな、


と思っていると


右手を下ろして




「 すきだよ

ハッピーバレンタイン 」




いつかの夜



コーヒーを片手に話した日より



ずっとまっすぐ、耳に届く声だった




「 わたしも…!」




○**.。




ふわっと



甘い香りがした





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koe

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  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-09-12

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