堕ちる

堕ちる

考えてしまうと
骨も筋肉もすっかり抜かれたようで
眠りたくなる
夢の中で
昨日を思い出す

トイレットロール
衣類用漂白剤
冬瓜
ワラサ
お醤油
今夜はご近所さんに手料理を振舞う

思い出してしまうと
世界から色が抜けていくようで
馳け出したくなる
商店街で
君の香りを嗅ぎたくなる

どんぐりむらのだいくさん
持たないという幸せ
世界に通用する一流の育て方
一九八四年
なぜ世界から戦争が無くならないのか
成功のコンセプト
脳科学マーケティング100の心理技術
ゲノム進化論
目に留まるだけで欲しいと思わない

欲しいのは

帰りに美容室に立ち寄って
愛らしいインナーを買った
そんなのじゃなくて
もっと深いところから
ほんとうは
もっと薄暗いものから
ほんとうは
もっと裏側のほうから

あの煌めく街路樹が恨めしい
あの雄大な空が恨めしい
あの作りかけの家の真新しい木の匂いが
あの天辺で傾いた月の爽やかな色が

欲しいのは

堕ちる

堕ちる

  • 自由詩
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-09-11

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