思索の友

思索の友、もとい、道連れ。

私には、友がいる。

思索の友、私はそう呼んでいる。
我が家の犬のことだ。

名はとろおということにしておこう。

私の生活はとろおを中心に回っている。
とろおが飢えないように、疲れないように、楽しいように。今日も朝からパソコンに向かう私の頭は既にヒートアップ、だめだーと投げだし、床に寝そべった。
とろおがこちらを向いて寝ている。
私はべそべそと匍匐前進し、とろおにくっついた。
もぐもぐもぐ、と言いながらとろおの頭を噛む。優しくやわーく、歯は使わずに。とろおはくちゅんとくしゃみを一回して、伸びをしてから、そろそろと私から離れて、尻尾を振りながら母の懐へともぐりこんだ。

なによー。

そう言って私は悔しがった。
やーいととろおがこちらを見た。

さて、新作のプロットが出来上がった。
後はそれに向かって書いていけばいいだけなのだが、最近はまっていたSNSで目と頭を酷使してしまい、疲れる。
長くは向かわず、ちょっとずつ大事に場面を書いていくことにする。とろおも怒ってたし。

とろおは私がスマホで音楽を効いたりぽちぽちボタンを押しているとよく怒って後ろ足を蹴った。誰かの相手をしているのは分かるらしい。
音楽も優しいピアノ曲なんかじゃないと落ち着かない。私もそうだから助かる。色んなところでとろおには助けられている。

私は寝ようとしたが、上手く眠れず、帰ってぎんぎんになる目を押さえてとろおを担ぎ、散歩に出た。
メダカとクワズイモが元気だ。
新しく葉っぱが伸びてきたクワズイモを見て、「まだ頑張る気か」と頼もしい気分になる。
諦めようと水をあげなくなったとき、はらはらと葉が沢山枯れ落ちる夢を見て、いわゆるSOSだったんだなとよくわかる。

玄関を出たら、涼しい。秋の気配。

日の差すところだけとろおを担ぎ、道を歩くと「あーーー」と言っている自転車の親子や、信号待ちでぼーっとしている私を見て笑うでもなくただ認識している家族を観るともなしに見て、影ばかり歩く。

住宅街の中に入ると、お寺さんや神社があるせいかなんだか清い街並みに見えた。家がみんな古い。
リードをパーの手で持ってゆるゆる歩いている私を見て、出てきた夫婦が笑いながら会話していた。ぽーっとしている自覚はある。そのままゆるゆると影伝いにいつも歩く道を、今日は逆に歩いていたら全く道がわからなくなり、とろおも困惑していた。

ここどこ?

小路を出てとろおが不安そうに止まった。私はこっちだよ、と引っ張り、とろおが日差しばかり歩くので、かわいそうで影の方へ引っ張った。
いやこれもかわいそうかな?そんな風に思った。

公園前を抜け、橋沿いを歩くとにゃーと子猫の鳴き声がし、見まわしたがサラリーマンが歩いているだけで姿は無い。最近開店したカフェのボードを見て、「いつかはあんなところにも行きたいな」と思った。誰と?母か兄か父しかいない。とろおを連れて犬喫茶とは、敷居が高い。
私は心の中でばってんを作りふるふると首を振りながら、その場を通り抜けた。また影。

おばあちゃんと子供たちが、チワワを連れて散歩中。注目した後信号で、窓辺に銅像を飾っている家を首を伸ばして見ていたらママチャリーズが面白そうに走り抜けた。

上手く影を移動して、やっと家の前。
ふー、創作意欲湧いたー。

私はとろおが水を飲むのを待ち、二階の自室へ上がるととろおを離した。
秘密基地みたいな感覚が、良いらしい。
こじんまりとした部屋の、今は空のボックスにとろおが入りたがり、入れてあげたらすっぽり収まった。
そのまま見守られて執筆する。

とろおよ、今は作業中だ、暫し待て。

そう心の中で言い、私はとろおに目をやりながらこれを書いた。
とろおは途中で飽きて寝た。

思索の友

今日の出来事。

思索の友

思索の友、とろお。 彼は私のせいで今日もかわいそう笑。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-09-11

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