海と水鉄砲


白い雲に白い砂。都会の海だからそれほど青くないけど、久しぶりの海だ。
寄せては返す波を眺めながら、私は考えていた。

なんでこんなやつを連れてきてしまったのだろう?

いくら一緒に行く予定だった友達が夏風邪で来れなくなったからって。

海に来たのだから、まずは浜辺にパラソルを立てて場所を確保しようということになったのだが。
「お任せください!」
と意気込む彼に任せて、水着に着替えに行って戻ってきてみると、まだパラソルは閉じたままだった。真っ赤な顔で汗をだらだら流しながら、「あと少し!あと少しですから!」と言い張る彼を残して、海の家でイチゴのかき氷を食べてもどってきてみるとようやくパラソルが設置されていた。どうも隣の人に手伝ってもらったっぽい。

「お、お待たせしました、先輩」
眼鏡をはずして汗をふきふき、彼はそう言った。
「……敷くものは?」
自分が全部準備しますから!と言ったはずだ、確か。
「はい! こちらに!」
彼がかばんから取り出したのは……
「それって」
「はい!」
「ブランケット、に見えるんだけど」
「はい! でもけっこう大きいんで、座れます!」
「……」
「……」
「……」
「……暑いですかね?」
「そうね。それにちょっと小さいと思う」
「えっとじゃあ、この手ぬぐいは?」
「だから……」
「すみません!すみません!すみません!」

腰を直角にまげて何度も謝る彼。
やれやれ。

「いい、借りてくる」
「あ、でも!」

 歩き出した私を彼が呼び止めた。振り返ると、見慣れないものを持って満面の笑みをうかべていた。

「なにそれ?」
「やっぱり海といったら水鉄砲でしょう!」

聞いたことないんだけど。
つっこむ気力もなくした私の前で、いつのまに用意したのか、バケツに張った水に水鉄砲を浸しはじめる彼。
あきらめて私は羽織っていた上着を脱ぎ捨てた。

「もういい、泳いでくる」
「あー!」

 今度は何!? うんざりして振り返ると、彼、ユータは私を見つめたまま直立不動で固まっている。しかも、鼻からは赤いものが垂れている。

「ちょちょ、ちょっと鼻血!」
「ああ、すみません、すみません、すみません!」

 ユータは、また何度もおじぎをしながら、さっきの手ぬぐいで鼻血をぬぐった。

「ね、熱中症です! 熱中症ですから! お気遣いなく!」
「ああもう」

 私は砂の上に落ちていた水鉄砲を取り上げると、ユータに向かって発砲した。

「あ、冷た! ちょ、ちょっと何してるんですか先輩」
 
 本当にどうしてこんなやつを連れてきてしまったのだろう。 
 そして、私はどうしてこんなやつが好きなのだろう。

海と水鉄砲

海と水鉄砲

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-09-11

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