Rain
初投稿作品となります。誤字脱字など多いかと思いますが大目に見てください・・・
雨が降り出す side M
人のいない公園。時刻は午後10時過ぎ。こんな時間に公園にいる人なんてジョギングをする中年の人か、犬の散歩をする若者か、非行に走りだす中学生くらいなものだろう。生憎、今日は誰も居ないようだったが。
それもそのはず、夕方から雨が降り出して今はひどい土砂降りだ。さすがに雨の中わざわざ公園に来る人間はいない。
そう、私以外は。
誰もいないことを確認して入った。公園の滑り台の下に膝を抱えてしゃがみこんだ。道中傘もなしに歩いたおかげで水分を吸収してすっかり重くなった制服や、肩まで伸ばした髪の毛からぽたぽたと水滴が落ちる。寒さに震えながら雨が止むのを待つしかなかった。
あと一時間ほどで補導対象になってしまうなぁ。そんなことをぼんやり考えながら寒さと疲労で瞼が重くなっていく。
『風邪ひくよ?』
その声にハッとして飛んでいた意識が戻った。顔を上げると黒い傘をさした男の人が立っていた。
しまった。人が近づいてくるのも気が付かないくらい寝てしまったのか。白シャツに灰色のカーディガンを羽織ったその人は私と目線を合わせるようにしゃがみこむと、ニコッと口角をあげて私の頬に手を添える。
『うわ、こんなに冷えてる。大丈夫? 傘が無くて雨宿りしてたのかな?』
綺麗なオリオンブルーの瞳。緩くパーマのかかったチャコルグレーの髪。鼻筋がスッとしていて小顔だ。いわゆるこういう人をイケメンというんだろうな。
『家、帰れない。』
そう小さく言うと男の人は私の手をとって立ち上がった。
『じゃあ、僕の家に来ればいい。』
そうニコッと笑った。
雨宿り side M
公園から連れ出された私は彼にひっぱられるがままに歩かされ、とある一軒家に入った。
私は戸惑いながらも言われるがままにお風呂に入らされ渡された白のネグリジェに着替えさせられ今は髪の毛を乾かしてもらっている。
これっていわゆる、誘拐? 拉致監禁?
考えても仕方ないか。体が温まって髪の毛をすいてもらってるせいか睡魔に襲われる。
『眠そうだね。いいよ、ゆっくりお休み。』
遠くからその声だけが聞こえた。体がふわっと浮いて、階段をのぼる音がする。今、彼に抱えられているのか。
私はこの感覚を知っている。すごく懐かしい感じがする。
うっすらと目を開けると彼は宝物を見つけたようにすごく嬉しそうだった。
目が覚めると薄暗い部屋のベッドに寝かされていた。一面真っ白でカーテンから微かに漏れる光。
ここが、私の部屋でないことは確かだ。昨夜の記憶をたどってあの男の人のことを思い出した。
辺りを見回すもそれらしき人はいない。とりあえずベッドから降りると部屋から出て階段を下りた。リビングらしき部屋からコーヒーの香りがする。ドアを開けると白いソファーに座って読書をする彼の姿があった。昨夜とは違って白のワイシャツ姿に黒縁のメガネをかけていた。
彼は私に気が付くと本を机に置き、『おはよう。』と、歩み寄ってきた。
『ぐっすり眠れたかい?』
『・・・えぇ。ありがとう。』
『どういたしまして。そうだ、制服は乾かしておいたよ。帰るだろう? 途中まで送るよ。』
そう彼は机に畳まれて置いてあった制服を私に差し出した。
『どうして、私を泊めてくれたの?』
『どうしてって?』
『あなたにとって何の利益にもならないわ。普通知らない人を泊めるだなんてありえないもの。』
『君は、ずぶ濡れの捨て猫を放っておけるかい?』
『は?』
彼はメガネを外して机に置くとソファーにかけてあった黒のロングカーディガンを羽織った。
『かわいい生き物が困っているのを見過ごせないんだよ。ただそれだけさ。やましい気持ちなんてない。』
そう言うと『外で待ってるから早く着替えておいで。』と、リビングから出て行ってしまった。
雨上がり side M
少し甘めの香りのする柔軟剤で包まれた制服に着替えて手櫛で髪を軽く整えると建物から外に出た。
外で白い野良猫と戯れて嬉しそうな彼の横顔に胸が締め付けられた。けれどもその違和感の正体がなんなのかわからず考えることをやめた。
彼は私に気が付くと野良猫を道にそっとおろしてやった。野良猫はこちらを振り返りもせずに走り去っていった。
『行こうか。』
彼はそう言うとスキニーのポケットに手を突っ込んで歩き出す。その後ろを黙ってついていく。昨夜歩いていたときは暗くてあまりわからなかったがこの辺の景色には見覚えがあった。私の家からそう離れていないところのようだ。見覚えのある神社や商店街・・・海沿いのせいか潮の香りが鼻につく。
しばらく歩くと見覚えのある長屋に着いた。私の家だ。
『どうして私の家を知っているの?』
思わず顔をしかめる。
彼はようやくこちらへ振り返ると距離を詰めてくる。
『どうしてだと思う?』
『私が聞いてるの。』
『本当に何も覚えてないんだね。』
『なにを言ってるの・・・?』
彼は踵を返すと歩き出した。
『待って! どういうこと? あなたは誰なの?』
『君は思い出すべきだ。ねぇ?マイ。』
そう言って彼は私が瞬きをした瞬間に消えてしまった。
いつかの夢 side R
<あの子は今夢の中にいるの>
<お願い・・・君ならあの子を助けられる>
<もう私にはなにもできないから>
<ごめんなさい・・・こんなことあなたにお願いするなんて>
安心して。僕が必ず助けるから。
マイ、待っていて。
Rain