私の求めている家
常に満足な家に住むことは難しい。私は手作りの「家」を3回作ったことがある。と言ってもペット小屋だ。
1回目は長男に頼まれた時だった。小さい頃、祭りでヒヨコを数羽買ってやったことがある。殆どはオスだが、中にはメンドリになって卵を産むものが混じっている。よし、卵を産ませてみようか。黄色いうちはダンボール箱で育て、白い羽毛が出てきたころ、古い木箱を利用して簡単な小屋を造った。そして、外に置くことにした。ところが、翌日小屋は空っぽだった。猫だ!「お父さんが悪い、あんなお家作って」と息子は押入れの中にはいってずっと泣いていた。しっかりした小屋を造ればよかった。
2回目は次男に頼まれた時だった。小さい頃ミニウサギを買ってやったことがある。私が作った比較的大きい金網小屋の「家」で息子はウサギを抱いて可愛がっていた。ある日、妻が「庭でシー、シーと変な音がしてるわ」、と教えてくれた時には遅かった。クローバーが食べたくて金網の隙間から庭に出ていたのだ。見ると大きな野良猫がウサギに覆いかぶさっていた。私はウサギを取り戻して小屋にいれた。翌日見たら小屋の地面に穴を掘っていた。今まで無かった事だ。ニンジンをやったら出てきたので安心していた。ところが三日後からでてこなくなった。心配になって穴を5,6メートル辿ってみたが、隣の土地まで掘り返すわけにいかず諦めた。以来消息を絶ってしまった。穴の奥深くで眠りに就いたのかもしれない。息子にもウサギにも可哀想なことをした。
3回目はフォックステリアの仔犬が来た時だ。この「家」は家族から頼まれなかったし、冬に作ったからすぐに失敗した。完全冷房の小屋は評判が悪かった。妻と息子達は3対1を盾にして私に対抗し、仔犬を家の中で飼うことにしてしまった。
私の家は老朽化でリフォームをしたり、老後に備えて早めにバリアフリーにもして、これで安心だと思っていた。しかし、息子達が独立して出て行った家は二人暮らしには広すぎて、齢とともに掃除も大変、階段も大変、戸締りも大変になった。それに風通しよくするために作ったから、ガラス窓が多くて拭くのも大変になってきた。妻は買い物が便利で図書館に近い、コンパクトなマンションがいいと主張したが、私はそれでは味気ない、40年以上の思い出が詰まった現在の家に住もうと説得した。ところが、運命のいたずらか、この家も住みにくくなりそうだ。私は今ALSを患っている。筋力が低下して腕も足も上がらなくなってきた。食器、歯ブラシが重い。いずれ呼吸も苦しくなる。
いま「私が求めている家」はバリアフリーだけでは不十分で、ハイテク住宅にする必要がある。ヒヨコ、ウサギの運命にならないためには、自分で作らず専門家に頼んだほうがよさそうだ。早速ハウスメーカーに「高酸素低重力住宅」を注文したら、場所は宇宙ステーションの隣にしますか、それとも月面にしますかと聞かれた。そうじゃない、いま居る所にどうしても造りたい、と目下交渉中である。
2016/06/16
私の求めている家