犬 ~散歩の向こう側にあるもの~

散歩コースにワンちゃんがいれば、全部まとめて散歩に連れて行ってあげたい、そんな気持ちになったりもする。

普通か、そうでないかはあなた次第。

 誰しも犬の散歩コースというのはほぼ決まっているものだ。
 あそこの家にはキャンキャン吠える子犬がいる。気兼ねするので前を通らない。猫が集団で戦いを挑んで来る。車の交通量が多いから通らない。通行人に対して無差別に因縁をつける困った爺さんがいるから近づかない。前職のキチガイ上司の家があるから、など、様々な理由によりこの私も決まったルートを通る。

 この一軒家に住まわれている奥様は美人だよなぁ、一度お声をお掛けしようかしらん・・・、アッ、今そのアパートから出て来た女性は今から出勤なんだ。制服だ。パートさんかな。私の連れているお犬様を見て微笑んでいる。意外とお若いかも。もしかしたらお近づきになったりして・・・、とか、普通の、いたって当たり前な事を考えながら散歩をする。こんな事があった。

 「あれ、可愛いワンちゃんだこと・・・」
と、女性の声が。
どうだ!真面目に犬の散歩をしているとこのようにとてつもないチャンスが訪れることだってあるのだ。向こうからお声を掛けていただけるなんて実際そうある話しではない。
 「何歳なの?」
との質問。待ってましたと私は振り向きざまに、
 「あっ、はい、2歳になったばかりです」
と、腰の曲がったおばあちゃまに答えた。
 「ウチの主人が大好きでねぇ、うん、このあいだ亡くなったばかりでねぇ・・・」
 (ウンコの間に居なくなった?・・・逃げたんかい、犬・・・)
 おばあちゃま、杖のお蔭でようやく立っていらっしゃるのが見てとれた。
 
 長時間の会話は命取り―————

 しんみりとした話しに乗じてる場合ではない。この炎天下、お年寄りには相当きつい。犬の散歩中にどこぞのおばあちゃまの最期を看取ったなんて事にならぬとも限らぬ。そんな事になろうものならおばあちゃまのご親族からどんな嫌疑を掛けられるか分かったものじゃあない。ここは早々に、
 「おばあちゃん、気を付けて帰ってね」
と満面の笑みを浮かべその場を後にした。
ここで注意すべきは
 ”振り返らない”
という事。おばあちゃまがひっくり返ってないとも言い切れないからだ。
”それはあんまりだろう・・・”
という御仁もいるであろう。であれば振り返るが宜しい。そこに数秒前の姿がなかったとしたらそれは最上級の恐怖。言うならば、
 ”炎天下の恐怖”とでも名打とう。
間違いなくそこの前は”、通らないリスト”のひとつに挙げられる事になる。

 さて散歩中。相も変わらず私の頭の中は爽やかですがすがしい妄想の塊り。突飛な出会いを期待しながら歩く道のりはとても楽しい。

 ある日のドッグ散歩事、向こう側に女性が見えた。その女性が私の目の前まで来た時の話しである。
その女性は立ち止まり、私の連れているお犬様に視線を落とした。
するとその女性対して私の馬鹿犬・・・いや、もとい、目に入れても痛くない程私が可愛いがっている茶色のトイプードルが突如後ろ足2本で立ち、あろうことかその女性の膝元にその毛むくじゃらの前足をチョコンと乗せてしまったのだ。
「ヤバ・・・」
その刹那私は女性の横に瞬間移動。空いていた右手でその女性の腰を触ってしまった。
 ・・・説明が必要であろう。けっして妄想とシンクロした訳ではない。この行動には理由があったのだ。それはこうだ。
 その女性、明らかなる、
 ”高齢者”
であったのだ。つまり、後ろにふらついたから支えた、それだけの事である。ほんの僅かな衝撃でも危険なのだ。大事に至らなくて良かった。
 それにしても私は、高齢の女性に縁がある。
 いや、偶然に過ぎない・・・私はそう思う事にした。

犬 ~散歩の向こう側にあるもの~

夜景で有名なこの町での犬の散歩。ありきたりな犬の散歩中の思考を自分なりにストレートに表現したところ、まわりからは、”アホか・・・”とのお褒めの言葉がガンガン。

犬 ~散歩の向こう側にあるもの~

犬の散歩中に起こる出来事が意外や意外、危険と隣り合わせだったり、女性に声を掛けられたりという、男性の私には興奮冷めやらぬひとときなんですね、これが。

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 冒険
  • ホラー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-09-01

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted