人のよすぎる吸血鬼②

痴漢ダメ絶対

魔都東京。人の欲望渦巻くこの街で俺は下等生物に混じって生きている。
吸血鬼だからといって人間と大差はない。
ニンニクも食べられるし太陽だって普通に浴びれるし十字架も効かない。
しかし、やはり吸血行為をしないといずれ干からびて死んでしまう。
その為には提供者から血を買う為の金が必要だ。
だから仕方なく働いている。
吸血鬼の朝は早い。
そして戦いは既にもう始まっているのだ。
通勤ラッシュは地獄そのものだ。
ドアが開いた瞬間、椅子とりゲームが始まりそれに敗れたものたちが吊革や手摺のあるドア付近に固まるから結果として誰もいない通路の真ん中しか空いていない。電車が揺れる度に寄っ掛かるものがないから常に重力負けしないようつま先立ちだ。
何故かいつも引かされる貧乏クジ。
しかしこの時ばかりは此所で良かったと思う。
目の前で女子高生が痴漢されている。
ニュースで見たことはあるが実際この目にするのははじめてだった。
50歳くらいのサラリーマンが女子高生の後ろでもぞもぞ手を動かしている。
満員電車でもわかる。
そして気づいているのは俺しかいない。
よし、と勇気を振り絞ってサラリーマンに声をかけた。
「アノッ」
「ん?」
もぞもぞ動かしていた手を止め俺の方にその中年サラリーマンが振り向いた。如何にもな感じの男だった。
「アッ、イマ、ミテタンデスケド……」
「あ?何を」
正直こわい。このおっさん睨んでくるんだもん。
お前言ったらどうなるかわかってんだろうな、という無言の圧を感じる。
このままじゃ俺が第二の被害者になりそうだ。
しかしそれに負けじと俺は言葉を紡いだ。
「ダカラ、ソノ、チカン……シテマシタヨネ?」
最後の方は疑問系になってしまったがちゃんと言えた自分を誉めてやりたい。
そのおっさんは更に俺を睨み付け舌打ちすると次の駅で降りていった。
あ、話すのに夢中で捕まえるの忘れていた。
逃げたおっさんを追うべきかどうか迷っているとおっさんに痴漢されてた女子高生が「ありがとうございます」と頭を下げて感謝を述べた。
ああやっぱりいいことするのって気持ちがいいな、と達成感に浸っていると急にその女子高生がセーラー服を脱ぎ始めた。
「エッエッエッ」
慌てて静止したがそれでも着替えを続けようとする彼女に車内は騒然とした。
もしかして吸血鬼だとばれたのだろうか。
お礼に血を吸ってくださいっていう女子高生の妄想で頭の中がパンクしそうだった。
そして指で隠した目をおそるおそる開くとそこには女子高生ではなくサラリーマンが立っていた。
「助かりました~本当に痴漢多くて困ってたんですよ。あっ女装は趣味です~。普段は男なんで」
そう言って大きな鞄に制服を入れて彼は颯爽と電車を降りていった。
詐欺だ……。車中にいた男どもは皆うなだれた。
魔都東京。ここは人の欲望渦巻く街。今日も俺はより多くの血を吸うべく、馬車馬のように働いています。

人のよすぎる吸血鬼②

人のよすぎる吸血鬼②

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-08-31

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