夏祭りにて
ディックとリックが夏祭りに行くお話です。FF8二次創作です。
夏祭りにて
とある夕方、リックからメールが届いた。ディックは本を読むのをやめ、スマートフォンのメールを読んだ。
そこに書かれていた内容にディックは驚いたが、リックの誘いにのることにした。
待ち合わせ場所は、小さな丘であった。数分待っていると、
「兄上。メールの内容、驚きました? 私、ずっとこの催し物を楽しみにしていたんですよ」
リックはにっこりと笑った。そんなリックを見たディックは若干ながらも呆れた。
「リック……。お前がお祭り好きなのは知っているが、何もエスタの夏祭りに行くことはなかろう。お前は狙撃手。いつ命を狙われてもおかしくない、と自分で言っていなかったか?」
「それとこれとは別ですよ。私は夏祭りが好きです。縁日の食べ物もおいしいですし、射的は特に大好きですから」
そう言って、リックはディックの腕を引っ張った。
「兄上。行きましょうか、エスタの夏祭りに」
リックに腕を引っ張られたディックは、仕方がなくリックの後をついて行った。
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意外とエスタの夏祭りはディック、リックの実家、シーゲル家の近くでやっていた。夏祭りの音が近づいてくるたびに、リックの表情が笑顔になる。
「私はこういうほのぼのした風景が一番好きです。さ、兄上。何食べます?」
縁日に寄ったディックとリックは、夜店をぐるりと見る。
「私は焼きそばでいい。リック、お前は何を食べるのだ?」
首を傾げ、ディックが問うと、
「私ですか? 決まってるじゃないですか。りんご飴ですよ」
そう、誇り高き狙撃手、リック・シーゲルは甘党なのだ。俗に言う、スウィーツ系男子、という分類に入る。
「分かった。じゃ、私は焼きそばを買ってくるから、リックも買っておいで」
口角を緩めたディックがそう言った。
ディックは夜店の焼きそばの順番待ちをしていた。
「(長いな……)」
やっと順番が来た。と、そのとき。ディックは縁日の店主に、
「おや。あんた、大官僚ディック様にそっくりだねえ」
またか、とディックは思ったが、
「よく言われます。そんなに似てますかね?」
と適当に言いつくろっておいた。
ディックが夏祭り会場から少し離れたところで焼きそばを食べていると、りんご飴をほおばるリックがやってきた。
「聞いて下さいよ! 兄上!」
若干だがリックは少し機嫌が悪いようだ。
「どうした?」
ディックは持っていた箸を止めた。
「私のことを狙撃手だって言うんですよ? 今はプライベートの時間ですのに」
「誇り高き狙撃手、とまた言われたのか。私とて大官僚だと言われたぞ?」
ふう、とディックがため息をついた。
「今日は喪服を着ていないんですけどね」
確かに今日は、リックは喪服を着ていない。何せリックはオフのときに、喪服は着ない。
「まぁ、いいじゃないか。リック。お互いの肩書きを誇りに思おうじゃないか」
そう言って薄くディックが笑う。そんなディックをじっとリックは見つめる。
「兄上。それ、冗談で言っているんですよね?」
訝しげな目をリックはディックに向ける。
「ばれたか。だが、私は本当のことだと思っている。リック、お前ももっと自信を持っていいんだぞ」
「なんか兄上にそう言われると嬉しいです」
はにかんだ笑みをリックは見せた。リックの言葉を聞いたディックは、再び焼きそばを食べ始めた。それに習って、リックもりんご飴を再びほおばる。
「いいですね、兄上。プライベートっていうのは」
すでにりんご飴を食べ終わったリックが呟いた。
「さて、次は射的へ行きますよ」
再びリックはディックの腕を引っ張った。
射的屋へとやってきた。リックはディックに自信満々の笑みを見せる。
「さて、兄上。エスタ最高の狙撃手が撃ち落としますよ」
その言葉を聞いたディックは、軽くリックの頭を叩いた。
「痛いですね、兄上。いきなり何をするんですか」
「その名称を出すな。私達は一般人であって一般人ではない」
厳しい視線でディックはリックを見上げた。
「分かりました。ここではこれ以上言いません。じゃあ、射的をやりますか」
店主から射的用のライフルを受け取ったリックは、ゆっくりと標的を吟味し、標的を撃ち落とした。周りから拍手が来た。
「すごいなあ、あんた。まるでエスタ最高の狙撃手、リックさんみたいだな」
店主のその言葉に、若干だが、リックの表情に影が落ちる。
「店主さん。私はリック・シーゲルが嫌いです。あの男はエスタの殺戮者です」
「こら、それ以上言うな!」
ディックが腕を組みながら、リックを見やった。
「何です?」
「自分に自信を持っていいとさっき言ったばかりだろうが」
リックが口元を歪めた。
「まぁ、そうですが……」
そこでぱっとリックは急に笑顔になり、
「兄上も射的、やってみます?」
リックから射的用のライフルをディックは受け取った。
ディックは慎重に狙いを定める。そして、トリガーを引いた。だが、撃ち落とせたのは、近くにあったマスコットだけであった。
「兄上は相変わらずですね」
リックがくすくすと笑う。そんなリックを見たディックは若干しかめっ面で、
「私には狙撃ライフルは似合わん。いつもの銃がいいのだ」
そっぽを向いてしまったディックに、リックはさらに笑う。
「まぁ、兄上にはアダムとイヴがありますからね。何せヘイルンジャンと作りがまったく違いますから」
そう、大官僚でありながらもディックは、二挺拳銃アダムとイヴをメインに使用する。ちなみにこの銃はディックのオーダーメイドである。
「さ、行くぞ。リック」
今度はディックがリックの腕を引っ張った。
二人は、エスタ市街地が見える丘へとやって来ていた。リックは地べたに座りながら、立っているディックを見上げた。
「兄上。先ほども言いましたが、プライベートっていうものはいいですね」
「そうだな……」
ディックはそう呟くと、夜空を見上げた。満天の星空だった。
「私は兄上とこうやって、いつまでこの満天の空を見上げていられるのでしょうね?」
意味深なリックの言葉にディックは驚いた。
「どういう意味だ、リック?」
「私はこう見えてもエスタの狙撃手。言葉は悪いですが、殺し屋です。私が人を殺すこともあれば、その逆ももちろんあります。だから、今の時間を大切にしたいと私は思っているのです」
そこまで言って、ふうと息を吐くと夜空を見上げた。
「リック」
ディックが弟の名を呼んだ。
「何です?」
「お前には、私がいる。私がいる限り、絶対にお前を死なせない」
ディックは真剣な表情でリックを見つめた。
「ですが、兄上。兄上は大官僚であって、私は違いますよ」
リックが小首を傾げた。
「そういう意味で言ったんじゃない。もしリックが死んでしまったら、私は……」
そこでディックの言葉は詰まってしまった。ディックの言葉を聞いたリックは急に立ち上がると、ディックの肩をぽん、と叩いた。
「兄上の気持ちは嬉しいです。が、私はプロです。そう簡単に殺されたりしませんよ」
リックは笑って言ったつもりだったが、ディックの瞳から涙が一筋零れていた。
「兄上? どうしたんです?」
するとディックはぐい、とリックの肩を掴み、
「リック! お前は死ぬのが怖くないのか!? それに、リック。リックの命はリックだけのものじゃないんだぞ?」
「やだなあ、兄上。私に子供はいませんよ」
「そういう意味じゃない!」
ディックは思いきってリックの頬を平手打ちした。リックが赤くなった己の頬を押さえている。
「すまない、リック。リックの命は、私の命でもある、と言いたかった」
首を傾げ、リックが、
「私の命が兄上の命? どういう意味です?」
「私とリックは双子の兄弟。つまり、一心同体なのだ」
ディックが腕を組み、リックを見上げた。
「何か、兄上にそう言われると嬉しいです、私は」
「私がリック、お前を丘に誘ったのは、それが理由だ」
きっぱりとディックが言った。するとリックは小さく微笑み、
「ならば兄上。今日だけは兄上ともう少し一緒にいたいです。シーゲル邸へ行ってもよろしいでしょうか?」
ふ、とディックは笑い、
「いいに決まってるだろう。お前の実家じゃないか。何も遠慮することはない」
そう言って、再びディックはリックの腕を引っ張った。
「兄上。何も腕を引っ張らなくても……。でも、兄上の楽しそうな表情が見られてよかったです」
兄ディックに聞こえないほどの小さな声で、リックが呟いた。
おわり
夏祭りにて
やっぱりリックさん仕事について悩んでたりするんですね…。まぁ過酷な仕事ですからね。兄であるディックがリックを心配するという…。
それにしてもこの兄弟は仲がいいですね。