夏終わりの散歩

八月の終わり、ようやく涼しくなりました。

夏の終わりごろ、ようやく涼しくなったので、私は散歩に出た。

やっと涼しくなったな。母とそう話した。

夏の中身はほとんど読書とブログ更新に費やされた。
私はやっと初秋か、と思い、犬を連れて散歩に出ることにした。
犬は賢いもので、暑い時期はずっと家にいたがったが、こう冷えていると分かるらしく、久しぶりの散歩に喜んでいる。
私は家を出た。

むむ、意外と日光は強いぞ。
でも風があって歩けるな。私は商店街を目指すことにした。
湯里の前から、針中野に入り、針中野の鍼灸院のある通りを抜けて、突き当たりの居酒屋で左に折れる。
途中神社を兼ねた大きな禅寺があり、早朝説法を聞かしてくれるらしいが、行ったことは無い。
ここはいつでも涼しげだ、そう思いながら、針中野の町中に入る。
中にある家はどれも塀の高い日本家屋で、私は「磯野浪平さんの家みたい」と思いながら、ある畑を見てそこの主人と話したことがあるのを思い出した。
今は暑さにやられて、野菜がお辞儀している。
私はそこも通り過ぎ、商店街に入った。

入る手前に、卍のマークの屋根があり、勝手に「胡散臭い神」と私が呼んでいるお地蔵さまが祭られている。
なんか詐欺じゃね?と思ったのが始めで、それを言いだせばどこだってお金は取る。
今日は参拝者さんがいたので、「おや、意外と・・・?」と思い、思っただけで靴屋の店先の安い便所スリッパを眺め、「CMとかだと可愛く履いてるよな」と、今後便所スリッパを履く機会があるか自分に聞いてみたが、「流石に便所スリッパはないわー」との返答をいただいた。おじさん方が友人同士で店先に座って会話しながらこちらを眺めている。犬が可愛いのだろう。

今日は火曜日、商店街は休みだ。
しかし出店はあり、開いている店もある。
ある店の前では優しそうなお姉さんに微笑みかけられ、犬は魔女の宅配便のジジみたく、ちょこちょこと足元を歩き回っている。
ときどき注目を受けたり、なかったり。
皆元気で、店のサービス精神なのだろう、シャッター前に簡単な椅子を出し、お婆さんに「店まだ開いてませんけど座りますか」など親し気に声をかけたりしている様子を見て、「これが商魂」と感心した。お婆さんはよたよたとそちらへ歩いていく。快活な若者は弁も立ちそうだ。

いつも切れのいい寅さんよろしくな売上口上を叩いている八百屋さんが、段ボールに野菜をたっぷりと並べ、「はい安いよ安いよー、買ってってー!」と叫んでいる。お客はそれに釣られ、というかその元気さには何か応援したくなる節がある。それに釣られてか、列をなして並んでいる。
きっと野菜も質がいいのだろう。

さて、最後の和菓子屋の前を抜け、いつもの女の人が「いかがですかー」と平成版おそ松くんのトト子ちゃんみたいな口調で売りこんでいるのを聞き流しながら、銀行の前に来た。
涼しい風が吹いて、ふいー、と息を着く。母親が自転車に乗り込もうと、女の子を抱き上げている。麦藁帽が小さく、手足が可愛らしい。
信号の真向いの通りは日差しの中で、「うわ、暑そう」と思い、自然陰のある右に折れた。
ノルウェーウォーキングをしているご婦人が頑張っている。
居酒屋の看板の陰では不良少年と少女が座り込み、もう一つの商社マンがよく使う銀行からはその商社マンが半袖のシャツ姿にネクタイで出てきて、偉そうにするでもなく、生来の気質なのだろう、男らしく肩をいからせて歩くのをひらりと避けながら、「この世はホルモン鍋のごとく、キャベツもいれば肉もいて、筍もいればえのきもいる」と訳の分からない感慨を持った。

駒川を渡り、また影を歩こうと踏み出すと、うちの子にそっくりなダックス君が二匹、笑い顔でとても元気そうなおばさんに連れられている。
わあ、と思い、お互い顔を見合わせて「こんにちはー」と笑いあうと、おばさんが「十四松君と同じやな、なあ!」と笑いかけてくる。
どうやら都会の人のびっくりあるある、大人が漫画知ってるバージョンに出会ったらしい。
私はよく近所のことなどブログに書いてしまうので知っている人は知っており、それでこの人も私が十四松っぽいというのだ。
うーん、もし本当だったら嬉しいかも。
私は勢いに任せて、「可愛い!」と犬に言い、ノリに任せて笑って別れた。
そういや私はいつもクロックスに、オレンジのTシャツを好んで着る。
確かに、あのキャラのイラストと似てなくもない、か?とファンに怒られそうなことを思う。
いや、あのおばさんが言ったんですよ、私は言ってませんよと、謝っておく。

それから家に帰るまで、ビル群を歩いていたら、前方に土建屋の兄ちゃんたち発見。
からかわれるな、確実に。
私は進路変更した。暑いから、もう疲れるし、飽きる。
私はぐでんぐでんとした歩き方をしだし、それを見たご近所の主婦の人たちが「あれ面白い」と、久々に私と犬を見たという感じでどこか親しみのある笑い方をして逃げていく。

私は怒られるよりは笑われた方がいいやーと思い、家の前までくると隣のDIYのできるイカした爺さんが車の前を弄っており、「おはよーございます」と挨拶し、「はい、おはよー」と返されて、ようやく家に着いた。
犬のバンダナを取り、首輪も取って水風呂に投げ込む。
拭いてやってから放り出しておいたら、ぐねんぐねんとうねっていた。

私はそんなに良い奴じゃないが、お天道さんは昇るらしい。

そんなことを思い描きつつ、久々に外に出た感動を忘れないうちにここに記しておく。

2016.8.30

夏終わりの散歩

やっと外に出られたー、こう書いたら怒られるかな?

夏終わりの散歩

八月の終わり、やっと涼しくなったので、私は散歩に出ることにした。 人々の息遣いにただただ感動する。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-08-30

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted