RE:モニターを閉じろ
ある日届いた、謎のメール。ちょっと手直ししました。
私は主婦ブロガーで、最近大変忙しくしている。
今から書くのは、ありきたりな話かもしれない。
しかし、俺が今伝えたいのは、過去に俺が犯した過ちであり、それによって失われたのが何かということだ。
お前にとって、この世界は残酷か、或いは退屈かのどちらかだろう。かつての俺もそうだった。
しかし、お前が今モニターに向かっている間、赤ん坊のお前を見る視線を何度見逃した?
犬が足元に擦り寄る意味を考えたか?
昨日の俺との会話を覚えているか。
お前が損なわれてるんだよ、俺たちの生活から。
お前一人、大事な場面で、上の空だ。
電子世界のことばかり考えて、お前は目の前を見ていない。
やがてお前は全てを忘れ去るだろう。
こちらに戻ってこなくなるかもな。
だから言う、引き返せ。
モニターを今すぐ閉じて、赤ん坊の様子を見ろ。
犬のエサ皿に餌を盛り、水を替えて病院に連れて行け。
いいか、永遠に失われる前に、これは忠告だ。
だからお前を、ここから追い出す!
最後まで読むと、バチンと音がして、犬が電源を抜いてしまったのがわかった。
赤ん坊が泣いている。犬の目に光がない。
私は急いで立ち上がり、赤ん坊のおしめを換え、犬に水を飲ませ、どうぶつ病院へ連れて行った。
コミュニケーション不足ですね、と言われて、私は俯いた。
あの不思議なメールの差出人は、私のサイト訪問をしていた流れのブロガーで、そのサイトを見てもなんの記事もアップされていない。
ただ、自己紹介にあまりネットは好きではないと書かれてあった。
私はそれから、気味が悪くてネットを一切やめた。
もっと夢中になるべきものを見つけたのだ。
私は犬を走らせながら、ベビーカーを押して公園を歩いた。
日差しが眩しい。噴水の水が気持ちよかった。
帰宅すると、主人がまた料理をしながら、おかえりと笑った。
すっかり主婦業が板についてしまった主人を見て、私はバツ悪く、ただいまと笑い返した。
リードを離してやると、犬が喜んで私の顔を舐めた。
ネットを止められたのは、半ばこの子のお陰でもある。
私はよしよしと頭を撫でた。
ふと、「昨日の俺との会話を覚えているか」という一文を思い出し、私は誰もいない我が家を思い出し、なんだか寒くなった。
夫は私が昼間ネットに依存していたことは知らない。
じゃあ、誰が。
そう思ったとき、犬が足にすり寄ってきた。
どうしたの、と足元を見ると、犬はドングリ眼でじっと私の目を見てきた。
うるんだ目が、とても愛くるしいことに気づいたのは、ネットを止めてごくごく最近のことである。
テレビを見ていた夫が、「新婚の妻が、ネット依存で子供を見殺しにしたんだって」と私に伝えた。
夫は意識して言ったのではない、しかし私は、背筋が寒くなった。
思わず、自分の子供を見る。
子供はすやすやと、気持ちよさげにベビーカーの中で眠っている。
そんな私を、犬がじっと見ていた。
ドングリ眼のうるんだ目で。
RE:モニターを閉じろ
まあ現実的ではないかと。